第2話 ヨルの季節

 憂さ晴らしのために友人に会いに行く。

 最寄駅で彼を待っていると、巨大なテディベアが手を振りながらこちらに近づいてきたので、思わず身構える。

「おう」

「なんだシゲさんか」

「なんだ?」

「赤いリボンなんてしてるから、一瞬誰だか分かんなかった」

「お前と違って、おれはこだわりがあるわけじゃないから」

 連れ立って店に向かう。

 二本足ですたすたと歩くシゲさんの横、というよりむしろ足元を、ダンゴムシ姿のわたしはよじよじと七対の脚で猛ダッシュする。

「シゲさん太った?」

「いや?お前こそ脱皮した?」

「うそ、なんでばれた?」

 だって、とシゲさんが口を開きかけたとき、背後から強烈な光を浴びた。振り返ると、一台のトラックが猛スピードでこちらに迫ってくるのが視界に入った。

 びっくりしたわたしは反射的に丸まり、ころころと坂道を転がっていく。「モリ!」とわたしの名前を叫ぶ声が急速に遠ざかっていく。

 どれくらい経ったのだろう。暗闇の中恐怖で震えていると、モリ、とわたしを呼ぶシゲさんの声が頭上から降ってきた。恐る恐る縮こまった体を解いて顔を上げると、シゲさんの心配そうな顔があった。

「ごめん」

「ケガがなくてよかった」

 シゲさんにぽんぽんと汚れを叩き落とされながらそっと坂道を見上げる。

 そこには大破した、見るも無残なトラックの残骸があたりに散らばっていた。

「早く行こう」

 シゲさんが無表情に歩き出し、わたしもそそくさと後を追う。

 テディといってもやはり彼はベアなのだと、心に刻む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る