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boys making some...

01. Thu., 3/10/2038

 その場所でたまきは足を止めた。

そして①視点を客観視点に切り替えて、②フレームと画角をいくつか試してみて絵づらを確認し、③自分の位置の微調整をして、もっとも見栄えの良い位置に自分が来るようにした。


2018年の読者に向けて、上記①②③の行動について解説すると、具体的には以下のような手順をしたことになる。

①視点を客観視点に切り替える。

⇒ 左手の親指と中指を少し折り曲げてから広げるように伸ばし、眼球を軽く上に向ける。それに加えて、頭蓋骨内のチップとの連携だ。


②フレームと画角をいくつか試してみて絵づらを確認する。

⇒ 右手の親指と人差し指の距離や角度の位置関係、それに手自体を動かす。それに加えて、頭蓋骨内のチップとの連携だ。


③自分の位置の微調整をする。

⇒ ただ、足を動かして立ち位置をいくつか試してみただけだ。



環は立ち位置を決めると、主観視点に戻した。(← 左手の親指と中指を、先ほどの①とは逆に動かし、眼球を軽く下に向ける。それにもちろん頭蓋骨内のチップとの連携)。

主観視点でないと、アイディアとイメージが上手く流れてこない気がするのだ。

これは環の考えによれば、クリエイティビティというものは身体の内側から湧いてくるものだからだ。



 この場所、今でも山手線という名の環状線内で唯一とも言える超高層のタワーマンションが建っている場所。

周囲が低層なだけに、遠くからもはっきりとその姿を確認できる建築物のすぐ足元だ。

なぜこの低層地帯にタワーマンションが建ったのかといういきさつや、あるいはかつてこの辺りに住んだ作家の名前など、この場所に関する歴史を見ようと思えばいくらでも視界に表示する事はできる。

しかし今の環は、その機能を切っておいてある。

今の環にとって、この場所に堆積するそれらの歴史は、腑分け的に「知る」ものではなく、大気や光と一体化して「感じる」ものだったから。


このタワーマンションの足元で、環はレコードを作りたいと思っていた。

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