第21話 優しさを増幅する者

コマペンは言う。

「やるね、カメタ達。でもね、僕も決断したんだよ、ずっと昔に。揺らぐことのない決意。でも、間違っているのなら、僕は必要のない存在。僕は、必要のない存在じゃないんだ。みんながきっと再会を待っている。だから、どうしても負けてあげられないんだ」

シロクマが言う。

「コマペン様……。オレはあなたの全てを守る」

「シロクマ……。ぼくのわがままに付き合ってくれてありがとう。いつか、また会おうね。どんなに遠く離れることがあってもね」

シロクマは言う。

「これからはシャケだけじゃなく、野菜も食べます。オレもいつか、畑を耕したい。この肉体で……」

「ありがとう。本当にね。でも、ぼくはわがままなんだ。変わることはない」

「オレも変わりません」

コマペンは嬉しそうだ。僕達の戦いの後に待っているもの。それは、優しさだと信じているから。制御によるものでもなく。ロックされたこの心で何度でも戦うよ。

僕は変幻でコマペンを切り刻む。ショートソードからミドルソードへ。僕がロングソードに切り替えた時、コマペンはミドルビームを放つ。見えないビームは厄介だ。

僕達は凄い疲労の中にいる。アイカは必死で歌う。声がかすれているが、それでも歌う。それでも歌は力と化す。キラーのビームも細くなってきた。コマペンもバテバテだ。

シロクマとロランさんの激闘も終わらない。もう、泥試合だ。でも、目だけは生きている。キングビームが決まったか? ロランさんは、そこから更に追撃する。気力だけがここには存在するのか……。

キラーはエネルギーを貯める。クマちゃんのクローが決まる。コマペンが言う。

「これから歩む道で、通り過ぎていく景色も人もあらゆる存在も、きっと誰かが見ているんだ。忘れたとしても……。見えていなくても……。心が変わらないことなんて無いんだ。あの日々も。あのペンギン達も、会った時には何かが欠けているんだ。再会した日にも欠けているんだ。時の中でそれを取り戻すことよりも、僕達は進むんだ。新たなものを手に入れるため。そう思う……。カメタ、君は不思議だね」

薄れていく景色の中で、愛しい者を見た。そんな気がした。僕が不思議だと言うのなら、全ての存在が不思議なのだろう。僕こそがエゴイストなのではないかとさえ思えてくる。僕は名刀の使い方を、何時から忘れたのだろう? 今は変幻をやみくもに振り回しているだけだ。作った者が、父さんが泣くよ、この有り様を見たら……。義理の父さんが、成長を祈って作ってくれた名刀変幻。カメットの力ではない。ここの近くの海はただ静かで、愛しい存在が再び見えた気がする。

キラーが言う。

「オレは諦めない。コマペンを殺すまで……。殺意の炎は絶対に消すものか!」

アイカは言う。

「ぐにゃぐにゃです。兄さんが見えた気がします」

そうか、僕達はコマペンに追い詰められているんだ。僕達の決断を、終わらせる訳にはいかない。父さんの意思、負け犬魂は形を変えるんだ。僕達は敗れてはいけないんだ。

ローラが言う。

「カメタ君、ギア一でいいよ。私達が何とかするよ、休んでいてね」

ジローが言う。

「キラーのこんな姿、ローラ様に敗れた時以来、見てないな」

ハナコも続ける。

「フフッ、微笑ましい光景ね。地獄に墜ちろ、バカ三人組!」

僕は言う。

「ローラ先輩。それにジローとハナコもついでに」

「ついでに、か」

と、ジロー。ハナコは言う。

「そのようね、バカ三人組」

僕は大声で笑う。

「嬉しそうね」

と、ハナコが言う。

キラーが言う。

「任せた。だが、殺意の炎が捉えるのはコマペンだ、このオレによってな」アイカが言う。

「私は休ませて頂きます。視界がぐるぐるです」

僕はギアを一に戻す。それでは、見学の始まりだ。シロクマが言う。

「野菜を作るんだ。シャケを植えたら何が出来る?」

ロランさんが言う。

「何も出来ねえよ。シャケが腐るだけだ」

コマペンが言う。

「そんなことはないよ。きっと、いい思い出になるよ」

ロランさんが言う。

「精神論はあまり好きじゃなくてな。ここは、笑っておく。フハハハ。さあ、決着を着けよう、シロクマよ」

「望むところだ!」

ローラが言う。

「兄さん、無理しないでね。後でわたしも行くから」

「バカだな、オレの妹は。オレはくたばりはしない」

ジローが言う。

「ローラ様をサポートする」

ジローに続いてハナコも言う。

「当然!」

三対一でも、コマペンは圧倒的に押す。クイーンがカギなのか? ローラ先輩は、多くの人々を救う医者になるんだ。本当は、こんな所で戦うべき人じゃあない。ローラさんが言う。

「私の歩んで来た道に間違いなんて無い。ポカをやったとしても、無駄ではない。たくさんのものが見られたから……。それがきっと、医学にも役立つから。行動すればするほどバカをやる。でも、多くのものを見ることが出来る。みんなが助けてくれる。カメタ君にも会えた。だから私は、全てを救いたいと思う、願う」

クイーンの性能が上がっている。ビームの切れも素晴らしい。しかし、コマペンは強い。どうやったら勝てるんだ!

僕は言う。

「そろそろ替わります、先輩」

「私は戦うんだ。カメタ君の結論と共に……」

「先輩……」

激闘は続く。この戦いに終わりはあるのだろうか? この戦いは傷を残す。しかし、それ以上のものを勝ち取らなくてはならない。どうすれば、それが出来る? コマペンは恐ろしいヤツだ。勝てる気がしない。しかし、愛しい者達のために、大切な人達のために、出来ることをしたい。それが、休むことなのか? 僕はひたすら考える。答えは何処だ?

クイーンに、コマペンのクローが迫る。これはヤバイぞ。渾身の力が込められている。コマペンは叫ぶ。

「いくぞー。また会おうね」

ローラは言う。

「くっ、私はまだやることでもあるんだ」

キラーが急接近を使う。コマペンが言う。

「何だって? このスピードは何だ」

キラーが答える。

「殺意だ。それ以上の言葉は要らない」

ローラが言う。

「キラー君。ありがとう」

キラーが言う。

「きさまは、このオレ自身が仕留めなければ気がすまない。あの敗北を味合わせてやる」

「バカには無理だ」

とジロー。ハナコも言う。

「でも、ここは礼を言っておくわ。いつか死ね、キラー」

それってお礼なのか? しかし、よくやったキラー。コマペンは大ダメージだ。ローラさんが言う。

「じゃあ、後はカメタ君達に任せるよ。交代したくなったら言ってね」

キラーが言う。

「その日は来ない。来るのは、殺意に満ちた世界だ」

「ほざけ!」

とジロー。キラーは言う。

「ふんっ、仕留める!」

ハナコも言う。

「ふんっ、任せるわ」

激闘の末に待っているのは優しさだよ。キラーもきっと分かっている。アイカもな。行くぞ、ギア六だ。変幻よ、力を僕にくれよ。そして、コマペンに叩き込む。百六十メートルだぞ。コマペンは、大打撃を受けた。そして言う。

「カメロウなのか? カメロウが変幻を持っている……。そんな姿が見えた」

父さんの姿だと。そんなもの、何処に見えるんだ? シロクマが言う。

「この威圧感はカメロウだ。最強のカメか。その力は、コマペン様にも通用したという」

父さんの姿、それは何処にある? 僕には見えない。

カメットが言う。

「お帰り、カメロウ君。君の息子は凄いな。平和の意思もやっつけちゃうよ。カメットソードよ、僕に力を……くれ」

ロランさんが言う。

「カメタ君と重なっている。意思だけがそこにある」

コマペンが言う。

「凄いね。カメロウとは、一緒に野菜を作ったな。野菜が大好きで、僕も嬉しかった。でも、負けてはあげないぞ。望むところだって、言ったように思う。この困ったペンギン様に向かって生意気だぞ。本気出しちゃうぞ」

僕は言う。

「望むところだ」

キラーも言う。

「決着を着ける! いくぞ、サツイ」

アイカも言う。

「クマちゃん、もうちょっとだけ頑張って下さい。準備万端です」

いくぞ、カメット。そして、カメットソード。そして、変幻。このビームにも助けて貰ったな。フルパワーを見せてやる。限界を超える。最強のトライアングルだ。父さんの意思か。それは、何を意味するか分からないが、きっと僕達を応援してくれているんだ。

コマペンが言う。

「カメロウとカメタが重なる。いや、カメタはカメロウを超えた。それは何故だろう? きっと、会いたいからだ。すれ違っただけの者達と。それがきっと優しさなのだろう」

シロクマが言う。

「トイレは、まだ我慢出来るぞ。来い、ロラン!」

ロランは言う。

「トイレから帰ってからでもいいぞ。逃げるなよ」

「ふん、ありがたい」

激闘は続いていく。戦いは終わらない。見えないビームが三弾か。避けられるはずがない。それにしても、カメットは凄いロボットだよ。こんなにも頑張ってくれる。優しさで満ちた世界が見える。優しさで包んだ世界と、包まれた世界が見える。キラーが言う。

「それはどうかな。何かまがまがしい世界も見える」

アイカが言う。

「私は限界まで行きます」

元気な世界が見える。色々な世界が見える。コマペンが言う。

「変わらないと思っていた。でも、変わってしまうかも知れない。この我が儘は……。世界のバランスさえも変える力がトライアングル。望むところだよ。いくよ、

トライアングル。決着を着けよう」

心は何処にある? 肉体の中? 違うね。二つで心だ。父さんの意思が、そう告げる。キラーのロングビームが連射される。アイカが勝利の歌を歌う。ここに勝ち負けなど無いというのに……。それでも耳を傾ける。百八十メートルの変幻を食らえ、コマペンは限界のはずだ。決まれー! しかし、コマペンは耐えきった。しかし、僕は諦めない。ここで決めるんだ。波の音が聞こえる。最後の場所は、ここじゃないんだよ。

キラーが言う。

「オレの殺意を集中させる。決めろ、カメタ」

アイカが言う。

「私の想いを歌にします。決めて下さい、兄さん!」

僕は言う。

「当たり前だ。僕達全員でケリを付ける。行くぞー!」

その先にあるものが、優しさに包まれた世界でありますように……。コマペンが言う。

「僕とカメタの共通点は何だと思う?」

僕は答える。

「決まっているだろう。野菜好きだろ」

「なら来い。僕の心を揺るがしてみろ」

キラーの殺意が、ビームと化す。アイカの歌が響き渡る。鳥達も昆虫も耳を傾けている。最後の時が迫る。見ていてくれ、義理の父さん! 変幻は成長し続けるよ。ほら、二百メートルにもなった。しかし、重くは感じない。軽くもない。その先に見える世界のための力があるから。みんなの力があるから。叩き込む! 行けー、突撃! 一撃必殺だ。それは、コマペンにクリーンヒットした。凄まじい手応えを感じる。

しかし、そこに存在するのはコマペンだ。嘘だろ? 僕達負けたのか? 諦めるな、もう一度だ。二百メートルでダメなら二百一メートルだ! しかし、そこは時間が止まった世界のように思えた。ロランさんもシロクマも手を止めている。

コマペンが言う。

「カメタよ、いやカメタ達よ。僕の、僕達の負けだよ。覆っちゃったよ、僕の心がね。自由と共に歴史を変えてね。カメタ達なら平和の意思も覆せる。いや、もう歴史は変わったんだ。再会出来るか解らないけど、故郷のみんなもそれを願っている、そんな気がする。僕の我が儘は、ここで終わりだよ。君達が歴史を変えた、そして今から作るんだ。世界を壊さない歴史を、自由と共にね。というのも、お腹がすいて、もう限界だったんだ。もう、力が出ない。そうだ、野菜パーティーしようよ」

「ああ」

終わったんだ。いや、今からが本番なんだ。そして、たらふく野菜を食べるんだ。

キラーが言う。

「ああ、じゃねー! 肉食のオレがそんなものに参加出来るか。これぞ、最高の殺意だ」

アイカが言う。

「私もキラーさんに同意します」

ローラさんが言う。

「ハハハ、勝っちゃったよ。凄いよ、カメタ君。私、冒険者止めるね。医者になるから……」

僕は答える。

「はい、先輩。僕は優しい世界を作ります。協力お願いします」

ローラさんが言う。

「お安いご用よ、カメタ君」

「野菜」

とジロー。ハナコも続ける。

「食べたい」

アイカが言う。

「そんなものは中止です。焼肉にしませんか?」

僕は言う。

「折角、コマペン特製の野菜が食べられるんだぞ」

キラーが言う。

「アイカに賛成だ。サツイもそう思うだろ?」

サツイが言う。

「どーでもいい」

コマペンが言う。

「両方やっちゃおう。お腹ぺこぺこだよ。シロクマも食べたいってさ。これで、平和の意思との戦いも終わりだー」

ロランさんが言う。

「お好み焼きに決まってんだろ」

シロクマが言う。

「コマペン様のキャベツは絶品だ。お好み焼きにも合うだろう」

ロランさんは言う。

「みんなやっちゃえ」

全員が賛同する。


それから、約二年が経過した。コマペン達との激闘からだ。アイカは、どういう訳か歌手に成ってしまった。みんなは、アイカの歌を聴くと力が湧くと言っている。アイカは、たまに差し入れを持って来てくれる。頼むから、毎日来てくれよ。ナナの料理はあまり上達しない。そして、それを無理矢理食わされる。

僕はナナの次の長に決まってしまった。連合国の長だ。しかし、あまりにもバカということで、ナナに内政などを教わっている。ナナが言う。

「ローズ様、このバカに少し知恵を分けてあげて下さい。カメタ、ゲームやっている場合か」

僕は答える。

「最近は、大人でもゲームはやるんだぞ。まだ、ローズにこだわっているのか」

「当たり前だ。ローズ様以上の人など他にはいない。と言うか、誤魔化すなカメタ!」

僕は言う。

「くっ。父さんと戦っているんだよ、いいだろ」

ナナが言う。

「凄く優しさに包まれた世界にしたいんだろ。キラーに先を越されるぞ。最強のパイロットとか言われて調子に乗っているのだ、お前は」

僕は言う。

「カメットのプラモデルはプレミア付きだぜ。あと、サツイもクマちゃんもな」

「プラモデルは、ナイトだけでいい」

「またローズかよ。しかし、キラーか……」

キラーは、ゲーム会社を立ち上げた。どれだけ殺意を込めた実戦が出来るか、というテーマだ。実戦ではないがな。キラーは、嫌いなヤツの顔をロボットにするとか、実に下らんアイデアを出したようだ。ゲームはあまり売れていない。ところでキラーよ、殺意に満ちた世界は何時来るのかな? あいつと、今日会う約束をしているんだ。久しぶりだな。

キラーは戦い続けている。そう、優しいだけの世界にしないために。僕にもアイデアをくれる。ナナをうならせるアイデアまで出して、僕の立場を危うくさせることもある。ここは、キラーをスカウトしたいぐらいだが、ゲームにこだわっているようだ。ゲームというより、会社が大事らしいな、自分で立ち上げたのだから。キラーの両親は、彼を相当心配しているようだ。当たり前だな。キラーは実験体だった。しかし、その枠を超え、殺意により優しさだけの世界にならないようにしてくれている。まさに、優しさを増幅する者である。キラーは言う。

「始めるぞ!」

キラーが来たようだ。僕は、

「久しぶりだな」

と答える。

「挨拶などどうでもいい。殺意に満ちた世界よ、待っててくれ」

「この五流社長が。そんなこと出来ると思っているのか?」

「今の連合国の長より格下のお前も、優しさで包まれた世界など作れない。しかも、ナナにあごで使われている」

「ごたくはいい。始めるぞ、あの模擬戦の続きを」

「それでこそ、オレのライバルだ」

戦いが再び始まる。優しい世界のための戦いが。というより、どちらが望んだ世界に近いかという喧嘩のような気もする。


パーツショップ店長の日記 四 答え

カメタは落し物をして、決断出来ない。カメタの落とした物『信念』をみんなが拾い、カメタに届ける。それはカメタの心の草を急成長させ、カメットソードより変幻を持つ自信をカメタにもたらす。

仲間達から貰ったエネルギーで、カメタはコマペンに一撃を叩き込む。

優しい世界も殺意の世界も訪れることはない。それは、カメタとキラー君はライバルのままでいたかったからだ。本気ではなく、理想であると言い聞かせて、現実味がない世界だったとも言えよう。

【つづく】

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