第15話 リュウ


食事の後にミレーシアやロッドと話し合った結果、二人の娘であるエミリーの学校に行く時の護衛として雇ってもらい屋敷に住むという事になった。ミレーシアには普通に住んでほしいと言われたが、金を稼いで学校に行きたい為断っておく。

「本当に無理をしていないのですか?貴方はまだ五歳だし、働かなくていいのですわよ?」

「ありがとうございます。しかしせめてお役に立てればと……」

--このやり取り、何回目だ?

同じことを数時間前から延々と繰り返し言われ、営業スマイルもピクピクと引きつってくる。


しばらくして数分前に席を外したロッドが帰ってきた。ロッドの後ろには森であった女の子供--エミリーがいる

「待たせたね。……エミリー、自己紹介出来るかい?」

するとロッドの後ろから元気よく出てくるエミリー。

「わたしのなまえはエミリー!よろしくね!」

手を差しのばされ、握手を求めているのだと理解する。

「よろしくお願いします、エミリー」

簡単に返事をしながら握手をすると、とても嬉しそうに微笑む少女。その顔を見るとなぜか心に暖かいものを感じた。


「じゃあ私たちはこれから仕事だから仲良くしといてくださいね!」

「あとで少年の部屋を作るからそれまでエミリーとここに居てくれよ?」

「はい、わかりました」

大広間からロッドとミレーシアが仕事でいなくなり、エミリーとの二人になった。騒がしかったのが嘘の様に静寂に包まれる。


「ねぇねぇ、あなたのなまえはなんていうの?」

突然一人で黙々と人形遊びをしていたエミリーが不思議そうに、少年に問いかけた。少年は公爵家の魔道書から顔を上げて答えた。

「俺には名前がありません。お好きな様に呼んでください」

変に懐かれない様、距離を置いて話す少年。しかしそのことにエミリーは気付いていない


「ん〜、じゃあわたしがなまえをつけてあげるよ!!」

エミリーが小さな首を傾げ、ゔ〜ん?と唸る

「じゃあタマとかポチは?」

「……犬の名前みたいで嫌ですね」

「う〜ん?じゃあオニクとリンゴは?」

「食材の名前は紛らわしいので嫌です」

その後も同じ様な動作を繰り返し行ったが、五歳児のネーミングセンスのせいか未だに決まらなかった。普通の人間ならめんどくさくなり途中で辞めるのだが、エミリーは何度も何度も一生懸命名前を考える。


「あっ!……じゃあリュウはどうかな?」

「……リュウですか」

うん!と大きな返事をして、手元にあった童話の絵本を見せてくる。そこには大きな竜が描かれていた。大きな牙、鋭い爪や、硬そうな鱗など……どこかで見たことあるようなもの竜だ。


「この"りゅう"があなたとにてるから、つよくなれるように!!」

そこの竜は確かに、自分の髪の毛の色と同じ銀色を全身の鱗にしていた。その絵を見ていると前世の友人--サラマンダーを思い出す。

「……わかりました。俺の名前はリュウと呼んでください」

「やったーー!リュウ、いっしょにあそぼう!」

「はいはい」

--やれやれ。サラマンダーに免じて、その名前で呼ぶのを許してやろう。その時密かに微笑んだ【リュウ】を、窓から見える月だけが見ていた。





おまけ➖➖➖➖➖


「それで人形遊びとはどうやってやるのですか?」

生まれてからやったことの無い遊びにリュウは興味津々だ

「えっとねー!にんぎょうつかってあそぶの!はい、おにんぎょう!!」

そう言われ渡されたのは可愛らしいだった

リュウは眉間にシワを寄せる


「え……これ本当に俺がやるんですか?」

「うん、わからなかったらおしえてあげる!じゃあよーい……あくしょん!」

その合図で、おままごとと書いて戦争の火蓋ひぶたが切って落とされた




三十分後--


「ふぅ、やっと仕事が終わりましたわ!」

仕事の終わったミレーシアが大広間に行こうとすると

ロッドが笑いながら大広間を、ドアの隙間から見ていた


「ロッド?何をそんなに笑っていらしてるの?」

「プププッ!ああ、ミレーシアか。あれを見てごらん」

ミレーシアがドアの隙間から覗くと、おままごとをするリュウとエミリーの姿が見える


「ねこよ!あなたはねこなのよ!さぁもういっかい、やってごらんなさい!」

「にゃーんにゃーん(棒)」


「もー!ちゃんとやりなさい!じゃないとまじゅつほんかえさないよ!」

エミリーの手には魔術本が握られている

「フシャァァァァ!!ゴロニャアーーーン!ギシャァァァァァァァァァ!」

突然怒り狂った様にリュウが鳴きまくる

「ねこちゃんはそんな、こわいなきごえじゃない!!」

「森の中の野生の猫は大体こんな感じですよ!猫がにゃんにゃん♡とか言ってるのは童話の中だけだと思ってください!」

リュウがぬいぐるみを振り回しながら、怒鳴り散らす

「ともだちのねこちゃんはそんなこえじゃないもん!」

「絶対猫かぶってるだけですね!猫が猫かぶるとか自分でも何言ってるかわからないけど、絶対猫被ってます!」



大広間で騒ぎあっている二人をまじまじと見る二人

そして--


「ふふふっ!仲よさそうで何よりですわね!」

「ああ、やっと打ち解けあってくれたみたいだね」


大広間のドアをパタンと閉め、何事もなかった様にほのぼのと帰る夫婦二人

その後ろではおままごと論争が今だに白熱していました

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