第6話[8月6日]

「まいどあり~」

アイス片手に駄菓子屋から出ると、蒸し暑い空気に嫌ってくらいギラギラしている天道サマと再会する。

水郷村は今日もやたらといい天気だ。

清行

「あっちーなぁ」

今買ったばかりのソーダアイスが、既に溶けてたれている。

溶けるのはやっ。

店先の日陰に隠れて、空いた左手で服をパタパタしながらアイスをかじっていると、

???

「おーい、清行~!」

道の向こうから誰かが大きく手を振ってこちらに向かってくる。

あれは……

清行

「孝之助?」

孝之助

「はあ、やぁっと見つけた」

このくそ暑い中、立ってるだけで汗だくっていうのに、走ったりなんかすれば言わずもがな。

孝之助のシャツは汗でべったりと濡れており、膝に手をついて肩で息をしている。

清行

「どうしたの?そんな息切らして」

孝之助

「うん?いや、たいしたことじゃ、ないんだけど。あ、アイスいいなぁ」

清行

「やらないからな」

孝之助

「ケチ~」

清行

「自分で買いなさい。それより、なんか用?」

いきなりそれた会話をそれとなく方向修正すると、孝之助は思い出したようにぽんと、手を打った。

孝之助

「あ、そうそう。あのさ、今日の夜、7時か8時くらいに学校前に集まってくれない?」

清行

「なんで?」

孝之助

「肝試ししようかと思って」

清行

「肝試し?」

孝之助

「うん。ほら、このところ暑いし、丁度いいかなーって」

肝試しねぇ……。

孝之助

「1人2人じゃ肝試しにならないからさー。おねがいっ」

そう言って両手を合わせ、頭を下げる孝之助。前置きのない孝之助の頼みに、漏れは

清行

「別に構わないけど?」

特に断る理由もないので、二つ返事で承諾した。

孝之助

「ありがとう清行~」

そのとたん、空いている左手をがっしり掴まれ、思いっきり上下に揺さぶられる。

清行

「ちょ、アイス落ちるって!」

孝之助

「ああゴメン」

清行

「ったく」

相変わらず落ち着きがないと言うか、オーバーなリアクションだ。

孝之助

「でもこれで人数が集まるよ~。ホントにありがと、清行。それじゃあね~。今夜、忘れないでよ~」

清行

「おー」

用件だけ言い終わると、来たのとは逆の方向へと走り去っていった。

忙しい奴だなあ。

ほんと、孝之助は昔っからのほほんとしてるくせに落ち着きがなくて、いつも……。

(いつも……?)

自分で考えたことに、5年のブランクでうっかりスイッチのオフになっていたが、今ごろになって鳴り始めた。

孝之助があんなふうに突然何かを言い出すのは、たいていろくでもないことを考え付いたときだ。

いや、悪気があってやってることじゃないのは漏れもわかってるんだけど……。

だけど、その変な好奇心に付き合わされて変な厄介ごとに巻き込まれるのはいい迷惑である。

この場合、本人に悪気がないというのも、逆にたちが悪い。

(また変なこと言い出すんじゃないだろうなぁ……?)

今ごろ沸いてきた一抹の不安をあおるように、真夏のむわっとした空気が漏れの体をなでていく。

変なことにならなきゃいいんだけどなぁ……。

午後7時過ぎ。

辺りは薄暗い夕闇に包まれ、なんだか寂しい雰囲気だ。

漏れは孝之助に言われたとおりに学校前にいた。

そこには、

虎彦

「おう、清行」

「あ、清行さんこんばんは~」

虎彦と峻君が既にきていた。

たぶん2人も孝之助に誘われた肝試しメンバーだろう。

清行

「あれ?2人だけ?」

「はい」

清行

「孝之助は?」

虎彦

「まだ」

清行

「……」

虎彦

「ったくよ、言い出しっぺが遅刻するかぁ?」

本当にまったく進歩してないんだ……。

高校に入って、さすがに少しはましになっていると思っていたけど、

清行

「孝之助の遅刻癖って、まだ直ってなかったんだ」

虎彦

「ありゃ一生治らんだろ」

いや、さすがにそれは……。でも孝之助だしなぁ。うーん。

呆れと言うか諦めというか、そんな気分で漏れは頭に手をやった。

「で、でもなんだかちょっとドキドキしますよね。こんな時間に集まるなんて」

孝之助のフォローのつもりなのか、峻君が慌てて話題を逸らした。

って、峻君?

清行

「あれ?峻君の家って門限とかなかったっけ?大丈夫なの?」

「あ、はい。今日は母様たちにはちゃんと許可貰ってきたから大丈夫ですー」

清行

「ふーん」

きっと門限を破った時間に外で遊ぶというのが幼い好奇心をくすぐっているんだろう。

同じように待たされ、イライラしている虎彦と違って峻君はなんだかうきうきしているようだ。

虎彦

「それにしても、孝之助の奴遅いなー」

30分後。

孝之助

「お待たせ~」

あたりがもうだいぶ暗くなった頃になって、ようやく主催者様がお出ましになった。

清行&虎彦

『遅い』

孝之助

「だって準備とかで時間かかったんだよ~」

虎彦

「にしても、言い出しっぺが遅刻するなよな」

孝之助

「えー!遅刻じゃないよ。ちゃんと7時か8時って言ったじゃん」

一同

「……」

性懲りもなく言ってのける孝之助。

虎彦

「帰るか」

孝之助

「わー、待ってよ虎彦悪かったってー!」

虎彦

「そう思ってんなら始めっから素直に謝れ」

孝之助

「はい、反省します」

あ-、なつかしいなぁ。孝之助と虎彦の漫才。

虎彦

「それで、結局何するつもりなんだ?峻まで呼んで」

清行

「何って、肝試しでしょ?」

虎彦

「き……!?」

孝之助

「そりゃ、夏で、夜で、学校ったら一つしかないっしょ?」

そういうと、孝之助は愛用の手さげ鞄から懐中電灯を取り出し、ぱっと電気をつけた。

孝之助

「というわけで、これから水郷学校七不思議、肝試し大会を開催したいと思います」

1人勝手に盛り上がり、孝之助がルールの説明を始める。

ルールは2人1組の2チームで分かれ、それぞれ、七不思議に由来するポイントを3つづつ回り、ポイントごとに証明として写真を撮る。というものだった。

しかも、現像の都合上、途中は何枚も撮っていいらしい。

孝之助

「ちゃんとフィルム使いきらないともったいないもんね」

虎彦

「ち、ちょっと待て、聞いてないぞそんなこと!?」

孝之助

「え?あー、ゴメン。言い忘れてたっけ?」

虎彦

「それに写真って変なもん映り込んだらどうすんだっての!?」

孝之助

「それこそ望むところじゃない。やっぱさ、1回くらいは自分達の手で撮ってみたいじゃん。心霊写真」

……。

あっけらかんとした孝之助の言葉に、虎彦だけじゃなく、その場の全員が言葉を失った。

あー……なるほどね。

清行

「つまり、肝試しの本当の目的はだったわけ?」

孝之助

「いえーす」

まったく本当に相変わらずろくなこと考え付かないなぁ。

虎彦

「そ、そんなくだらないことに付き合ってられっか!」

清行

「まあ、いいんじゃない?」

虎彦

「清行まで……」

清行

「心霊写真はともかく、普通に肝試しって考えれば、さ。それに、なんか懐かしいし」

このメンバーで集まるのも、古臭いこの木造校舎も。

孝之助

「さすが清行。心が広い!」

相変わらず1人で盛り上がらり話は先へ進む。

…(が、時間の関係で途中はカットします。読者の皆様、誠に申し訳ありません。だれを選んだかは後に分かります。水郷学校七不思議については、番外編Part.1で教えるとしましょう。)…

清行

「ふう……今日も1日が終わるなあ。帰ってきてから信じられない位、毎日が忙しいや」

そこで、黒電がジリリジリリジリリ鳴り響いた。

祖母

「清行ちゃーん、電話に出てくれないかしら?今お台所から手が離せないの」

祖父

「ワシも野球中継で忙しい」

清行

「もー、しょうがないな……。はーい今生きまーす」

そういえば、こうやって電話に出たりする事も最近は無かったよな。昔は当たり前だったのに。

清行

「もしもし」

孝之助

「もしもしー。清行君いますか?」

清行

「孝之助?」

孝之助

「あ、うん。清行?」

清行

「うん。どうしたの?」

孝之助

「この前の話覚えてる?ほら、歓迎会の時の」

清行

「えっと……」

孝之助

「ほらほら、みんなで海行こうって話しあったじゃない」

清行

「うん。あった」

孝之助

「それがなね、日にちが決まったらしいんだけど、明日だって」

清行

「あ、明日?」

孝之助

「うん。皆の部活の時間が合わないんだって。で、明日を逃すと次はいつになるか……」

清行

「なるほど」

孝之助

「そういうわけだから。あ、あと、時間は朝の6時30分にバス停集合だって。じゃ、じゃあね」

清行

「了解。じゃあね」

明日の朝ね。ちゃんと起きられれば……。

そのあとすぐの着信で虎彦からはホントは7時なんだよねと言われた。

ええと……。

海パンはどーせって持ってきたし、サンダルもある。ゴーグルも百均とかでいいだろうし……、あと浮き輪……はいらないか。

明日が楽しみだ。今日は早く寝ようっと。

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漏れなつ。‐もれのなつやすみ‐ 箱丸 @hakomal1972

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