第14話 家族


バリバリムシャムシャ!!


公爵家の大広間に下品な食事の音が響く。

しかしその場にいる誰一人として、それをとがめる者はいない。

「っぷはーー!美味かったー……です!!」


その音を立ててる張本人の少年は幸せそうに最後のデザートを食べきり、腹をさすった。

その少年の隣で小ドラゴンもケプッ、と炎のゲップをした。

「良かったです。やはり子供はたくさん食べるのが仕事ですわ」

ニコニコと優しい瞳で少年を見つめるこの公爵家の主 ミレーシア。

「それにしてもなんであんな森の中に居たんだ?あの森は子供が歩くには危なすぎるぞ」

ロッドは赤ワインを飲みながら少し赤くなった顔をこちらに向ける。

「……魔術に使う素材を探していた……です」

--騎士と王から逃げてました、なんて口が裂けても言えないな。

「その年で魔術に興味があるんだ?中々頭が良い子だね」

「いえ、そんな事は。それにほとんど独学ですのでわからない事のほうが多いです」

一瞬、人を値踏みする嫌な視線をロッドから感じたのは気のせいだろうか。するとミレーシアが何か思いついた様に話し出す。

「でしたら【学校】に通ってみませんか?」

「…………学校?」

突然のミレーシアの提案に首をかしげる。


「学校とは魔術や剣術、学問などを幅広く教える所です。それに午前中で終わるので他のやりたい事があっても大丈夫ですわ!」

「……ほう、それは興味深いですね」

--人間ごときに教えられるのは少ししゃくだが、そちらの方が一人でやるより効率が良さそうだな……。ここら辺で家を作ったら行ってみるか。


チラリと窓を見ると外が暗くなっている。


「良い情報と美味しい料理をありがとうございました。じゃあ俺はこれで……」


イスから立ち上がり頭を下げた少年は、外に出ようと荷物を持つ。だがミレーシアが慌てて止めに入った。

「ちょっと待ってください!どこに行く気ですか?」

「は?……ディナーはもう食べ終わりましたが」

「今外はモンスターで大変危険です!そんな所に子供を放り出すなんて出来ませんわ!」

「……」

--ちっ、めんどくさい女だな。帰りたがってるって態度で気づかないのか?

困った様な笑みを浮かべながら、心の中で毒を吐く少年。

「こらこらミレーシア。少年が嫌がっているだろ」

「でも!!……ロッド、なんとかならないかしら?」


ミレーシアが涙目でロッドを見る。


--なんとかならないから早く俺を解放しろ愚民。少年は二人には見えない様に意地の悪い笑みを浮かべた。


「だったら少年をここに住ませればいいんだよ」

「……?」


先ほどの笑みが無くなり、ポカンと口を開け目を丸くする。三千万年生きてきたがここまで驚いたのは初めてだ。相当な間抜け面を晒していただろう。

「ロッドは天才ね!さすが私の旦那様!」

ロッドにミレーシアが抱きつき、イチャイチャし出した。その二人に熱魔法をぶち込めたらどんなに清々しいか!だが、こちらはそれどころでは無い。

--誰が人間なんかと!!今の内に逃げ出さなければ!


そそくさと逃げ出そうとする少年--しかし


「そういえば屋敷うちには古代から現代に至るまでの魔術書がざっと二千冊あるよ。ここに居れば全部読ませてあげる」

「これからよろしくお願いします。ミレーシア様、ロッド様」


ロッドの鶴の一声により元魔王の少年はマーシャル公爵家の一員になった。

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