第三の選択(ジャンル:恋愛)

第三の選択

 ――二股がばれた。


『どういうことなのか、説明してくれるよね?』


 二人の恋人に左右から同時に問い質される。

 初対面だというのに一言一句違えずハモってくるなんて……ハハーン、こいつら実は仲良しさんだな?


 ……なんていう現実逃避な妄想は止めよう。むなしくなるだけだ。


 事の発端は実に単純。

 ちょっとうっかりして、二人を同じ時間に俺の部屋へ呼んでしまったのだ。……うん、うっかりってレベルじゃないな!

 せっかく、今までバレないように上手くやって来たのに。


「前からちょっと怪しいとは思ってたけど……まさか本当に浮気してるなんて!」

「浮気? いやいや、本命はこっち。そっちが浮気相手でしょ!?」


 火花を散らす二人の恋人。当たり前だが、お互いに敵意むき出しだ。

 ……というか、上手く隠してるつもりだったけど、実は怪しまれてたのか。ショックだ。


「ちょっと! あなたも黙ってないで何か言いなさいよ!」

「そうだよ! この際だからはっきりこの女に言ってやってよ! 『お前とは遊びだった』って」


 そして矛先は再び俺に。

 ……俺としてはどちらも本命のつもりだったんだけど、そんなこと言ったら火に油だな。

 どうしよう?


「そもそも……まさか浮気相手がこんな奴だなんて! そういう趣味があったの!?」

「それはこっちの台詞だよ! よりもにもってこんな……女なんかと!」

「え、ええと。その、二人ともまずは落ち着いて――」

『落ち着けるわけないでしょ!?』


 二人の声が再びハモる。

 この二人、冗談抜きで相性がいいというかテンポが同じというか。

 もしこういう出会い方じゃなかったら、いい友達になっていたんじゃなかろうか?


 ――再びそんな現実逃避な妄想を浮かべた俺をよそに、二人は更に言葉を重ねる。

 けれども二人の言葉は、今度は完全にハモることは無かった。


「浮気相手がだなんて、落ち着けるわけないでしょ!?」

「浮気相手がだなんて、落ち着けるわけないだろう!?」


 ――そう、俺の二人の恋人は、片方が男でもう片方が女なのだ。


「私とあんなに愛し合ったのは嘘だったの!? 本当は男の方が好きなの!?」

「僕とあんなに愛し合ったのは嘘だったの!? 本当は女の方が好きなの!?」


 二人は、ほとんど同じだけれども決定的に異なるそれぞれの言葉で、俺を問い質す。

 そのあまりの迫力に、俺は恐る恐ると言ったか細い声をなんとか振り絞り、答える。


「いや、あの、その……ごめん。実は俺、男も女も、同じくらい好きなんだ」

『はぁ!?』


 本当だった。

 俺は物心ついたころから、男も女も両方が恋愛対象であり性愛対象だったのだ。

 興味本位とか気の迷いなんかじゃなく、どちらも好きなのだ。


 二人は流石に戸惑ったらしく、お互いに顔を見合わせていたが……すぐに何かに気付いた表情を浮かべ、再び俺を問い質し始めた。


「え、えーと……あんたが男も女も好きってのは分かった。でも――」

「それって、浮気の理由にはならないよね?」

「うっ……」


 痛い所を突かれた……というか、そもそも俺は言い訳をしたわけじゃなく事実を言ったまでのことなので、二人への答えにはなってなかったのだ。

 繰り返しになるが、俺にとってはどちらも本命なのだ。でも、それを正直に言ったところで二人は納得しないだろう。

 一体何と答えれば、二人は納得してくれるだろうか?


「ほら、『気の迷いでした。もう浮気はしません』って言ってくれれば、今なら許すからさ」

「おいちょっとふざけんな。……本命は僕だよね? ね?」


 ――二人は答えを迫ってくる。

 俺は……俺は……!


「その……さ、提案、なんだけど」

『はい?』

「さ、三人で仲良くするってのは、どう?」

『……はっ?』


 「どちらかを選ぶことなんて出来ないのなら、両方選べばいいじゃない!」という俺の天才的な発想だったが、どうにも二人の反応は鈍い。

 しばらく二人してポカンと口を開けていたが、やがてその表情は憤怒に染まり――。


『ふざけんなこの糞野郎!』


 一糸乱れぬ二人のダブル右ストレートが俺の顔面に炸裂した。

 ――君ら、やっぱり、息ぴったりじゃない……?


 最後にぼんやりとそんなことを思い浮かべながら、俺の意識は闇へと落ちていった。



(了)

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