神能件4
(ここは……うわ……あの転生の時か)
「やあ人の子」
「……はい」
(なんでこの神様ニッコニコなんだ)
「さて人の子、日報の時間だ」
「……日報って」
「その日のことを報告すればいい。何でもいいぞ」
「何でもですか」
「ああ何でも、相談に乗ってやれる範疇は限られるが、それなりに」
「無駄に嗅ぎ回って、殺されたりしません?」
「大丈夫だ。私は嘘を着くこともあるが、姑息なことはしない」
「……それ分かりにくいですよ」
「まあ、あれだな、嘘は付いても騙すことはしない。そんなことより人の子の疑問はなんぞや」
「幾つか質問があるけど、軽い方から行く。この場から引きずり下ろされない為に」
「人の子も慎重だな」
「……まず、そうだ。この概念のステータスについて」
「ん? それは各人の能力値を数値化したに過ぎない」
「とは言うけれど、その測定方法だ。
ステータスを見たけど、俺やクラスメイトの平均的なHPが100であるはずなら、俺の1億はどこから出ている?」
「うーん……人の子はカロリー計算に使われる赤外線を知っているか?」
「具体的すぎないか」
「あったら説明しやすい」
「……あー、文系なんで分からないです。確か食物に光を当てて、食物を構成する分子の揺れとかどれくらい光が吸収するかで算出してる、みたいな」
「置き換えると、体内にある活性的な魔力を、スキル等の行使でどのくらいの影響はあるか、機械の代わりに神が測定する」
「……まるで魔力は対外にもあるウイルスみたいな言い方ですが」
「その通りだ。人の子の元の世界だと、汚染と言っても差し支えない。神共がばら蒔いた『魔力』という粒子が人に取り込んで、丁度いい具合に適応した頃に、数値化出来るように施した。」
「MPもそうだが、HP……体力についても変わらない。
例えば人の子の下半身切ったとする。人の子のHPは?」
「……単純に魔力とやらを体内の含有量を調べるなら、50になってしまう」
「そうなると面倒だから、一旦は生きている人間のみが魔法を使えるようにしている。
生きている人間の定義は何か、体内にある魔力がモノとしての動作が活発になるかどうか。当たり前であるが、そうでもしないとバグとして発生する可能性がある」
「神様の価値観ってこういう感じなのか……」ボソッ
「人間と同じものとは言い難いが、この辺りは仕方あるまい。
扱う重さは不釣り合いだが、我々はTVの音調調整と大差ない。例外を除いて、システムや設定は全てを生きやすくするために、公平にするためにあるだろう?」
「……現状例外の俺が生きづらいんですが」
「それはまあ、統制ということでは成功しているだろうしな。いやまあ、すまないが」
(……この神様、俺に何か隠している)
(この神様は、俺に分かるように説明しようとしている。分かりやすいとは言い難いが、俺の目線に合わせて、俺の世界の言葉に置き換えて話している)
(日報は悪ふざけ、嘘を着くかもしれないとか言うが……人間を理解していない訳では無い。)
(根拠は一つだけだが、あのステータスだ。)
(神様は俺の元のレベルを100か1億にした上で、幼馴染に見せるステータスは25として表示する。)
(俺のステータスを確認する手段は、一度表示して、その隠しページを開くことにある。ステータスの扱いが慣れているはずの幼馴染が見落とすとは考えがたい)
(だから多分、神様はその辺配慮したのだろうか)
「どうした?『言ったことであれば』なんでも答えるぞ」
「……何笑ってんです?」
「そうだぞ、君はお喋りが苦手なようだからな、レベルを高くすると孤立してしまいそうだからな」
「一言余計ですよね」
(……まあ多分、こういう顔しているなら本当なんだろう)
(神様はあの時言っていた。「いらない時はいらないと言ってくれればいい」と)
(それはスキルは何かを得る手段であって、自らを満たすものでは無いと考えている。逆に手持ちが多ければ、こちらで排することも構わないと)
(……まあ俺が楽観的すぎるだろうけど、お節介だろうな)
(俺がどんな顔で、どんな姿で訴えたなんか思い出せない。思い出したくもないくらい嫌なものだけどさ)
(神様が人間臭くなるくらいには惨めに見えたんだろうな)
「人の子は惨めじゃないぞ」
「……言ったことしか答えないんですよね?」
「何かの為に生きたり、全うする人間は美しいからな」
「何それっぽいこと言ってるんですか」
「いいや本当だ。あんな物より、どんな環境下にも適応し、生きようとするモノは奇跡と言って差し支えない。私達より神秘の塊だ」
「──だから私は、人の世に介入する無粋はしない」
(ただ、気になる点はある)
(察してはいたが、この神様は自分であっても人の世界を掻き乱すことを嫌っている)
(それはどんな価値観にしろ、倫理観にしろ、人の作ったモノなら神様は壊さない)
(だから偶然にしろ何にしろ、俺が例外になる理由が分からない。平均的なレベルじゃない存在を、そのまま野放しに出来るのか)
「人の子」
「……」
「言ったら、答えるぞ」
(やばい……やばい……なんか知らんけど前みたいに酸素を薄くなりそう、やばいやばいやばい殺される分からないごめんなさいちがう間違えるな間違えるな)
「……いや、良いです」
「良いのか」
「多分俺が今言うと、ちょっと発作起こりそうなので」
「発作?」
「ちょっと詰められると息苦しくなるんですよ……これ生前までリセット出来なかったんですか?」
「いや……それは……すまないな……聞かなかったことにするから……」
(そんなしょぼくれた顔されても……)
「……人の子」
「何ですか?」
「この世界、楽しいか?」
「……」
「正直に言ってくれ。君の見た景色が見たいんだ」
「……正直、戸惑ってます。人食ったりとか、ああも公にする文化はなかったので」
「そうか……」
「……ただ、まだ逃げるのは早いと思ってます」
「俺、神様には分かんないと思うんですけど、すごく嫌な一生になったんですよ。最後神様の車ぶっ壊しちゃいましたしね
……前に比べればやり直しは効くので、ごめんなさい、後ろ向きで」
「私が好きでやったに過ぎない。君が気に入らなければ、相応の手立ては考える」
「それに、神様は人として生きてきて、でも神として俺を生かしたなら、それくらい無駄にはしたくない、とは思いました。はい」
(……正直、全て信頼出来るか分からないけれど)
「……あまり人の為に生きるなよ」
(俺の姿なんて覚えてないけど、確かにあの時悲しそうな顔で聞いていた)
(……まあどこまでが本当か分からないけど)
「自分のことなんて分かるようにさも人の為にやってるかもとは思います、ハハハハハハ」
「人の子ぉ……」
「……いやまあ、楽しいことは探します。というか今日は教室見て回っただけなので勘弁してください」
「あっそうか、すまなかったな」
視界がグラッと揺れる。立ち上がると同時に見計らって意識が消えるようになるのだろう。
「それじゃあ、また明日」
(だが……信頼は出来そうにないけれど、少なくとも邪な笑みを浮かべない大人が近くにいるだけマシだろう。)
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