第11話 ランク付け訓練

シズは父親のワイアットに、隣にいるミラの紹介を兼ねて今まであったことを端的に話した。勿論、睡眠学習のことは特殊ユニークスキルとして表現を濁してだが。


「っと簡単にまとめるとこんな感じかな。 だから、ミラちゃんは私と行動しているの」

「なるほど……。 まあ、その特殊スキルとやらに興味がなわけでもないが、今はまだ聞かないでおこう」


一応、ワイアットは色々と疑問に思いながらも納得はしてくれた。そして、扉の近くにいたメイに何やらハンドサインを送る。


「はい。 ただいまお持ちいたします」


そういうとメイは部屋から出ていった。


「何か持ってくるの?」

「冒険者の申請書と鑑定書だ」

「ん? 申請書は分かるけど、鑑定書ってのは?」

「はあ~。 そんなことも知らずに来たのか?!」


世間知らずすぎる娘に、ワイアットは呆気を取られる。そして、その大きな手で自分の顔を半分覆うと、残念そうな顔をしながら、説明してくれた。


「鑑定書は個人のステータスを確認できるアイテムだ。 血を一滴紙に落とすことで見ることができる。 冒険者になるには、その鑑定済みの用紙と申請書の2つ必要なのだ。 ちゃんと調べてからこい!」

「あはは、ごめんなさい」


軽い説教を受けたシズだったが、これと言って気にしていない様子。その後も少し話を聞いたところ、自分のステータスで表に出したくないことは、後から加筆しても良いのだそうだ。だけどそこは自己責任になるらしく、国から疑われれば申請が通ることはなくなるので、滅多にしないとのこと。

そして、鑑定書について粗方聞き終わったタイミングで、メイが戻ってくる。


「お待たせしました~。 ちょっと前失礼しますね」

「荷物多いですね……」


シズとミラ用の紙を合わせて4枚程度だと思っていたシズは、メイが持ってきた荷物の量に驚く。

申請書と鑑定書らしきものはすぐに分かるが、他の道具を何に使うかが分からなかった。ミラも同じ反応で、机に置かれた道具に興味をそそられる。


「なんだこの受け皿は?」


ミラは小さな皿を手に取る。特にこれと言って特徴のないその皿は3枚もあった。

そしてワイアットも、その皿を手に取り自分の前に置いた。


「これは血の受け皿だ。 申請書の拇印などで使う」


生々しい“血の受け皿”という単語に、シズとミラは青ざめる。血は鑑定書の時に一滴だけだと思っていたから尚更だ。


「えぇ! こんなに血を流さないとだめなの?!」


するとワイアットは自分の膝を叩きながら爆笑する。


「はっはっは!! 今から冒険者になる奴が何を言うか!! これからもっと血を流すことになるんだから気にするな」


ワイアットはそういうと、手のひらをメイが持ってきたナイフで軽く切り、皿に半分ぐらいまで入れる。それを見たシズは、父親に馬鹿にされたことが悔しくて、ナイフを手に取り勢いよく手のひらを切る。


「いったーーー!!」

「おいおい、切りすぎなんじゃねぇか……」


明らかに血の量が多く出て、必死にこらえながら皿に血を溜める。血は皿に溢れんばかり入った。

すると、それを見据えたミラがシズの手を握り、何時しかに見た緑色の光が手を覆う。自然と痛みが引き、手のひらを確認すると傷が当た方もなく治っていた。


「ありがとうミラちゃん!!」

「き、気にしなくていい」


シズはミラに抱き着くと、ミラは頬を赤くし照れていた。ミラはそのまま自分の手を指でなぞり、一本の傷をつけると適量の血を宙に浮かせ、それを皿へと移した。


「ほお。 さすがミト様の娘といったところか」


それをみたワイアットは改めてミラを尊敬する。そして、二人は用紙に必要事項を書き留め、それをワイアットに渡す。ワイアットもそれを事細かに確認し終わると、用紙をそのままメイに受け渡す。


「ようし! これで国への申請は完了だ。 あとはギルド内で冒険者のランクを決めるから、ついてきな」

「え、まだあるの?!」

「当たり前だろ~。 といってもこれで最後だ」


どうやら冒険者には申請し登録されれば問題ないとのことで、そこからはギルドの管轄になるらしく、ギルドでは冒険者にランクを付けているようだ。このランクによって、受けられるクエストや報酬が変わってくるとのこと。

二人はワイアットに付いて行き、5階から地下1階へと階段を下りて行った。そして、大きな広間に出ると、そこは訓練施設の様で何十人という冒険者や騎士たちがいた。


「さあ! 好きな奴と戦ってこい!! それでこちらが評価を下す」

「え、ええぇぇえ!!」

「わかった」


シズは驚くものの、ミラは淡々としていた。突然の戦闘。それも自分らより先輩の人たちと戦わなくてはならないのだ。

ミラはシズの袖を引っ張ると、耳打ちをし提案する。


「観察眼で自分より下の者を見つけると良いよ」

「あ、そっか。 その手があったね。 ありがとうミラちゃん」


シズはミラに言われた通り、観察眼のスキルを発動する。そして、こちらを凝視する先輩たちを一人一人ステータスを確認する。9割り以上の人たちのステータスはほぼ見えなく、ほんの数人だけステータスが見えた。


「あ、あの人ならいけるかも……」


シズが見つけた人は、シズとトゥカと同い年の獣人の少女で、同じ日にスキルを譲渡してもらった子だ。

シズが見たステータスは以下の通り。


【エマ・カラドニクス】

職業:冒険者

種族:獣人種(猫) / 年齢:15 / 性別:女

Lv.01(上限Lv.99) / Exp:045 / 100

HP:90 / 98 MP:87 / 122

STR:28 ATK:20

DEF:15 AGI:34

LUK:21

所持スキル:『初級魔法Lv.01(上限Lv.10)』『初級回復魔法Lv.01(上限Lv.10)』


見るからに魔法使いのエマは、少し疲労しているようにも見えたが、接近戦の訓練をしていた。シズは思い切ってエマに戦闘の申し出にでる。


「訓練中すみませ~ん。 あの、わたしと―――」

「いいよ!」

「まだ何も言ってないよ!! あっ……」


あまりの即答ぶりに思わず突っ込んでしまう。だけど断られなくてよかったという喜びもあり、シズは少し照れてしまう。


「私、エマっていうのよろしくにゃんっ!」

「……えーっと」


可愛く手を丸めて自己紹介してくれたエマに見とれて、微妙な反応をしてしまう。シズとエマの空間だけ静まり返ってしまい、エマはそのポーズのまま動かなくなってしまった。


「か、かわいいですね」

「あー、うん。 ありがとぅ……」


トゥカと同じで耳と尻尾で感情が分かるシズは、エマの耳と尻尾を見て、照れているとすぐに分かった。見とれてしまいそうなその可愛らしい姿に、思わず抱き着きたくなるシズだったが、必死にこらえる。


「あ、ごめん。 まだこっちの紹介がまだだったね。 私はシズっていうの。 今日から冒険者になったんだ」

「へぇ~! それじゃあ私の方が1日先輩なんだ……あっ、にゃんっ!」

「別に無理に言わなくてもいいですよ」

「わかった……はぁ~、キャラ付け失敗かな~……」

「(可愛いとは思うけどね)」


無理に自分のキャラを作ろうとするエマは、肩を落とす。だが、すぐに気を引き締め顔を上げる。


「でも今日からってことは私と戦闘訓練で、ランクの評価決めるってことだよね?」

「そうそう! 早速だけどお願いしてもいいかな」

「それじゃあもうちょい向こうでやろうか。 私魔法使うから、他の人がこんなに近くにいるとやりずらいんだよね」

「おっけ~」


シズとエマは訓練場の奥の空いているスペースに移動する。その際にシズは、訓練場の壁に立てかけてあった木刀を手にする。

ミラはというと、まだ対戦する相手を探しているようで、訓練場をうろうろしていた。それもそうだ。あんな小さいこと戦おうという人など少ないであろう。


「それじゃあ、始めようか!」

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