第12話 対ドラゴントラップ
森の奥から今度は口笛が聞こえる。
それは高くそして次には低く何かの旋律を奏でるように響く。
「イザークからです、ドラゴンがこちらに向かっていると言っています。この辺の木立をなぎ倒した部分は奴が作った道なんです。ここで迎え撃ちましょう。」
貴史は持っていた邪薙ぎの剣を抜く。
「あ、シマダタカシの旦那の出番はもう少し後ですぜ。まずあっしたちがトラップを仕掛けて奴の足を止めます。」
リヒターが顎で示すと、ホルストがワイヤーの束を抱えて走り始める。
「ドラゴンがあそこにある倒木をまたぐあたりにホルストがワイヤートラップを仕掛けます。それで足を縛り付けることにしやしょう。」
ホルストは近くにあった大きな木にワイヤーを止めると倒木のこちら側にザクザクと大きな穴を掘り始めている。
「次におとり役です。見たところヤースミーンさんが一番おいしそうに見えるので、倒木の向こう側に行って、そこでドラゴンに一撃しかけてからトラップのラインを超えてこちらまで逃げてください。」
「ひどい。」
ヤースミーンは両手を握りしめて口のあたりにあてている。
「あっしが何か悪い事いいやしたか。」
リヒターは怪訝な表情をした。
「私が丸々と太っておいしそうだから、餌にするって言ってる。」
「誰もそんなこと言ってやせんよ。」
リヒターは困った表情でシマダタカシを見る。何とかしてくれと言いたげだ。
「リヒターはかわいらしいからおとりにいいと言っているんだよ。」
「そ、そうかな。」
貴史が歯が浮きそうなセリフでフォローするとヤースミーンはまんざらでもなさそうな表情に変わる。
「次に、トラップのラインの少し手前にワイヤーをつないだ矢を用意しておきやすから、それをクロスボウに装填してドラゴンに打ち込んでください。あっしも逆サイドから同じように打ち込むつもりです。」
「トラップとワイヤー付きの矢で動きを止めるわけだな。」
貴史が確認を兼ねて尋ねると、リヒターがうなずく。
「そうです。奴の動きを制限した段階で貴史の旦那が刃刺しとしてとどめを刺す。フリーで動き回っているドラゴンに跳びかかって仕留めるような離れ業をいつもしなくてもいいんです。」
貴史とヤースミーンは顔を見合わせた。リヒターの狩の技術はあてになりそうだ。
やがて、森の向こうから地響きがし始めた。
大型のドラゴンがこちらに向かってくる音だ。
「僕は何処にいたらいい?。」
「シマダタカシの旦那はトラップの手前側、ワイヤーをつけた矢を準備するあたりにいてください。そこでヤースミーンさんに支援魔法をかけてもらってから刃刺しの仕事にかかってください。」
ヤースミーンがクロスボウをかかえて、ホルストが穴を掘っている場所から倒木をまたぎ超えていく。
貴史とリヒターは岩陰に移動した。
リヒターは担いできたワイヤーを抵抗なく出ていくようにきれいに積み上げるとその先にクロスボウの矢をつないだ。
「ヤースミーンさんが逃げて来たらこれを使うように言ってください。」
リヒターはそう言い残すと森の中に消えていった。
貴史が岩陰から覗いていると、森の梢から頭を出してレッドドラゴンが近づいていた。
倒木に近づいたところでヤースミーンがクロスボウを発射する。
例によって、クロスボウはレッドドラゴンの急所に近いところに突き刺さり、レッドドラゴンの上げる咆哮は貴史の所まで響いてきた。
ヤースミーンは発射と同時にダッシュで逃げてくる。
逃げ足の速いヤースミーンはあっという間に倒木を超え、ホルストが作ったトラップを迂回して走ったが、トラップに気を取られたのか石に躓いてころんだ。
ヤースミーンがすぐに立ち上がらないので、物陰からホルストが走り出て助け起こすが、レッドドラゴンは倒木の向こう側まで来て大きな口を開けていた。
炎のブレスを吹くつもりだ。
貴史は岩陰から飛び出したが間に合いそうもなかった。
しかし、レッドドラゴンのブレスが、ホルストとヤースミーンの直前まで伸びた時、そこに青い光の壁が出現する。
レッドドラゴンのブレスは壁にさえぎられてヤースミーンたちは無事のようだ。
貴史は何かの気配を感じて横を見た。
そこにはキャンプに残っていたはずのララアが、青白い光に包まれて中空に浮いていた。
ララアは何かの呪文を詠唱しながら右手を上げる。
それと同時にララアの背後から光る球体が五つ頭上に上昇していく。
そして、ララアが気合と共に右手を振り下ろすと光る球体は光の尾を引きながらレッドドラゴンまで突進した。レッドドラゴンの体にぶつかると光の玉は小爆発を起こす。
「ゴガガアアアア。」
レッドドラゴンはララアの姿を認識して突進しようとする。邪魔になる倒木をまたいでスピードを上げようとしたときに、ホルストの仕掛けたトラップが作動した
バシッ
強力なスプリングで作動するトラップはレッドドラゴンの足首にしっかりと食い込んでいた。
突進しようとしていたレッドドラゴンは、トラップに足をとらえて派手に転倒する。
地響きが静まった時、ホルストとヤースミーンが貴史のいる岩陰に飛び込んできた。
「うまくいったぜ。」
「ララアありがとう。助かったわ。」
ホルストは得意満面だ。
ヤースミーンはララアに礼を言いながらリヒターが準備した矢をクロスボウに装填しようとする。
しかし、クロスボウが強力なので弓に装填するには相当な力がいる。
「ぐぬぬぬぬ。」
走って疲れているせいか、ヤースミーンはなかなかセットできなかった。
貴史は、この武器ってここが問題なんだよなと思いながら、ヤースミーンからクロスボウを取り上げると、クロスボウ付属の梃子の機能を使ってガチョンと装填してやった。
「ほい。」
「ありがとうシマダタカシ。」
貴史が装填済みのクロスボウを渡すと、ヤースミーンは発射後のワイヤーの経路を考えて、何回か立ち位置を変えてから射撃体勢に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます