第12話 エマ式魔法の使い方

シズとエマは戦闘態勢に入る。シズは木刀を自分の前に構え、エマは腰に装備してあった短い杖を取り出す。


「いくよっ!!」


エマはそう言うと、シズとの距離を保ちつつ円を描くように走り出す。それと共に、呪文を唱え始めた。


「――――“ファイア”ッ!!」

「!!?」


杖の先から直径10cm程度の火の玉がシズに向かって飛び出してくる。シズは当たれば火傷じゃすまされないほどのその弾を身軽に避け、反撃に出る。

木刀を引きずるように下げ、上に向かい斬りかかる。


「そんなんじゃ当たらないよ~。 ――“ファイア”!」

「あぶなっ!!」


エマが避けながら放ったファイアが頬をかすめる。シズは様子を見るため、距離を一旦とる。

ステータス上ではシズの方が勝っているのだが、獣人種というものは危機管理能力に長けていることもあるので、簡単に避けてくる。それに加え、猫種ということもあり、その能力はLv.01とはいえ侮れない。

どちらも当たれば、ほぼ再帰不能に陥る攻撃に緊張が走る。シズは、単一の攻撃では勝てないと感じ、連撃を用いることにする。


「ふんッ!!」


初撃はまたも避けられる。エマは先ほどと同じで、魔法の詠唱に入る。シズはそれを予想していたので、続けて二撃目を放つ。

詠唱に夢中になっていたエマは、それを避けきれずに腹部に命中する。


「ぐふぅっ……」

「やった! 当たった!」


宙に浮きあがるほどの衝撃にもエマは耐え、空中で体勢を立て直し着地する。血は吐いていないので、中まではやられていないようだ。

だが、腹部をやられたことにより呼吸が荒くなり、詠唱することができない。


「どうする? もうやめとく?」

「い……いや、ま……だいける……」


腹部を両手で抑えながら必死に堪えている姿を見る限り、限界は近いと感じるが彼女の心意気を買い、シズは再度木刀を構える。

そして、そのまま先ほどと同じ手に出る。


「ごめん」

「いや、おっけーだよ!!」


ぺキッ


木刀を振りかざそうとした瞬間に、エマが杖を真っ二つに折る。その折れた二つの杖を両手に握ると、横に一気に飛び出しシズの攻撃をかわす。

先ほどの腹部の痛みは嘘かのように軽快に動き始める。それを見たシズがあることに気づく。


「そっか、回復魔法か」

「大正解! でも何で知ってるの?」

「内緒だよっ!!」


シズは再度踏み込む、今度は冗談に木刀を構える。エマは一向に動こうとせず、両手を胸の前までもっていき、格闘技でもするかのような構えをする。

シズは警戒しつつもエマに後方に回り込み、後ろから斬りかかる。


「もらった!」

「っと思うじゃん」


振り向いたエマの両手は赤く燃えており、炎の拳となっていた。彼女が初めに会ったときに接近戦の訓練をしていたのはこの為である。だが、それに気づいた時にはすでに遅く、避けようにも避けれない。

エマは、左の拳を木刀に目がけ放ち、簡単に焼き折ってしまう。


「うそ~!」

「これで―――」


エマが右の拳でシズに撃ち込もうとした時、エマはそのまま前に倒れ込み、シズにもたれかかる。


「エマ……?」


何度揺さぶっても反応がなく、完全に伸びきっていた。すると、いつの間にか隣にいたミラが観察眼を発動するとともに、エマの首元に触る。そして、ミラは何かを確認すると、そのままスッと立ち上がる。


「魔力切れだね」

「魔力切れ……?!」

「そっ。 魔法の使い過ぎってこと。 まあ気絶しているだけだから、魔力が回復すればそのうち目を覚ますよ」

「よ、よかった~。 死んじゃったかと思ったじゃん」

「シズお姉ちゃんは大げさだね~。 特に致命傷もないのに死ぬわけないよ」


シズはその場に座り込む。シズとエマとの戦いを遠くで見ていたワイアットが、他の魔法使いと共に駆けつけてくる。


「おいおいやりすぎじゃないのか。 おいお前ら、早くこの子の手当てに!!」

「「「はい。」」」


魔法使いの人たちは、エマを担架に乗せつつ回復魔法をかける。そのままエマと魔法使いの人たちは訓練場を出ていった。

そして、それを見送るとワイアットがシズの前に立つ。


「ほらよ」

「ランクD……」


ワイアットから渡されたカードには、冒険者ギルド発行の判子とワイアットのサイン、シズの名前が書かれており、真ん中に『Rank.C』という文字がでかでかと証されていた。

ランクがどれぐらいが高いのか分からないシズは、眉にしわを寄せワイアットに質問をする。


「これって低いの? 高いの?」

「下から2番目だ」

「えっ! 低っ!!」

「馬鹿か! 初めてでこのランクなら上出来なんだよ!! 普通ならEランクからだっつーの」


そうは言っても、シズの中ではもっと戦えていた感はあったので、あまり納得はいっていなかった。そして、ワイアットはミラにも同じカードを手渡す。

ミラはそれを見ると何も表情に変化を示さず、そっとポケットの中にしまった。


「ミ、ミラちゃん……ランクはいくつだった?」

「聞いてもガッカリしない?」

「たぶん……」


ミラの言い方からすると、シズが落ち込むようなランクの高さだとは理解できた。ミラはしまったばかりのカードを再び出し、シズに裏向きで手渡した。


「んなっ! ランクSS……!? お父さんこれって……」

「最上級の一つ前だな」

「なんで?!」


ワイアットは訓練場の真ん中らへんを指差す。シズを恐る恐る見やるとそこには衝撃の光景が映し出されていた。

訓練をしていた何十もの冒険者や騎士たちが全員倒れている姿だ。シズはエマとの戦闘に集中していて気づいていなかったが、その間にミラは全員倒してしまったらしい。

すると、ワイアットが腕を組み簡単に説明をする。


「凄かったぞ~。 誰にも相手をしてもらえずに怒ったミラちゃんは~。 一瞬にして凄腕の奴らみんな一瞬でやっつけちまったんだからな。 流石はか―――おっとこれは言っちゃいけないんだっけか」

「にしても私も見たかったー!」


その後はミラが医療班に回り、自分で倒した人たちを一人一人治療に当たった。その間にシズは自分の対戦相手のエマの所に行き、安否を確認していた。エマも大事には至っておらず、すぐに起き上がりその場を後にして帰ってしまった。

しばらくすると、トゥカが噂を聞きつけギルドへとやってきた。


「シズ! 何かギルドが全滅したって言う話を聞いたんだけど……」


どうやら噂は悪いほうへ広がっていたようで、シズは間違った噂について説明する。


「何その怖い噂っ! 全滅じゃなくて、ミラちゃんが訓練場にいた人を全員倒しちゃっただけだよ!」

「え、ミラちゃんってあの……??」

「そうそう。 今は倒したみんなの治療に―――」

「もう終わったよ。 あっ! トゥカお姉ちゃん!!」


ミラはまたいつの間にかシズの隣にいた。音もなくやってくるので、シズはいつも驚いてしまう。

そして、ミラはトゥカに歩み寄ると尻尾を触り始める。


「ちょっ! ミラちゃんやめてってば~」


シズとは違う反応に少し妬いてしまう。負けじとシズもトゥカの尻尾に抱き着こうとする。


「シズはダメ」

「えぇ~何で~!」

「汗臭いから臭いついちゃうでしょ!」

「そんな殺生な~」


そんなこんなで揃った三人は今日の用事が終わったことを確認し、仲良く家に帰ることにした。

最後にシズの父ワイアットに挨拶をしようと思ったが、仕事で既に出かけたとのことで手紙だけ残していった。後にトゥカが来たことを知ったワイアットはとても悔しがるのだった。

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