1.1.12 一雫の蕾
「寝すぎだよ隅田エミ^^もう夜じゃないか^^」
聖堂ショウタは腕を組みながらツカツカとエミの方へ歩いてくる。エミは未だに先ほど殴られた後頭部が痛むため、即座に体制を整え、立つ事はできなかった。ショウタはエミの顎を右足つま先をつかって、エミの頭を引き上げた。
「あれ。怪我しちゃったの?^^痛そうだね。大丈夫?^^…まあそれより、なんでここに連れられてきたかわかる?^^」
ショウタはエミの顎を強く蹴った。激痛に襲われながら、エミは口の中に生暖かな鉄の味を感じた。
「喋れないなら僕が言うね^^初めて会った日から僕は君に会いたかったんだよ^^本当に^^君は蝶のように可憐で美しかったと思っていたんだよ^^心から^^」
エミはぐったりと横たわっている。
「でもね^^君が事故に遭った日、父上から君の父が僕の母上を殺したことを聞いたんだ^^」
ショウタの発言にエミは目を丸くする。自分の父親が他人を殺めることなど想像することはできなかったのだ。それにエミの父である隅田セイジロウは、数年前から消息不明となっていた。
「それに君の麗しかった顔も全くの作りものだったんだね^^それも父から聞いたけど、度肝を抜かれたねまったく^^あの美しい母上を殺した君の父を、聖堂家は許すことはないだろう^^お前もまた、その娘だ^^だから僕は君の不幸を願い、正体を学校生徒に明かしたんだよ。」
エミは激昂し、立ち上がる。彼女の左目は強く見開かれている。窓から差し込む月明かりに照らされる聖堂の横顔が憎々しい笑みを浮かべているのが目に入る。聖堂はエミからの視線を感じ取り、体をそちらへ向ける
「感想は?^^」
「私はなんであなたの行動を理解できない。私は講義での事故で、今までの整った顔に傷を付けた。その傷は深くて一生治ることはない。多分だけど。それなのにそこまでの仕返しをしてくるのかわからない。確かに自分のお母さんを殺した人が知り合いだと分かったら、その犯罪者を許せないと思う。でも、あなたのやってることは結局その犯罪者と一緒だと思う。他人の人生を狂わせてることに変わりはないと思う。でも、ごめんなさい。詳しいことはわからないけど、私の父があなたのお母さんを殺してしまった事実が変わらないのであれば、それは私は家族としてご冥福をお祈りします。」
「違う、違う、違う違う違う違う、、!!!僕が聞きたいことはそうじゃない。第一あの講義の出来事は事故じゃない。勘違いをするなよクソブスが。僕は善人じゃないか?僕はお父上への忠誠心を忘れずに、家族の復讐心を全て背負っていままで生きてきたんだよ!!!その気持ちが整形野郎にわかられてたまるか。同情を買いに来たんじゃねえんだよ。」
「そっか。じゃあもう帰っていい?明日も勉強しなきゃいけないんだけど。私の生活リズムを狂わせないでくれない?」
「は?クソブスに普通の日常なんてもんはねえんだよ。そんな再生不可能なズタボロシリコンフェイスに通常通りの日々のタノシーライフが再び訪れるわけねえだろ。この世は顔なんだよ。あ、それは一番君が分かってるか^^顔面大工事当事者さん?^^」
ショウタは窓から夜空に浮かぶ白く綺麗な三日月を眺めながらエミを煽り立てた。その言葉でエミの怒りは爆発し、薄っすら笑うショウタの頬を強く叩いた。ショウタはよろめき、床に手をついた。そして叩かれた頰を触る。痛みからか、屈辱からか、彼は目を見開き、顔を赤く染める。
「あああああああああああああぁああああ!!!!!!!!僕の、顔をぉおおおおおおお!!!!!!許せない、、、許せないいいいい、、!!!!!」
エミはショウタをジッと見つめる。ショウタは自分の顔を両手で覆い隠しながら後ずさりし、エミから距離を取る。そしてショウタは手を下ろし、いつも通りの調子で淡々と話す。
「その汚らわしい手で触るなよ。ブスが感染るだろ?^^僕の綺麗な顔を傷つけないでもらえるかい?^^そんな君に僕から贈り物があるんだ^^君は餌になるべきなんだよ^^皆からそのゴムの羽を捥がれて、もう二度と花の蜜を吸えなくなるといいよ^^」
ショウタは手を握り、力を込め、エミの方へ駆ける。次の瞬間、彼のその拳はエミの鼻の付け根を捉えた。『バリバリ』という炸裂音が部屋に響き、エミの鼻は折れる。更に、彼女のの顔に負っていた傷は開き、血は吹き出す。人間の急所の体の中心にある鼻が折れたエミは気絶し、倒れる。
「ザマ〜〜!!お前なんて死ねばいいのに^^あ、でも死ぬと自分のパパと同じ場所に行っちゃうね^^それは幸せだね^^僕も母上のところへ行きたいしね^^そうだ。」
ショウタは倒れているエミの服の襟を掴み、持ち上げる。彼は彼女を引きずりながら、研究室の端にある階段を一段一段登る。
「永久に故郷の地を這ってろよ。偽造羽所有罪の蛾さん^^」
ショウタはエミの体を階段の上から放り投げる。その体は深緑色の液体の満たされた水槽の中に沈む。彼女の体からは幾つもの泡が出ている。その液体はエミの体を食べるかの如く、凄まじい咀嚼音を立てる。それはエミの体がその液体と化学的に反応しているようにも見てとれる。反応時の発熱からか、彼女の体は茶色く焦げる。その様子を見ながらショウタは、自分の手で顔の皮膚を剥がす。そしてその皮膚を剥き終え、露わになった彼の赤紫色の体は蒸発するかのようの研究室から姿を消した。エミの四肢の表皮は焼け落ち、筋肉は剥き出しになった焦げ付いた骨の中へ入り込む。彼女の顔の傷口にその液体は纏い、徐々に焼きながら傷口を塞ぐ。まるで意思があるかのように、身体中の穴からその液体はエミの中へと入る。その水槽に満たされていた300リットルほどの液体は、彼女と反応しながらも、全て消えてしまった。
その水槽に残ったのは、ある焦げ茶色の腹の膨れた妖精であった。
Black out かつら @NotHage
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