epilogue ─Atmosphere─



「ちょっと、そこは"大化の改新"じゃなくて"乙巳の変"! この前教えたでしょ」


「わぁーってるよ! ていうか悠ってこんなスパルタだったっけ?!」


「美亜が同じ大学行くっていうから勉強教えてやってんだろ? 感謝しろ!」


「ありがとうございますぅぅぅぅ!」



 美亜は休学扱いになっていた中学を、猛勉強の末、特例で半年で卒業。今は高卒認定を取るために僕の高校の時の教科書だったり、参考書だったりと向き合う日々。

 ──まぁしっかし、美亜は日本史が弱いこと弱いこと。僕は根っからの文系だからか日本史はそんなに勉強しなくても点数取れたんだよなぁ。



「あー、もう勉強したくない!」


「僕あと3年しかないぞ、そんなダラダラしてたら卒業しちゃうけど?」



 それどころか、今は1年だからまだいいけど就活始まったら流石に美亜の相手なんかしてられない。



「あー……もう諦めてさっさと悠のお嫁さんにしてくださいよー」


「……中卒の奥さんはナメられるぞ。つか独学そろそろ限界なんじゃない?通信制とか定時制の高校も考えてみたらいいじゃん」


「ううっ……今年中に取れなかったら定時制も考える……通信制は嫌だ!」



 なんでだよ(笑)別にいいじゃんか。



「別に……無理して同じ大学来なくてもいつも一緒にいられるように頑張るからさ……」


「えっ?!」


「まぁ……その、だからさ、ある程度稼げるようになったら、ね」


「歯切れ悪いなぁ! ま、しばらくは勉強頑張ってさ、そのうち私も稼げるようにならないとじゃない?」



 確かにを目指すなら一人で稼ぐより二人で稼いだ方がいいか。一理ある。



「……だとしても今どき中卒の採用どころか高卒の採用ですらほとんど無いんだから、まずはちゃんと勉強しなさい」


「へーい……」



 やる気なさそーに答える。本当に今年中に受かる気あんの?(笑)



「じゃあ僕午後から授業だから行ってくるね」


「え、マジで?! じゃあちょっと待って!」



 何やらバタバタとキッチンの方に走っていく。

 バタバタ、ガタン、ゴトン、カラララ、バシッ、ドンッ……バタバタバタバタバタバタ!

 ……何してんだ?(笑)



「いったぁ……あ、はいこれ」


「ん? お弁当?」


「そ、まだ今日食べてないでしょ? よかったら食べて。頑張って作ったから」



 はぁー、なんて可愛いんだ、僕の彼女最高かよ。マジで好き、愛してる。



「愛妻弁当だー」


「妻……はやく悠の嫁にしてくださいよ」


「……善処します」



 就活頑張らないとな、まずはちゃんと大学卒業出来るように単位取らねば。

 をカバンに詰め、古びたアパートの玄関でトントン、と高校の時から愛用しているスニーカーを履く。



「行ってくるね」


「んー」


「なに? あー……はいはい」



 行ってきますのキスをしろ、とな(笑)僕は髪が伸びたけれど相変わらず猫毛な彼女の頭を後ろから軽く持って自分の方に近づける。

 あっ、甘い香りがする。シャンプー変えた? 柔軟剤かな? この匂いはちょっと酔いそう…ってお酒飲んだこと無いから分からんけど。

 彼女の艶やかな唇に僕の少し乾いた唇を重ね……、



「あ」


「メガネ……」



 僕のメガネが邪魔をする。美亜が僕のメガネを取って、自分からキスをしてしまった。



「……」


「なんでそんな不機嫌そうなの?!」


「僕からしようと思ってたのに……美亜のアホ、もう知らない」


「いーもん! 悠の可愛い顔見れたからそれでいいの。ほら、遅刻しちゃうよ」



 うー……解せぬ。もっかい僕から奪ってしまおう。



「んっ……ながっ……」


「はい、行ってきます」


「はやく行けバカ!」







 今日も僕たちを纏う空気は透明で、キラキラと輝く街に僕は一歩足を踏み出す。




「行ってきます」


「行ってらっしゃい!」




        ─Fin.─

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Atmosphere 東雲 彼方 @Kanata-S317

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