ヒミズの晶子さん - 3
「オザザァース、晶子さん!」
「オザザァース!!」
試合を終えた晶子の下に、後輩達が濡れタオルと乾タオル、ドリンク、ミミズ壺などを持って駆け寄る。
「うん、オザザァース」
挨拶(何を言っているのかは晶子にも解らない)を返し、そろそろ地上の明るさにも慣れた晶子は、サングラスを外した。
つぶらな瞳は視力も低く、自宅では蛍光灯も消して、もっぱらピット器官で周囲を認識している晶子だ。
だが、晶子がヒミズの化身であることは、彼女にとって最大の秘密。
(友達や後輩にバレたら、大変なことになる……)
決して正体を気付かれないよう、会話にも細心の注意を払わねば。
晶子は改めてそう決意し、ミミズ壺から摘まんだ物をスポーツドリンクで流し込んだ。
「……うぅ……初めて見たけど、本当にミミズ食べてる……」
「……やっぱり晶子先輩ってモグラなんじゃないの……?」
「……しっ……晶子さんは秘密にしてるんだから、酌んであげなさい……!」
部員達が何やら囁き合っているが、どうやら、彼女がヒミズだとは疑われていないらしい。
モグラは主食がミミズや昆虫で、ほぼそれしか食べないとされるが、ヒミズは果実や穀物だって食べるのだ。
このまま、高校三年間。
ヒミズであることを隠し通せれば、晶子は本当の人間になれる。
そういう契約で、晶子は人の姿と戸籍を手に入れた。
まさか「モグラと疑われてもセーフ」という激緩ルールだとは思わなかったが、このまま「正体を隠して女子高生を演じているモグラ」だと思わせることで、「正体を隠して女子高生を演じているヒミズ」であるという秘密を隠し通せば。
(私も、日本代表としてオリンピックに出られる……!)
それは、晶子がただのヒミズだった頃からの夢だった。
決意に打ち震える晶子。そう、それにだ。
今はそんな彼女に、寄り添う部員達がいる。
「晶子さん。何もなかった私達に、穴掘りの楽しさを教えてくれたのは、晶子さんなんだ」
「晶子先輩が何者でも、私達は晶子さんの味方です!」
晶子はそんな仲間達に大きく頷き……スッ、と、右手を伸ばし、臍の高さまで持ち上げた。
円陣を組んだ部員達の手が、次々に重なってゆく。
「土山高校……ファイッ!」
「ファイッオーファイッオー!!」
「オーファイッオー!!」
抜けるような青空の下、輝く未来に向けた希望の叫びが、高く、遠く、広がってゆく。
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