さんにん

@aoki_

第1話

8月の下旬、短い夏休みが終わった。

始業式やらテストやらホームルームやらが終わり、体育館へ向かう。

久しぶりの制服は私の体に張り付いてくるようで気持ち悪い。

「ゆーずーきー!」

私の名前を呼ぶ少し高い通る声と、背中に強い衝撃。

「ひより、びっくりする」

日和がははっと笑う。

高坂日和はかわいい。

顔が特別かわいいわけではないけど、ちゃんと女の子してる。

それでいてはっきりとした物言いをするから友達が多い。

「全然びっくりしてなさそう」

と、笑いながら言う日和。

私はバレた?、といって歩き出した日和に並ぶ。

「おねがいします!」

「おねがいします!」

体育館に礼をし、部室へ向かう。

日和の目が、シュート練習をしている少年に行く。

夏休み中に、日和はこの少年が好きになったと聞いた。

「あのね、たまたま帰り道が一緒になって、1人で帰るの寂しいって言ってたから、一緒に帰ることになったの!めっちゃかわいくない?だから、これかられんくんと帰ることが多くなるから、ゆずきとはあんま帰れない。ごめんね!」

らしい。

松田蓮。

高校1年生、私たちの1個下。

バスケをしている人にありがちな色白。

目がくりんとしていて、唇が薄く、少し丸っぽい鼻がかわいい。

顔だけ見せられたら小学生と言われても納得するような童顔だ。

身長は私より小さそう。(ちなみに私は168㎝ある。)

「話しかけないの?」

少しニヤついているのが自分でもわかる。

日和が私を睨むように見て、もう一度蓮を見る。

「あー!ひより先輩だぁ!こんにちはー!」

人懐っこそうな笑顔を浮かべ、蓮が駆け寄ってくる。

「こんにちは、れんくん。終礼終わるの早いね」

日和の耳が少し赤くなるのを見逃さない。

「そーなんです!うちのクラス、ちょーはやいんです」

そう言うと、私を見てこんにちは、と言った。

「こんにちは」

なんだか、小さい子どもみたいだ。

覗き込むみたいにこっちを見てくる。

「ゆずき先輩ですよねー。おれ、この前の試合ん時、うまって思ったんですよ!」

私はありがとう、と言いながら、ボロ負けしたけどね、と心の中でつぶやく。

この学校のバスケ部は、女子も男子も強くも弱くもない。

だから2回戦、3回戦で負けるのが普通なのだ。

「あ、ゆずき、準備しなきゃ。れんくん、また帰りにね!」

そう言って、日和は蓮に手を振り、歩き出す。

「かわいい子だね」

日和が頷く。

「でしょ!てか、私たちも準備してシューティングしよー」

今度は私が頷く。

振り返って蓮を見ると、もうシュート練習を再開していた。


部活が終わり、自転車を取りに日和と歩く。

空がオレンジと紺の間の色をしている。

日和は蓮と帰る。

私は1人で帰る。

蓮に日和を取られたみたいで、少し寂しい。

私たちは同じ中学校で、いつも近道をして帰ってた。

しかし、近道でない方なら蓮と同じ道らしい。

「あのね、今日はコンビニによって、アイス食べようって言ってるんだ!ちょー楽しみ!」

日和が本当に嬉しいって顔で笑う。

「よかったね」

私もそう言って笑う。

「うん!れんくん結構おしゃべりで、話すことなくなると中学の時の話、ずっとしてるの」

ははっと笑い声で返す。

私は自分の自転車を見つけた。

「じゃあ、ひより、またあしたね!」

日和に手を振る。

「うん!ばいばーい!」

そう言って、日和は自分の自転車をとりに走った。

向こうから蓮が自転車を押して歩いてくるのが見えた。

私だって1人で帰るのは寂しんだよ、と心の中でつぶやいて、2人に背を向けて思い切りペダルを踏んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さんにん @aoki_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ