第11話 ドラゴンスレイヤーズ出撃

「シマダタカシの旦那ドラゴンですぜドラゴン。あっしたちの獲物にしちまいましょう。」



いつの間に来ていたのか貴史の後ろからリヒターの声が響いた。



「リヒター、そう言いうけど相手は特大のレッドドラゴンでしかもマンイーターらしいよ。」



貴史は自信なさげにリヒターに言う。



「何を言うんですか。ドラゴンハンティングチームがドラゴンが来たのに指をくわえていたらおまんまの食い上げですぜ。今イザークを偵察に走らせやしたから、明日にはチーム本体も出発しやしょう。」



先だって捕獲したレッドドラゴンも小ぶりなものだったのでリヒターにとっては満足できる獲物ではなかった。



危険と隣り合わせの生活を好む彼らは平穏なギルガメッシュでの食客生活に倦んでいたようだ。



「何とか退治できるかな。」



「あっしたちの技と旦那の腕っぷしがあればたいがいのドラゴンは瞬殺できやすよ。心配には及びません。」



リヒターは胸を張った。



この自信はどこから来るのだろうと貴史は少々不安を覚えるが、この場面では背中を押してくれるものがいるのはありがたい。



「とりあえずこの兵隊を広間に連れて行こう。手当をしながらクリストに明日からのことを相談しなければ。」



「合点です。」



リヒターは軽々と兵士を肩に担ぐと城の中に運び始めた。



城の広間で、貴史の話を聞いたクリストはため息をついた。



「侵略者が真っ先にレイナ姫のコミューンに侵攻してきたとは、運が悪いとしか思えませんね。」



ヒマリア軍兵士の間ではレイナ姫は極めて人望が高く、かつてヒマリア軍傭兵部隊の隊長だったクリストも例に漏れないようだ。



「本当はレイナ姫の安否を確かめたいのですが、まずはドラゴンを退治して避難民の安全を確保しようと思います。」



貴史は暗に自分とドラゴンハンターチームだけ行かせてほしいと頼むつもりだったが、クリストは想定外の反応を示した。



「わかった。発掘部隊全員でドラゴン退治に向かおう。」



貴史は驚いて問い返す。


「いいんですか。相手はマンイーターのレッドドラゴンなんですよ。」



「ドラゴンにとどめを刺すのはシマダタカシだろう。手伝いに行くくらい私にとってはお安い御用だ。そして、遠征のオーナーであるタリーも状況を知ったら反対するとは思えない。」



クリストは立ち上がると広間の奥に積み上げてある食料パックを示した。



「これまでに掘り出した食料パックは隊商たちに頼んであらかたギルガメッシュに運ばせたが、今日掘り出した分はこの通り残っている。これをキープして避難民の食料にあてよう。雨露がしのげるから当座の避難所としてはここがベストだ。」



「それでは、明日はドラゴン退治に出発するんですね。」



足もとからララアが問いかけた。彼女は発掘が始まってから少々退屈していたのだ。



「もちろんだ。早くしないと避難民がドラゴンに食べられてしまう。」



貴史が告げるとララアは嬉しそうな表情を浮かべた。



翌日、貴史たちはキングパオームの城を後にした。



ヒマリア国には短い春が訪れ、森や草原には新緑が目立ち始めていた。



南へと続く草原を超え森に入った一行は昼近くまで進んでその日の宿営地を決めた。



そしてクリストやヤンが荷物を解いてキャンプの準備を始める。



貴史とリヒターそしてヤースミーンはドラゴンの姿を求めて、その痕跡を探し始めた。



「リヒターさん、なんでララアまで連れてきちゃったんですか。」



「仕方ありませんよ。付いてくると言ってどうしても聞かないんですから。」



その時、貴史の耳にかすかに鳥の鳴き声のような音が聞こえた。



「聞こえやしたか、シマダタカシの旦那。イザークが何か見つけたみたいですぜ。」



「行ってみよう。」



貴史たちが音が聞こえた方向に足を速めて進むと、森の中に木立が途切れた空間が現れた。



貴史はすぐにその場所がドラゴンとレイナ姫のもとに集っていた兵士が戦った現場だと気が付いた。



その辺りで数本の大木が根元からなぎ倒され、周辺にはヒマリア軍兵士の装備品が散らばっていたからだ。



「こいつを見てくださいシマダタカシの旦那。兵隊がつけていた装備や服が強い力で引きちぎられているでしょう。これはマンイーター化したドラゴンの仕業でやすね。」



「どうしてわかるんだ。」



貴史は無残に引きちぎられて地面に散らばった兵士の服や防具を眺めた。その中には剣や

メイスなどの武器も混じっている。



「ドラゴンっていうのは、もともとは獲物の皮をはいだりしないでほとんど丸ごと飲み込むものなんです。そして、胃の中で消化しきれなかった骨なんかはペリットと言って、一つの塊にして吐き出すんです。」



貴史はドラゴンに食べられた犠牲者の骨がまとまって吐き出されている様子を思い浮かべて少し気分が悪くなった。



「ところが、人ってのは衣服をつけているし、硬い剣なんかも持っている。その手の物はドラゴンの胃の中でも消化されないので、奴らも何度か体調不良になるうちにそれが原因だと気が付くわけです。」



貴史は地上に残る遺留品に目をやった。



「それでは、この装備や服は食べる前にドラゴンが取り除いたものだと言いたいのか。



「そのとおりです。」



「いやだわ、私食べられる前に服をはぎ取られるような死に方はしたくない。」



ヤースミーンがボソッと言う。



「いやいや、そもそもドラゴンに捕まって食べられてはいけないよ。」



貴史は小声で突っ込みを入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る