神能件5


目を覚ましたら元の寝室だ。ここは異世界でも元いた世界でも変わらないのか、身に覚えのある気だるさと眠気だ。


(確かあの時)


思い出すのはあの狼女だ。何者も寄せ付けない物言いをしながら、確か黒い霧を……何か黒い犬のような物に変えて、担ぎ込まれたのだろう。


あんな個性的なスキルがあるのだろうか。ふと気になってその場でステータスを列挙してみたが……それっぽいのは見当たらない。


(……まあでも、あらかた分類はされているけど多すぎるな)


スキルを多く所有していると言われている通り、ステータス画面でスキルの名称を確認するだけでも把握出来ない程に多い。

多少、火を取り扱うものは火属性、あのような黒モヤは……例えば強いていえば闇や霊的なものとして分類はされているが、それだけだ。属性として絞り込むのは明解かつ、自分のような人間はいないから修正する気などないだろうが……


(右上に何かある)

『御用があればカスタマーセンターへ(index finger up)』

「……人差し指上げてなんなの」クイッ

『こちらカスタマーセンターです。

ご要件ご要望を仰って下さい。』

「仰ってって……これ書くことできないのか」

『完了の場合は親指を上げて通話を終了してください』

「なんか馴れ馴れしいな……」


ひとまず分類分けが雑すぎて把握し辛い、もう少しサジェストしやすい機能が欲しい、などと言ってからコマンドを入力した。あの神様のことだ。底は知れないが、人間性は知れてきた。

今も昔も苦手としている、失敗とか知らなそうに生きてる楽しそうなやつ。特に罪悪感もなく、下心もなく、当たり前にいいことをするやつ。余裕のある奴……ついでに暇な奴らしい。そうして教えられた通りを言ってから親指を上げれば、五分かからずに修正完了の旨が届いた。


(絞り込み検索で大分良くなってきたが……でもアレと似たようなものは無い)


とは言っても、神様から言われた魔法で、この世の全てを理解出来るほど懇切丁寧でもない。この世の魔力はウイルスのようなもので、人は適用出来た。神側はそこから測定してステータスを構築している。そのくらいだろう。


(魔力を簡単にウイルスに置き換えるのは早すぎるが……例えば、あの女の子の場合は保持している毒のようなものだったり)


つまり、彼女は魔力を使わなくとも、独自で似た者を溜め込んで使える……言わばフグの毒のようなものも考えられる。

考えられる、というだけなので、断定しようがない。ただ彼女の使っているスキルは、ここにはないということだ。


(そこは想像の域を出ないってことか……それよりも)


木製のベッドに視線を落とす。これは、木製のベッドだ。つまり殴ると痛い、体力もそれなりに消耗するのだから、普通の人間だったらHPは減る。


(だが俺のHPは一億だ)


普通木製のベッドを何発か殴ってしまえば、それだけで疲れてしまう。何故なら殴る度に確実に拳の方にダメージを与えられるからだ。


(神様が人間の細胞の数まで全部把握して、そ子から統計取ってるならまだしも)


この体は、HP100のものであるはずなのに1億になっている。じゃあなんだ、99はライフ999万とかか?インフレじゃないか?


「まあ、下手してもちょっと痛くなるだけだし……」バキメキャゴシャ


「……もう一発」


ベキベキメキャゴチャ


「何だこのクソ仕様……」


『いや済まない、重大なバグが発生した』

「直してください。今すぐ。可及的速やかに……これなんです?」

『そうだな、人の子のHPでベッドのHPが吹き飛んだ』

「事実じゃなくて何でこうなったか言ってくれます?」

『……デバッカー不足だ』

「そうでしょうね」

『いやこれ以上のものはないからな……そうだな……防御の数値をちょっと桁数増やして理屈付けするからな』


「いや、多分今のバグは『HPに釣り合いを持たせたくて、対象物のからの反撃がないように物ごと消し飛ばしてしまった』かと思います。俺が貧弱だから俺が痛くならないようになったらこうなるわけで」

『……とりあえず人の子は任意で敵の攻撃を回避する加護与える』

「そう言うめちゃくちゃな仕様とか機能付ける前にですね、別にそこまでいらないと言ってるじゃないですか。俺の体はデフォルトであって、装飾出来るものではないですから」


『……それは……そうだったな……早計だった』

(あからさまに落ち込まれるとちょっと困るな)

「インフレしてもいいんですけど……こういうのは勘弁して下さい……あの、もしもうっかり落ちそうになった時に、時間を止めて、みたいなささやかな感じで行きたいんで」

『ふうん、それがリクエストか……』

「いや例えですから、とにかく治して下さいよ」

『24時間無料相談だからな、いつでも不具合報告待っているぞ……あっ』

「なんです」

『スマートスピーカー機能とかどうかな、人の子。使う用途や状況は限られるが、単独行動では効果的だぞ』

「……俺より楽しんでます?」

『いやいや、君も楽しいだろう』

「もう帰ってもらっていいですか」


(なんかこれ俺がデバッカーみたいな扱い受けてないか……まあいいや)


あの様子だと朝起きてからも面倒を身に幼馴染が着てそうだが、何も来ていないので暇だ。


(……って言うかここ、成り代わり先の個室か。同室の人はいないみたいだけど……今の俺の机には普通に勉強道具とかあるらしい)


学校から配布されているらしい教材を除いて、私物や人格が分かるものが見当たらないのが気になるが……


「本じゃん」


(異世界の世界から見て考えすぎかもしれないが、印刷は現代そのものらしい……いや、現代と遜色ないレベルのものだ。僅かに材質は感触から違うのは分かるが、殆ど同じものを用意している。)


(今のプリンタみたいだ、とは言えないけれど、活版印刷の時代は通過しているな。ステータスが読めるなら神様のお告げくらいあっちに載ってるかと思ったけど……)


ステータスはデジタルな印象を受けたが、神様が管理している以上、本も必要ないと考えている。本が広まったのは一説によると宗教的な教えをより広く、口承よりも分かるようにで技術が革新されて行った。それほど思想の影響は大きいと言えるが……


「でも神様がいるって分かる以上本を作る意味あるのか……」

「あるわよ。私達は持たなかったけど、ステータスとやらが神様のもので、皆そこから解釈したがるのよ」


なるほど、なんか同室の人が起きていたみたいだ。

まあでも、同室の人の言うことは一理ある。天動説なんてたまたま地動説でひっくり返られただけだが、それまで強く信じられたとなるとステータスで神様がいる、と言うだけでなく、その理由付けで神話が生まれることも少なくない。


「ああ、でもそうか。ステータスがあっても、それが神の教えにはならないか。

例えばジョブに兵士があって、それに火属性のスキルがあると、神話としても軍神の属性も火になったりとか」

「……ああ確かに、少し違うけどオマエの似たようなことはあるわ。

勇者とか全属性持ちだけど、一族から排出されるから、その家紋が水属性象徴している。で、この加護を与えるとされる水の神様はこの世界を守ったとか、良いことは書いている」

「それじゃあ、一概にも本を出さない理由はないと言いきれないか」

「別に、これだけが目的ではない。御婆様は嫌っていたけど、受け継ぐのに文字を用いた奴らもいたみたい」


「これどうやって書いてるんだろう……」

「普通に植物の油だろうけど、まあ人に配るならそうでしょうね」

「それ、君の所で持ってる人とは違うの?」

「アレは、私達は嫌いだ。妖精を灰にしたものを水に解いている。冒涜だ」


(妖精の概念はここにはあるらしいが、現地人理解されないくらいには独自の文化も根付いているらしい)


「へぇ~」

「……というか、この話ここでしない方が良いわよ。特にオマエの幼馴染の前で」

「こういう魔法全面に出されるとどうしても気になってさ~教えてくれてありがとう……」


(お礼を言おうと同室の顔を見ようとしたが……あの茶髪と赤い瞳の目つきのキツい全裸の少女を知っている。あの狼女だ)

(驚かない自分に驚いているが、脳が情報処理が追いついていないということか。目を逸らした。)


「……同室だったんだ」

「どうでもいいけど。それに別にお礼言われるようなものじゃあない、オマエ記憶なくても、話通じるし」

「同室なの?」

「言っとくけど、オマエがやりたいと言い出したのよ」


(流石に記憶を無くした理由が転生したからとは言えないが、ここは男女が同室でも許されるのだろうか……いや、そういう倫理的なものは、文化に関わる分また傷つくかもしれない)


「……俺との関係は」

「他とは言えない関係、今も言ってあげない」

「えぇ……」

「だってオマエ、昔と違って情けないし、腑抜けだし、私だって頼りにしたくない」

「……つまり俺とそういう頼りにするされる関係だった」

「そういう揚げ足取りはそっくりね。それ以外は駄目だけど」


「……本当に何も関係はない? こう、君が全裸とかについて」

「ああ、服嫌い。昨日の姿の方が好き、慣れてるから」


それは本当らしく、耳としっぽをふるわせて、中々着替えようとしない。そういえばあの時、狼の状態で敵を処理していた。あの形態が本来の姿なのだろう。


「着替えないの?」

「嫌い。オマエの幼馴染が来る前にはやる」

「……狼女さんって、身だしなみやってる?」

「服着ればいいでしょ。毎日風呂だって入ってる」

「入らないの……?」

「嫌い」


いやでも……風呂嫌いの犬も確かにいた。毛に水分がまとわりついて、体が重く感じるのが嫌なのだろう。


「……とりあえず風呂入ったなら櫛だね、どれ」

「オマエのは引き出しに置いてる」

「(前の人大変だな……)……置いてるじゃなくて……ってか尻尾付きの場合下着ってどうなるんだ」

「ああ、忘れると気になるのか、オマエ……よっと」

「立たないで教えてくれ」

「持っていく方が早いだろ」

「良いから……俺が持っていくから……」

「変な奴」


(……そういえば、神様スマートスピーカー機能付けるとか言ってたよな)


「じゃあ、向こう側のタンスの」

「OK スキル」

「一番上の引き出し、手前にあるぞ、下着とか」

「向こう側のタンスの引き出しを引いて、手前のオブジェクトをピックアップして」


冗談半分で入力してみたが、自動的に向こう側のタンスの最上段から下着が一着飛び出して宙に浮いた。


「……」

「……下着取りに行ってくるね」

「オマエ、それ皆の前で絶対にやるなよ」


真意は分からないが、気を許してくれる狼女以外にはないだろうと思った

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