雷って カミナリ と ライ 以外になんと読むか知ってますか?〜小豆を添えて〜

拓魚-たくうお-

「雷って カミナリ と ライ 以外になんと読むか知ってますか?〜小豆を添えて〜」

 サヤカ。二十八歳、女。


 私は今、電車に揺られながら、彼からのLINEを一瞥いちべつしている。


 『悪かった』


 くだらない。それが第一の所感だった。


 私は別に、彼に対して切歯扼腕せっし やくわんしてる訳じゃない。


 もちろん、朝から降り続く雨に怒りを覚えている訳でもない。


 浮気をされた。ゴミのように捨てられた。


 その事実と、情けない自分に苛立いらだっているだけだ。


 「別れてくださ」


 そこまで打って結局、全て消した。


 さっきも言ったけれど、私は決して彼に怒ってる訳じゃない。


 彼のことは嫌いじゃない。


 むしろ、好き。


 大好きだった。


 誰よりも、何よりも彼が好きだった。


 中性的なあの横顔が好きだった。


 私より少し高いあの背丈が好きだった。


 彼と過ごす夜が好きだった。


 そんな大好きな彼に、私は尽くした。


 尽くして、尽くして、そして捨てられた。


 捨てられた途端、今までしてきたこと、あげてきたもの、捧げてきた愛情、そのなにもかもが馬鹿らしくなった。


 「あーあ。」


 気がつけば私は、溜め息混じりの少しばかり大きな声で嘲笑ちょうしょうをあげてしまっていた。


 そして声をあげたのを皮切りに、涙が止まらなくなってしまった。


 あーあ、電車の中なのに。

 あーあ、周りに人がいるのに。


 だけど今の私にとって、そんなのは至極しごくどうでもいいことだった。


 彼の目だけ、彼のことだけ気にしていた私にとって、周りなんてただのエキストラにすぎないのだから。


 とにかく今は、今だけは泣かせてほしかった。


 本当は泣きたかった訳じゃない。


 そんなつもりでこの電車に乗った訳じゃない。


 だけど少なくとも私は、この涙を止めるすべを知らなかった。


 涙を一つ零す度、彼の表情を一つ思い出した。


 そうして気がついた。そういえば私は、彼の不満げな顔を見たことがない。


 ああ、それもそうか、私は彼の笑顔を見たかったから尽くしたんだ。どうやったら喜んでくれるかって必死に考えたんだ。


 それで不満げな顔なんてさせられるはずがない。


 少し鼻で笑って、彼とのトークを閉じた。


 それと同時に、電車が停まった。ああ、私が降りる駅だ。


 スマホを仕舞って、バッグを持って、ゆっくりとホームに降りた。


 そして、一つ笑った。


 「ばいばい。」


 雨も涙も、いつの間にか止んでいた。

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