矢山行人 十五歳 夏33

 最後に僕はポケットに突っこんでいた、ビニールの塊を取り出し、中の白い歯を掌に転がした。


「なに、それ?」と陽子が言った。


「歯」


「歯? なんで、そんなものが」


「乳歯なんだけどさ、よく言うじゃん。抜けた乳歯は屋根に投げると丈夫な歯が生えてくるって」


「うん、って、それ乳歯なの? 誰の?」


「僕の。昔、埋めちゃったんだよ。で、最近、掘り返されちゃってさ。捨てるなら、ここかなって思って」


 言って、僕は歯を思いっきり夜の町の光に向かって投げた。

 僕の弱さの象徴。

 何が欲しいのか分からず、生きた人間として扱われていなかった頃の僕。


 さようなら。

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