第22話 ショートストーリー六 ラストダンジョンへ

僕は、まだカメタだ。僕は最高のヒーローだ。コマペンを倒したヒーローだ。僕とキラーは戦った。僕の剣はサツイのコクピットを貫き、キラーの剣はカメットのコクピットを貫くことは出来ない。決着は着いたのだ。サツイよりもカメットの性能が上だったのさ。もう、僕に立ち塞がる者はいない。

キラーは殺意の世界を知っている。同時に、僕は『優しい世界』は求められていないと、知ることが出来た。僕の大きな『ユメ』は、叶わなかったんだなあ。

僕はナナにそれを報告する。ナナは驚いて尋ねる。

「カメタよ、本気でクワン大陸へ渡るのか?」

「僕のユメはここにはないから、本気だよ」

クワン族のリーダーナナは、クワン大陸にはいない。クワン族はナナを失い、統率はとれていないのだ。何故なら、ナナはクワン族と人間という二つの種族のトップだから。

アイカは、僕が旅立つ前に止めにやって来た。

「カメタ兄さんは、それがどれだけ危険か理解しているのですか!」

僕は、その問いをはぐらかす。

「キラーなら人々を導ける。僕は安心してキラーにこの国を任せることが出来るんだ」

アイカは誰かと連絡をとりながら続ける。

「まあキラーさんが暴走しても、止める力が人類にはあります。ならば私は、

『道の学校』にある『カガミ』を試してみます。ラスボスに私はなります」

ミラーに記憶力はあるのか? コマペンが正しいと思うのは、それだけ。コマペンは最後まで、『道』と『ミラー』にこだわった。そして今、コマペンは畑で作物の収穫をしている。ミラーに映った存在は、自らを確かめるだろう。次の瞬間に、ミラーは別のものを映す。前回映ったものを忘れたかのように。

なあ、カメットソード。お前は僕の持ち物にはなれない。僕は落とし物をわざと行った。アイカは、未練を拭い切れない。

「兄さんは、ロードクイーンを道に配置しましたよね? カメットソードは、ロードクイーンに預けておきます。カガミ少年はそれにふさわしいのか? 私はそうは思わない」

道の学校から、カガミ少年は問題児と聞いている。曲がりくねった道ばかり作り、事故が多発することを楽しんでいると。ミラーにそれを映し、記憶していると。

ミラーに映った者を記憶するのは、ミラー『そのもの』ではない。かがみに映った『被害者達』なのだ。『優しい世界』を実現出来るとするならば、『ミラー』だけさ。何故かと言うと、『カガミ少年』はミラーに映った者を楽しませているじゃないか。

僕の言葉を信用しきれないアイカは、一つの実験をする。僕は野球のボールを空へと投げた。アイカが言う、

「私が兄さんの言葉を確かめてきます。空の道『ホムラ』は本当に楽しいかをね。そして世界、心の草を持っているかを」

僕は言う、

「そろそろ行くか」

「私はまだ認めていません」

しかし、アイカが僕を追ってくる様子はない。こういう時、アイカは無茶な行動に出ることが多いのだ。アイカは間違いなく、僕に無断で何かをしようとしている。アイカはもう大人になったはずだ。僕がそれを止める権利などもうないさ。カメットを操り、僕は海を越える。無断で大陸を越えるのは、勿論犯罪だ。

大きな大戦は終結した。今、クワン大陸では二つの勢力が暗躍している。表に出ることの少ない、厄介な連中さ。一つは『ノウエン』といい、食料を原価無視で食料を原価無視で売りさばく。もう一つは『ダーク』という組織で、光エネルギーを売り大金を得ている。光エネルギーはナナが撤退命令を出したが、全員が従った訳ではない。ノウエンもダークも、食料という文化の無かったクワン族を逆手に取った商法をとる。

そして僕は、この大陸で畑を耕していた。いやー、この大農場で働くのは、ロボットバトルより楽しい。汗が流れていく。

ノウエンが動き出した。やはり来やがったな。僕はクワン大陸に二つの組織を作っている。一つは、人間達の農場経営を支配する。もう一つは、フロンといい、クワン大陸を調査する組織だ。当然、どちらの組織もクワン大陸では認められない。だが僕は、コマペンを倒したヒーローの名を使い、ゴリ押しする。僕は、犯罪を支援していることになる。

それにしても、ヒーローの名は便利だぜ。クワン大陸でさえ、カメタの名はとどろいている。というか、ナナがとどろかせてくれた。

しかし、もったいない。これほどの食材を持つクワン大陸が、食材に価値を認めていないとは……。まだ安全が百パーセントは認められていない。すなわち、未知な食材の調査が足りていないが、フロンの調査部隊はいい動きをする。大きな大戦は終わったが、僕達はノウエンとダークを牽制するため、仮の武装集団を名のっていた。

一人の兵士が報告に来る、

「シャドーさん。ダークのトップは、クワン族ではないのです」

僕はいつの間にか、シャドーさんというニックネームをつけられていた。シャドーサンという特撮にでも出て来そうな由来だ。

まあ、それはいいとして、光エネルギーはめぐみの光を遮ったのが戦いの始まりだ。それを大金を得るためにクワン族を騙したダークのトップが、僕達の国の商人だったとはな。その商人は、クワン族の誇りを持てと言っていたらしい。だんだんバカらしくなってきたぜ。

もう一人の兵士が来る、

「ノウエンとダークは裏でつながり、『道の学校』に協力している模様です。シャドーさん、どうします?」

ちい、アイカの読みは鋭かった。道の学校のカガミ少年に、キラーの乗っていたサツイをコピーして授ける。そして、ジュウ少年にはグシンの乗っていたキョウジンのコピーを渡す。

道の学校は別世界で、再び大きな大戦を引き起こそうとしていた。『扉を貫く絵』を、逆方向から利用するのか! ここは、ロードクイーンに働いて貰おう。カガミ少年がカメットソードにふさわしいか試してやる。

僕は確認のため、アイカと連絡をとった。

「何処にいる、アイカ?」

「カメタ兄様。私は、ラストダンジョンの最終フロアにいます。ノウエンとダーク、そして道の学校の野望を阻止するために」

「わかった。僕も向かう」

そこで、キラーが乱入して来る。

「シャドーさんは、クワン大陸で大人しくしている。どうも、カメタの方が言いやすいな。サツイの炎の力は、カメタに伝わったはずだ。ここは、アイカを独り立ちさせた方がいい」

僕もそれに納得した。

「もう、キラーとアイカの好きにしろ」

アイカは言う、

「クワン大陸を兄さんは守って下さい。キラーさんは、私達の帰る所を確保して下さい。私は、ラスボスを演じましょう」

クワン大陸の二つの組織は、道の学校を調べるためにロードクイーンを置いた。シャドーさんの名の下に。カメットソードは僕のためにある訳じゃない! そんな予感がしていたから、僕はカメットソードをカガミ少年に託すことにした。シャドーさんの名前は、クワン大陸の犯罪意識を上書きすることに成功したのだ。ヒーローの名を僕は何時までも利用してやる。最後の大戦は、アイカに託そう。

ヒーローの名前は、『きっかけ』を『破壊』する危険なものだ。だが、使い方次第でどうにでもなるのさ。さあ、カガミ少年は道の中で真実を記憶出来るのか? コマペンの理論を試させて貰おう。

僕は今日も畑を耕し、シャドーサンとなる。後は、この大陸の人々で何とか出来る。それほどの生命力を持つ種族が、二つの大陸に存在するのだ。一つの考え方に捕らわれるのは、今日が最後だ。僕は久しぶりに道を歩こうと思った。

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