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「そう……だよね! 僕もママに怒られたし、穴掘りはしばらく良いや。新しい遊びか……ねぇ、だったらさ! 今日家に泊まらない? 天体望遠鏡を今日、パパが買って来てくれるんだ! それで、二人で新しい星を探そうよ!」

 良の話を聞いて、瞳の目が輝く。

 素敵な事が始まる! 嬉しい事が起る! そう期待する目だ。

「それ、凄い楽しそう! 泊まる! 泊まる! じゃあ私、家に帰ってママに、りょう君の家に泊まって良いか聞いて来る!」

「じゃあ、僕もママにひとみちゃんを泊めても良いか聞いて来るよ!」

 二人はお互いの顔を見て微笑み合った。

「ねぇ、りょう君、何年かして、大人になったら、ここに埋まった宝物を絶対に二人で掘り起こしましょうよ! 約束よ!」

 良は深く頷くと、きっとそうしようと瞳に約束した。

 二人は可愛らしい笑い声を上げながらそれぞれの家へ向かおうと歩き出した。

 途中、瞳は、何処かからピアノ教室でちょうど自分が習っているメロディーが聞こえた様な気がして、秘密の場所の方を振り返る。

 その時、風が吹き、穴の側に植えられた桜の木がカサカサと音を立てた。

「どうしたの? ひとみちゃん」

 首をかしげる良に、瞳は、アメイジング・グレイスが聞こえた気がしたのよ……と言おうとして、止めた。

(気のせいよ、きっと)

「何でも無いわ! 行きましょう!」

「うん!」

 二人は手をつなぎ、駆け出した。

 二人を見た道行く人々がにっこりしながらその姿を見送る。

「あの二人、手なんて繋いで、何て可愛らしいのかしら!」

「天使みたいね! 可愛いわ!」

 今日も二人は幸せを振りまく。


 楽しい! 嬉しい! 今日はなんて素晴らしいんだろう!

 美しい世界。

 明るく楽しい世界。


 その世界の片隅……二人が去った秘密の場所……そこは、今は静まり返っている。

 良と瞳が笑い合う声も、風の音も、アメイジング・グレイスも、どんな音も今は響かない。

 けれど、今は静かなこの場所の、この桜の木に、春が来たらきっと薄紅色の花が咲く。

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