第16話 バランス

あれから二ヶ月が経過した。ナナが連合軍のリーダーに任命された。人間とクワン族との連合軍が結成されたのである。僕が尋ねる。

「ナナ、さま……」

「今まで通りナナでいいと言っておる。お前、本当におばさんに似ているな」

おばさんて誰だ? それに、僕達三人は今ナナに呼び出されたところだ。連合軍は、この星を守るためにも兵士が必要ということで、コマペン退治には必要最小限で行うことになった。

僕は言う。

「なあナナ、おばさんって誰だ?」

「変り身、早っ。本当におばさん、いや校長に似ている」

母さんのことか。母さんをおばさんと呼ぶとはな。どこら辺が似ているのだろう。キラーが叫ぶ。

「さっさと用件を言え、ババア」

「それはまずいかと思います、キラーさん」

とアイカ。ナナも言う。

「お姉さんと呼び直せ、キラー」

いろいろと、大変なことになっているようだな。キラーが言う。

「ふう、それよりローズのことはもういいのか?」

それを聞いていいのか、キラーよ。誰も口にしなかったことだぞ、多分な。ナイトは木端微塵だしな。ローズは本当にいなくなったのか。死んでしまったのか。ナナが言う。

「いやっ、ローズ様はまだ私のことを守っていて下さるように思えるのだ。あの人が、そう簡単に逝ってしまう訳がない。私に未練があるはずだ」

キラーが言う。

「ムチャクチャだな。最初の方、かなりクサイ台詞だぞ」

「うるさい。とにかく、カメットをいじくり回していたら、扉を貫く絵とやらの場所が解りそうなのだ。そこへ向かうのだ、三人共! 正確な場所は、カメタにしか解らんだろうな」

僕は言う。

「僕にも解らない。あと、ナイトは木端微塵だったな」

ナナは答える。

「うん……」

アイカが言う。

「ナイトはもう必要ないと、ローズさんが思われたのだと私は思います」

「そうかもな……」

ナナは寂しそうに、そうつぶやいた。

キラーが言う。

「ナイトと言ったら、かなり高性能のロボットじゃないか。そう簡単に諦めるのは、もったいないぞ」

僕は言う。

「そういう意味ではないぞ、キラーよ。ライバルよ」

僕は苦笑いをする。それに、遊びに来た訳ではないはずだ。ナナが言う。

「なあ、カメタ。お前にユメはないのか?」

「ユメ?」

「うむ、ドリームだ。野望だ。この戦いが終わってプーという訳ではないのだろう?」

そう来たか。どうなんだろう? そうだ、一つあったな。

「キラーの殺意に満ちた世界を阻止することだ」

「俺は、カメタの作りたいとかいう優しい世界を阻止することだ」

キラーが負けずにそう言う。ナナはゲラゲラと笑っている。ナナの笑顔は、結構あどけない感じで可愛いな。青髪も地毛らしいが……。ナナは言う。

「アホだろ、お前ら。ラブラブだなあ。おい。それなら、この戦いが終わったらカメタに内政について教えてやる。感謝しろ」

「本当か? 有り難い」

アイカは、不機嫌そうな表情になった。何故だろう? まあいいや。ナナが言う。

「アイカにはないのか? ユメはお兄ちゃんのお嫁さんに、とか言いそうだな、おい」

「そんなこと言いません」

「なら何だ?」

「うーん、どうしましょう」

「まあ、焦る必要はないさ。じっくりいこう」

「はい」

アイカは素直に答える。ナナは優しく微笑む。ナナのショートヘアーが風になびく。アイカが言う。

「兄さん、行きましょう」

キラーが言う。

「アホらしくなってきた」

ナナも言う。

「うむ、行ってこい」

僕は言う。

「うん、って何処にだよ?」

「カメタになら解るはずだ」

と、ナナ。ムチャクチャだ。とにかく、扉を探せばいいんだな。カメットのレーダーを使うか。行くぞ、カメット! 久しぶりに大暴れだぜ。トレーニングは欠かさなかったが、実戦はしていない。

それにしても、今まで戦争をしていたというのに、ナナは人間とクワン族をあっという間にまとめあげてしまった。ローズ以上の逸材かもな。それにしても、仕方がないとはいえクワン族を殺したのは、罪の意識が残る。しかし、悲しみを背負うと決めたんだ。センチになっている場合じゃない。キラーが言う。

「本当にこっちの方向で間違いないのか?」

「うるせー、ライバル」

と僕。アイカは言う。

「兄さんを信じなさい、キラーさん」

そこまで信じられると困るがな。その時、レーダーに反応だ。二人も気づいたらしい。やはり扉に入られると困るのかな、コマペンよ。

ゼウスとマリアか。何を僕達にさせたいんだよ? 僕は僕の道を行くんだ。絶対に邪魔はさせない。する権利などないのだよ。目の前にいるのは、ヘビ型のロボットが十機程度だ。二十メートルはありそうだ。やはり、カメ以外の戦力も持っていたか。どれほどの性能なんだ?

とりあえず、ビームを撃ってみる。かわされた。機体が細長いからなあ。ところが、キラーは余裕で命中させる。さすがだな。いつものスタイルだ。僕は変幻を巨大化させて、突っ込んでいく。一体目はかわされたか。耐久力はカメほどではないようだ。炎を吐いてきたぞ。どうする? アイカがバリアを張るが、キラーのところまでは届かない。アイカは僕を優先してくれているようだ。それを見たキラーが言う。

「ほう。素晴らしい兄妹愛だな。俺の殺意を満たしてくれ!」

サツイのため込んだミドルビームが乱射される。全ては命中しないときたか。こいつらは、コマペン軍のどのあたりの地位にあるんだ?

レーダーに新しい反応が出る。動きが速いぞ。今度はエース級か。僕達は、急いでヘビを片付けた。次はゴリラに似た機体だ。そのパイロットが言う。

「オレはゴリラだ。お前達を、コマペン様の所へは行かせん! オレをなめっ、うおっ。こいつら、オレが名乗っている時に攻撃するとは、卑怯なやつらだ。油断ならんな」

本当にゴリラとはな。体長は二十三メートルといったところか。僕はビームを乱射する。全て命中したぞ。

ゴリラは接近する。キラーが叫ぶ。

「やばいぞ、カメタ。こいつはパワーがありそうだ。俺の勘がそう言っている」

アイカが言う。

「私の勘も、そう言っています」

「僕の勘もだ」

そう言って、一気にギアを六にする。油断したら、勝てない相手だぞ。変幻をショートソードにして、ゴリラを蹴り飛ばす。そこから徐々に変幻を巨大化させて、ゴリラを追い詰める。いや、追い詰めたはずだった。しかし、逆にカメットが吹っ飛ばされる。そのスキに、キラーがショートビームを十連射する。これは、かなり効いたようだ。僕は言う。

「こいつら、何が目的なんだ? コマペンは何をしようとしている?」

吐く訳ないか……。

「うむ、それはな……」

ゴリラが吐いたー!

「平和の意思に逆らうためだよ。対抗するためだよ。そのために、制御装置を使い、世界のバランスをとる」

バランスだと? バランスをとるために制御しているだと。コマペンは神にでもなったつもりか? ゴリラが言う。

「神になどなろうとしている訳ではない。コマペン様は、世界をいい方向に進めようとしている。世界を守ろうとしている」

ふざけるなよ。自由のない世界に、何があるってんだ! キラーが言う。

「そこに心はあるのか?」

「実験体が生意気な口をきくとはな。殺意に満ちた瞳をしている。しかし、それ以外のものもある。制御が上手くいっていない。ロックによるものか? とにかく、きさまらを生きて帰す訳にはいかない。どうやら、オレはおしゃべり好きだ」

そんなことは聞いていないぞ。アイカは言う。

「心はあるんですか?」

「そんなことは小さな問題だ。カオスの世界は地獄だぞ。いい方向に向かうのだ」

僕は言う。

「ふざけるなよ」

ギアを下げて話しを聞いていたが、もう一度ギア六だ。行くぞー! ビーム乱射からショートソードで、確実に捉えてやる。行けー、変幻! キラーも言う。

「俺も気に食わん」

アイカも言う。

「私もです。ゴリラさんには悪いですけど、逝ってもらいます」

アイカが力の歌を歌う。ふつうここは、守りと迷うところだよな。アイカの決断力、判断力は、兄である僕をもう超えている。しかし、ゴリラも黙っちゃいないようだな。パンチを連打してくる。ガードに回るしかないのか。そう、僕達は三人いるんだぞ。キラーの掩護ビームだ。アイカの歌だ。行けー、カメット! しかし、ゴリラのパンチに返り討ちにされる。キラーは叫ぶ。

「何をやってるんだよ、カメタ。俺の殺意の火は消えない。行けー、ロングビーム!」そのロングビームが、ゴリラを捉えた。しかし、しぶといゴリラだな。ゴリラは言う。

「コマペン様の理想をバカにした罪は重い。イテッ、だから話をしている時に攻撃するな!」

僕は言う。

「僕達のペースに合わせるんだな」

「ふん。どちらにせよ、コマペン様の恐ろしさを知らないようだな。お前達は、もう終わっているよ」

知るか、そんなもの。僕達は、自分で考えて生き抜いていくんだ。カオスの世界だと、そんなものはどうでもいい。十万年後という遠い未来が錯覚させているだけなのか。しかし、自分の意志を失うことは、平和の意思以上にひどいことだと思う。キラーが言う。

「ふん。動きが悪いぞ、カメタ。俺達は正しい。自分がそう思っている限りな」

僕は言う。

「キラーよ、自分の意志には逆らえないよな」

キラーは一度こちらを見てから、戦いに専念する。アイカは言う。

「私は何を求める? 答えは私の心の死角にあるのでしょうか?」

クロちゃんは、クローをゴリラに決める。キラーのロングビームを食らいながらも、ゴリラは我々に接近する。キラーは、近づくにつれエネルギー消費の少ないショートビームへと切り替えていく。ゴリラはタフだな。ギア六の限界も近い。扉は何処にある? カメットに支配されそうになる。カメットは僕の大切な相棒だ。

扉が見える。戦いの中、一つ明らかに他とは違う扉がある。支配されてたまるか! これが答えなのjか? 僕には解らない。僕は、変幻を八十メートルぐらいまで巨大化させ、ゴリラに真っ向勝負を挑む。ゴリラはパンチを繰り出す。力負けなどしてたまるものか。しかし、ゴリラのパワーは凄い。アイカは力の歌を歌う。キラーが掩護してくれる。ここは、あえてショートソードに替えてみた。ゴリラは、勢い余って足下が定まらない。僕は、ここで巨大化させた変幻を叩き込む。ゴリラは言う。

「くっ、こいつらは強い。コマペン様、オレに力を……」

ゴリラはラッシュを繰り出す。カメットが押されている。キラーの掩護もアイカの歌も、ゴリラを止めることは出来ない。こいつは、一人で戦っている訳ではないのか? コマペンの何処に魅力があるんだ? 制御されているということなのか? コマペンは理想の世界を作るらしいな。僕はそんなものは認めない。消え去れ、ゴリラ! 自分のない世界など、死んでいるのと同じだ。終わっているのは、コマペン達の方だ。

平和の意思が何なのか知らないが、クワン族も食べる力を、喜びを、そして真の平和を、優しい世界を作る。生物を選んだだと、平和の意思は……。ならば、僕達は正しい道を行けばいい。しかし、十万年後のカオスは、絶対に避けられないものなのか? その場の平和と後の安泰、どちらが正しいか僕には解らない。しかし、制御は間違っている。僕には、そう言いきれる。コマペンを倒すんだ。

キラーが急接近を使い、重い一撃をゴリラに食らわす。助かったぞ、キラー。ゴリラのラッシュから何とか逃れた。そして、僕はビームを乱射する。だが、ゴリラのこのタフさはどうしたものだ。

突然、記憶がよみがえる。これは何だ? 海なのか? 懐かしい少年時代の思い出だ。そこには友がいて、アイカもいて、一日中海で遊んでいた。お気に入りの大きな石に一日中寝そべっていたこともあったっけ。あの時の、アイカの機嫌の悪さは凄かったな……。

何だ、この記憶は? ゼウスとマリアの記憶なのか? 海に何があるというんだ? カメットには何が仕組まれているんだ。カメットは僕に大きな力をくれる。この超高性能なロボット、カメットとは何なんだ? 記憶に流れる様々なメロディ。鳥達が歌うように鳴く。僕は、カメットと共に行く。何ものにも支配などされていない。

ゴリラが言う。

「カメットか。あの時の人間が生んだもの。何かあるのか?」

それは、僕が聞きたいくらいだ。カメットは、ゼウスとマリアが生んだのか? 神話の世界は何処にある? バランスと制御、どちらも断ち切らせてもらおう。変幻九十メートルだ。これを食らえば、ゴリラと言えどもひとたまりもないはずだ。キラーのビームで誘導させる。アイカのクローがかわされる。今だ! ゴリラにとどめを刺すんだ。行けー、変幻! バランスなど壊してしまえ。世界のバランスなんて、人々を縛るものなんて必要ない。

ゴリラが苦しそうに言う。

「やるな、カメタ。しかしお前は、ゼウスとマリアにいいように使われただけだぞ。クハハハ。その先に未来などない」

そう言い残して、ゴリラのロボットは大破する。使われただけだと? 僕は、ゼウスとマリアの意思通りに動かされているとでもいうのか? 僕が自分の意思だと思っているものが、ゼウスとマリアの意思だとでもいうのか? 神話の世界が実在したのは、もう間違いないな。アイカが言う。

「兄さん、私もついています。そして、兄さんと共に答を出したいのです」

キラーが言う。

「ふんっ。ゼウスとマリアは優しい世界とやらが作りたいのかねー」

解らない。何もかもか

解らない。でも、僕は立ち止まらない。突き進む。答は必ず自分の手で見つけるんだ。さらば、ゴリラ……。




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