第7話 fine
あんなことがあって、好きと自覚してからは前より何故かとても学校が楽しくなった。教室の窓から入る朝の光に包まれて隣で寝ている佐藤くんは、高校生らしくてなんだか可愛い。
それに、付き合っている程で2人で帰るのもすごく楽しくなった。他の女子とは滅多に話さないのに私といるときは笑ったり照れたり……いろんな表情を見せてくれるのはちょっと、いや、かなり嬉しい。そんなことを考えていると佐藤くんが私の顔を覗き込んだ。いたずらっ子みたいな顔をして口を開く。
「何にやにやしてんの? 」
「べっ、別にしてない! 」
「嘘つけ」
そんなくだらないやりとりさえ楽しくて、バカにされてるって分かってても嬉しい。これ、本当に重症だな……。
さくらは、ドキドキしっぱなしの胸に手を当て息を大きく吸った。
家に着くと篠原さんの靴があった。
「ただいまでーす」
「ただいま」
2人でリビングに声をかけると
「おかえりー! 」
ご機嫌の篠原さんの声が聞こえる。
この感じ、篠原さんお酒飲んでるな。
佐藤くんのの方に目を合わせると佐藤くんも苦い顔で頷いた。こういう時の篠原さんは本当にめんどくさいのだ。
「篠原さんどうしたんですかー? 」
リビングに入っていくとビールを持った篠原さんがニコッと笑う。
「実は嬉しい報告があってね! 」
「何? 」
佐藤くんはパソコンを起動させながら声をかける。
「実は……! 今回の本の表紙、pineさんに描いてもらうことになりましたっ! 」
「……え! 」
佐藤くんはパソコンを触る手を止め篠原さんの方に勢いよく振り向く。そして、篠原さんの肩を両手で揺らした。
「ほっ、本当に……? 」
私が聞いた中で1番大きい声だ。きっと今佐藤くんの尻尾が見えたら凄い勢いでふりふりしてるだろう。
「あのー? pineさんってそんなすごい人なんですか? 」
頭がクラクラしてる篠原さんに尋ねるとややあって答えが返ってきた。
「めっちゃすごい人だよ。たまたま、本社に来てたpineさんが二郎の原稿を読んで、感銘して、ぜひ描かせてほしいって言われたんだよ! 」
◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎
佐藤くんによるとpineさんは大人気のイラストレーターさんで佐藤くんはpineさんの大ファンなんだそうだ。
「pineさんが描いた『砂時計と君』っていう本の表紙が本当に素敵で、いつか絶対描いてもらいたいって思ってたんだ」
佐藤くんが嬉しそうに話す姿を見てると私も嬉しくなった。ただ1つ気になるのはpineさんが女の人なのか否か……。
くっ、明日の朝、
佐藤くんに聞いてみよう……。
そう思ってさくらは布団の中に入り、目を閉じた。
◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎
翌朝5時30分。小さめの目覚ましを止めて、さくらはいつも通りの時間に目を覚ました。大きな伸びを1つして、朝食を作るためリビングに向かう。
「ふはぁ、おはようございまぁーす」
眠たい目をこすりながらいつものように声をかけたのに佐藤くんからの返事がない。そういえばパソコンの音もしないな。不思議に思っていつも佐藤くんが執筆しているところを覗いた。すると、あるのは開きっぱなしのパソコンだけ。画面をよく見てみるとそこには“fine”の文字があった。
あ! 完結したんだー!!
思わずガッツポーズをする。早く読みたい! お祝いもしなきゃ。しかし、いくらあたりを見回しても佐藤くんはいない。リビングにもいないし、トイレもいない。となると佐藤くんの部屋かな。寝ていたら悪いのでそおっとドアを開けると、そこにも佐藤くんの姿はなかった。そして、綺麗なネックレスも無くなっていた。おかしいなあ。コンビニにでも行ってるのかな?
そう思っていたのに。
10月27日。
この日から佐藤くんは
姿を消した。
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