閑話 盟約に関する記憶

 ――魂。それは、あらゆる世界のあらゆる生きるものが身に宿しているものである。

 死神でさえも、正確な数は把握していない。

 それほどに多くある魂の中には、現世、つまり死ぬまで生きていた世界に留まるものもいる。


 現世に留まる魂で、強い想いを抱くものは現世に対して影響を及ぼすことがある。人の言う幽霊や怪奇現象などは、この想いの現れにより起こるものである。

 また、現世に留まる魂が多くなると、現世でまだ生きている魂自体にも影響が及ぶようになる。影響を受けた生物の魂は揺らぎ、体と魂の結びつきが弱くなる。

 そうすると死んでもいないのに、冥界に引かれてしまう魂が生まれる可能性がある。

 魂を失った体は段々と死を迎え、その時、その体は本当の死を迎えることになる。


 これを避けるという意味でも、現世に留まる幽魂ゆうこんを冥界に送り届けることが必要になる。


 そのため、影浪かげろうの協力には非常に助けられている。

 彼らは一定の条件が必要ではあるが、影の世界のものでありながらも、現世に降り立つことができる。

 影の世界づたいに、現世のどこにでも行くことができる。


 ただ、影浪はそこまで数が多くはない。そのため、自由に動かれると救える魂に偏りが生じてしまう。

 故に我々は盟約において、影浪ごとに動ける範囲を規定している。

 同じ理由で影浪が複数で行動することを、基本的に禁じている。


 そんな影浪に規定を定める代わりに、我々は補佐となる存在を与えている。

 三世界――冥界、影の世界、現世を自由に渡ることのできる、ワタリガラスの姿を模した存在である。

 人の言葉を操ることができ、通例として『ワタリ』と呼ぶ。


 ワタリは、影浪の魂から産み出した存在である。

 冥主めいしゅが影浪に名を与えるとともに、影浪の魂の一部を鎌で切り取ることでワタリを産み出す。

 これは、冥主にしかできない技である。

 ワタリは全て姿形は同じだが、性格にはやや個体さがある。一説には、元となった影浪の性格の影響を受けているとされる。

 影浪の魂から産み出されているため、影浪が消えるとき、ワタリも消滅する定めにある。

 彼らは、切っても切れない関係なのである。


 このように我々は影浪に対し、いくつかの規則を定めている。

 それは言うなれば、不確かな存在である彼らを守るためのものであり、世界のことわりから外れた彼らを監視するためのものでもある。


 我々は彼らの存在を保証してはいるが、監視の対象からは外していない、ということになる。

 魂の管理を通して、世界の秩序を保つのも我ら死神の役目。盟約に関して影浪にはよく思っていない者もいるようだが、これは仕方のないことだ。

 私は、これからも監視する任務を遂行し続けていくだろう。私の意志で引き受けることを決めた以上、役目を降りるつもりは毛頭ない。




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