貴方なんて認めない!

三島 至

【短編】

 

 やっと理想の人を見つけたわ!


 巷じゃお転婆なんて言われているけど、早い内からどうですか、と婚約のお話も割とくるし、見た目も自分じゃ悪くないと思うし、私って結構いい女だと思うのよ。

 だけど今日まで恋人も作らず、周りの親戚が婚約やら結婚やらしていく中頑なに独り身を貫いたのは、ひとえに理想の男性と出会うため。

 そして、とうとう先日、理想の人を見つけたのよ!


 あれは、一人歩きは危ないです、必ず護衛を連れて下さいお嬢様! と言われたのを無視して、こっそり街を一人で出歩いていた時の事。

 どうして一人で街に出たのかって? 

 だって、護衛って大体男の人をつけるじゃない。

 男性を連れ歩く女性に、誰が声をかけるっていうの? 

 運命の出会いをするためには、やっぱり一人の方が効率もいいのよ。


 それでも、最初はちょっと失敗したな、と思ったわ。

 街で声をかけてきたのは、素行のよろしくない感じの、怖い男の人達だったから。

 何て言うのかしら、ごろつきと言うの、ああいうの。

 兎に角そんな感じで、丁重にお断りしたのに、無理やり私を暗がりに連れて行こうとしたのよ! 

 勿論抵抗したけれど、数人がかりの男の人に力で敵うはずも無いわ。

 助けを求めようと、周りを見たけど、皆さっと目を逸らすのよ。

 それで、ああ、質の悪い人達に捕まってしまったのね、と理解したの。

 目を逸らす直前、またか、って顔をしていたもの。

 多分皆この人達の事を知っていて、関わりたくないと思っていたのね。


 流石の私も、泣きそうになったけれど、問題無かった。

 私の涙が流れる前に、颯爽と助け出してくれた人がいたから。


 ごろつき達が飛んでいったわ。

 そのままの意味よ。

 全員宙を舞って、地面に落ちて、呻いていたの。

 背後から、「大丈夫?」と声を掛けてきたのは、薄い茶色の髪(少し長かったわね、)を縛った、優しい眼差しの男性。

 騎士の服を着ていて、背が高くて、とっても綺麗な顔をしていたから、思わず見蕩れた。

 この人が男の人達を投げ飛ばしたのだと気付いて、すぐにお礼を言ったわ。

「怪我は無い?」と聞かれて、声まで素敵……と思いながら、何か返事をしたと思うけど、何て喋ったかは覚えていない。

 その後彼は「そう、良かった」と言って微笑を浮かべたのだけど、その時の感覚を何と表現すればいいか、未だに分からないわ。

 色々並べ立てるけど、私はあの瞬間、雷に打たれたのよ。

 ぴしゃん! と音が鳴って、その場にばったり倒れるかと思ったわ! 

 もしくは、私の体が砂になって、崩れたそばから風に乗って流されていく感じでもあったし、私は決して邪悪なものであるつもりではないけれど、あの微笑で全てが浄化されたような感じでもあった。

 月並みだけれど、頭の中で教会の鐘が鳴ったような気もするし、花びらが舞ったような気もする。

 どれもしっくりこない。

 あの方の笑みは、私の時を止めたの。

 一瞬で色んな幻想が頭の中を駆け巡った。

 逆に、動き出したとも言える。

 私の中の時間が、やっと恋する事を始めたとも、言える。


 私がぽーっとしている間に、あの方は私に声を掛けて(何を言われたか、耳に入っていなかったけれど、私はこれで失礼する、貴女も気をつけて的な事を言っていたと思う)倒れている男の人達を引き摺って、立ち去ってしまった。


 はっとした。

 あの方の名前、聞き忘れたわ。


 運命の出会いをしたわけだから、私を留まらせるものは何もない。

 全力でこの恋を手に入れる。

 でも、あまりに衝撃的で、名乗る事も尋ねる事も忘れてしまうなんて、何たる失態!


 少し焦ったけれど、まあ、私の実家の力を以てすれば、彼の事を調べるなんて、さほど難しくないわ。

 家族もやっと私に恋人が出来ると、安心してくれるでしょう。

 問題があるとすれば……彼に特定の相手がいるかどうかよね。

 結婚さえしていなければ何とかなると思う。

 ちょっとやそっとじゃ諦めないわよ。

 結婚していても……奥さんが亡くなっているか、別れていれば、まだチャンスはあるわよね。

 過去に愛した人がいても私は許すわ。

 最後に私と一緒にいてくれれば、それでいいのよ。



 ※


 調べはついた。

 彼の名前は、ブライド。

 ……家名は無いわね。

 貴族では無いみたい。

 これは予想外だけれど……身分の差? 大丈夫、どうとでもしてみせるわ。

 騎士団に所属していて、階級は特に無し。

 あれだけ強いのだから、きっと出世も早いわね。

 見た目は言わずもがな! 薄茶色の、少し長めの髪を後ろで尻尾みたいに束ねていて、ちょっと可愛い。

 前髪も長めだけれど、清潔感があってサラサラで、全く不快感は無い。

 背は高いけれど、男性の中では平均的ね。

 私との身長差はぴったり、ちょうどいいくらいよ。でも、私の背がもう少し伸びたら、もっとお似合いになるわ。

 ブライド様は、あの時いた街の担当みたいで、よく巡回している。

 住まいもあの街で、休日には私服で歩く姿が目撃されているそう。

 一人暮らし用の部屋を借りて住んでいるらしくて、結婚もしていない(やった!)。

 家族……というか、身寄りはいないのかしら。

 報告には上がってきていないわ。

 恋人らしき人物も確認されていないとの事。

 よく騎士仲間とお店に飲みに行ったり、自宅に呼んだり呼ばれたりと、人付き合いは良さそう。


 報告書が、ブライド様の性格面に及んだけれど、そこには目を通さずに、書類を置いて立ち上がった。

 居ても立ってもいられない。

 すぐにでも彼に会いたい。

 こうしている間にも、ブライド様に悪い虫がつくかもしれない!

 彼の性格なんて、悪いわけが無いのだから、読まなくたって問題無い。

 それに、これから知っていけばいいのよ。

 行動あるのみ。さっそくブライド様にアプローチするわよ!



 ※


 しまった……ブライド様は仕事中だった。

 街に来てから私は、その事に気が付いた。

 彼の仕事の邪魔をしてはいけない。どうしよう。

 もう目標は目の前に見えているのよ。

 同僚の騎士らしき人とお話している。

 ブライド様は横顔も凛々しい、素敵……。

 そう言えば、勢いで出てきてしまったから、また護衛を連れないで来てしまったわ。

 あんな事があったばかりなのに。

 また何かある前に、帰った方がいいかしら……でも、目の前にブライド様が!

 少しだけでもお話したい、名前を覚えてもらいたい! 

 何か、挨拶程度の会話をして去るのがいいのだけれど。


 ……初めまして、エルナ・バートンと申します、先日ならず者達から助けていただいて、すっかり貴方の虜になってしまいました。


 いえ、いきなり全面降伏は駄目ね。


 ……騎士様、先日はどうも。私の事覚えています? 


 うーん、ちょっと上からすぎるかしら。


 ……ねえ、そこの貴方。少し私とお話しない?


 軽い。

 どう切り出すのが正解なの……?


 うんうん唸っていると、ブライド様達が移動し始めた。

 咄嗟に追わないと、と思ってついていったのだけど、すぐにお店に入っていってしまう。

 私は店の前で立ち止まった。

 私が入っても大丈夫なお店かしら……ところで何のお店なの、ここ。

 そしてふと思い当たる。そろそろ、お昼の時間よね。もしかして、ブライド様、休憩時間なのかしら。

 お食事の邪魔をするのは気が引けるけれど、料理が運ばれてくるまでなら、少しくらい許されるのではない?

 扉を少しだけ開けて、そっと中の様子を窺う。

 予想通り、食事をする店みたい。

 広い店内だけど、私の目はすぐにブライド様を見つけた。

 扉の近くの席に、同僚(仮)と座っているから、近づきやすそう。

 よし。今なら行ける。

 気合を入れて、店内に足を踏み入れた。



 落ち着いた雰囲気の店だ。

 昼時なのに、お客さんはあまりいなくて、経営は大丈夫なのかしら、と心配になる。

 一歩進む度に、ブライド様に近づく。

 緊張してきた。

 動きが固くて、みっともない歩き方になっているのが分かる。

 これでも私、お嬢様なのよ?

 普段はちゃんと優雅に歩けるのよ?

 ブライド様は、同僚(仮)と向かい合わせで座っていて、顔は見えない。

 同僚(仮)が、機械人形のように歩く私に気が付いたようで、視線を向けてくる。ブライド様はまだ気が付いていない。

 すぐ後ろに立った。

 あ、結局何と言うか決めてない!

 どうしようここまで来て! 引き返す? 出直す? 

 なんて半分パニックになっていると、気配を感じたのか、同僚(仮)に目配せされたのか、ブライド様がゆっくりと振り返ろうとしていた。

 何か言わないと!


「あ、あの!! エルナ・バートンと申します! 先日はありがとうございました!!」


 大分端折ってしまったわ。

 顔を上げていられなくて、言い終わるとすぐに頭を下げた。

 私はまだ混乱している。

 もっとおしとやかに! 言うつもりだったのに!

 恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じていると、頭上から声がかかる。


「……顔を上げて?」


 間違いない、この声だ。私を助けてくれた時の、優しい声。

 言われた通りにすると、私の目に焼きついたままの麗しいお顔が見える。

 ブライド様が、「やっぱり、この間の……」と言ったのを聞いて、内心で狂喜する。

 覚えていてくれた!

 ブライド様は、私を恋に落とした美しすぎる笑みを浮かべ、それに見蕩れる私に、続けて言った。


「エルナさんって言うのね、わざわざありがとう。前は災難だったわねえ。ちゃんと無事に帰れた?」


 ん?

 今凛々しいブライド様の口から、彼にそぐわぬ台詞が出てきたような……。

 空耳かしら。


「私はブライドよ。家名は無いの。ここら辺を担当している騎士なの。エルナさんは貴族だったのね。エルナさんみたいな上品なお嬢さんが一人で歩くのは危ないわよ? 護衛を連れて歩く事をお勧めするわ」


 ……空耳じゃない。

 あれ、ブライド様は男性よね。

 何で女の人みたいな話し方しているのかしら。


「おいブライド、お嬢さんが面食らっているぞ。お前の喋り方が原因じゃないのか」


 同僚(仮)が状況を把握して、的確な発言をしてくれる。

 うん、うん、そうなの。どういうことなの。


「あら、前も普通に話さなかったかしら? ごめんなさいね、私普段からこうなの。私、オネエなのよ。気にしないでね」


 頬に手を当てて、眉を下げるブライド様|(オネエ)。

 気にします。

 ブライド様が、オネエ。オネエ、オネエ…………。

 ガラガラと、私の中で理想が崩れていく音がした。

 彼が、悪い人だとは思わない。でも、恋に落ちた瞬間に、私は理想を作り上げてしまったのだ。

 大抵の事は許せるつもりでいたけれど、ブライド様は無条件でかっこいいと思っていたので、急に汚点を付けられたような、裏切られたような気持ちになる。

 こんなに、凛々しくて、綺麗で、素敵な男性、他にいない。

 なのに、こんな……こんな、女々しい話し方をする人だったなんて。


 偏見などは、無いつもりだった。

 お友達として知り合っていたら、仲良くなれたかもしれない。

 でも、やっと理想の恋する相手だと思えた人の場合、受け入れ難いものがあると、今知った。


 私は「……そうですか」と言うのが精一杯で、ふらふらと店を出た。

 何だか呼び止められた気もするけれど、よく分からないから、いい。


 運命の人だと思ったのに。

 オネエってあれでしょ、そっちの人なんでしょ?

 女性は対象外なんでしょ?

 というか、私が無理。

 愛を囁かれる時に女性みたいな喋り方されるとか、何か嫌。

 男らしく言われたい。


 ブライド様は、私の運命の人では無かったのね……。


 勝手に盛り上がって、勝手に失恋した私は、酷く落ち込んで、とぼとぼと家に帰った。



 ※


 何で私は、またここに来ているのだろう。


 気付けば、街に出向き、ブライド様の後姿を追っている自分がいる。

 オネエ事件から数日、ショックから浮上できないまま、ふらふらと街に行ってしまっていた。

 ブライド様に会う必要なんて無い。

 新しい出会い? 今はいいや……と思っているのに、何故かブライド様を見つけてしまう。探してないのに。


 今日も(姿だけは)凛々しい。

 笑っていないと涼やかな目元が、思いのほか真剣に見えてどきどきしてしまう。

 薄い唇も男らしい。

 鼻筋が通っていて、肌は……女性の私が嫉妬するくらい、染み一つなく、驚くほど綺麗。

 はあ…………。

 かっこいい…………。

 なよなよしていない、筋肉質で、がっちりした男性が好き! という方もいるけれど、私は欲張りなので、ぱっと見た感じは細身で綺麗系なのに、その、こういう言い方はどうかと思うけれど、脱いだら凄いんです、みたいな……両方兼ね備えている男性が好きなのよ。

 顔が大きくて肌は焼けた人、髭が生えている位がダンディーよね! と言う人もいるけれど、私は物語の王子様みたいな、ガラス細工のような美形が好き……。

 つまり、ブライド様は完全に私の好み。

 見れば見るほどかっこいい。

 もう見るのは止めるのよ、私。好きになっちゃう。

 いやもう手遅れなのだけど……彼は駄目なんだから! あ、ブライド様がくしゃみをした可愛い……じゃなくて、だから見るの止めなさいってば!


 結局声をかけるでもなく、時間の許す限りブライド様を見つめ続けてしまった。



 数日後。

 何かに(というか確実にブライド様なのだけど)引き付けられるように、街にいた私に、「エルちゃん!」と声がかかった。

 声をかけたのは誰かって? ブライド様よ。


「え、エルちゃん!?」


 何よその呼び方は、と思いながら鸚鵡返しすると、まるで親しい友人のように、「エルちゃんじゃ駄目かしら? エルナさん、だと他人行儀かと思って」と、立ち止まった私に寄って来て、ブライド様が言う。

 他人行儀も何も、他人ですけど。

 と思ったけれど、どうやらブライド様の中で私は既に知り合い……というか、友人認定されているらしく、とても気さくに話を続ける。


「もう、一人で歩いちゃ危ないって言ったでしょう? 最近も来ていたの、気付いていないとでも思った? この辺、貴族のお嬢様にとってはあまり治安は良くないのよ。ちょっと待っていて、私もう仕事上がりなの。送っていくわ」


 優しく叱られた……。

 きゅん、と胸が鳴る。

 は、駄目駄目。

 でも、私がここ数日ブライド様を見ていたの、気付かれていたのね。

 私の事気にかけてくれたんだ……。

 何か嬉しい。

 それに心配してくれている。送ってくれるって……優しい……。

 は、駄目駄目!


「エルちゃん?」


 また呼ばれた。

 ま、まあ、別に呼び方くらい何でもいいわよね。

 私が頼んだ訳でもないし、勝手に呼ぶ分には、許してあげてもいいわ。


「……騎士様の好きに呼べばよろしいわ」


 貴方がオネエだというのは認めないわよ! と思ってつっけんどんに言った。

 ……きつい言い方だったかしら。感じ悪い子だと思われる?


「それって、送らせてあげるわよ、って意味? エルちゃん面白いわね」


 ブライド様は私の不安を他所に、勝手な解釈をして、くすくすと笑った。男性の笑い方では無い。

 なのに、きゅん、ときてしまう私の胸ときたら……。



 さらに数週間後。


「こんにちはエルちゃん~今日も一人なの?」

「こんにちは騎士様。別に貴方に会いに来たわけじゃないけれど、一人なのは事実よ」

「もう、駄目でしょ、ちゃんと人をつけないと。仕方ないわねえ、今日も大人しく送られなさいね」

「好きにしなさいな」


 ごめんなさい嘘です。

 確信犯です。

 ブライド様が居そうな時間に、会えそうな場所で張り込んでいます。

 護衛を連れていなければ送ってくれるかなあと期待して一人で来ています。


 だって制御がきかないのだもの……ブライド様かっこいいのよ……口調あんなんだけど……。

 実際話してみたら、言動は女性だけど行動は紳士だし、見かけたら必ず「エルちゃん」って呼んでくれるし……エルちゃん、って何なの。エルちゃんって。

 好きな……んんん、かっこいい男性にそんな風に呼ばれたら好きじゃなくてもドキドキするでしょう?

 そうですだから大丈夫、普通の事です。

 これは恋じゃない。

 あれは錯覚だったのよ……今私は彼の友人として会いに来ているの。友人として!

 オネエは異性としてはちょっと、認められないのよ。

 私の理想とはかけ離れているので。



 さらに数日後。

 もう会わない、もう会わない、もう……。

 そう言い聞かせても、ついついブライド様を探しに来てしまう私。

 ブライド様の魅力の前では家で大人しくしているなんて到底無理な話だった……誰よ友人としてとか言ったの。私よね。分かっている。

 オネエにときめく自分が憎い……。

 私は女々しい人が一番嫌いなのよ。

 だからつい、あの喋り方をされると、意地悪な言い方をしてしまう。

 でもブライド様が、その性格まで女々しいとは思わないわ。一緒にいれば分かる。

 彼はやっぱり立派な騎士よ。

 私がつんとしていても、態度を変えずに接してくれる事に、内心ほっとしている。

 だけど、私が彼を思うようには、ブライド様は私の事を思ってはくれていないと感じる。

 本当に、女友達みたい。

 割り切れない自分が嫌。


 同僚(仮)さんとの仲を邪推してしまったり、街行く人に笑顔で挨拶するブライド様に嫉妬したり、ままならない。

 こんな感情、認めたくない。

 ブライド様は、身分とか関係なく親しくしてくれる。

 本当の友人になれたらいいのに……。



 ※


「えらく懐かれたなあ、ブライド」


 同僚(仮)の声が聞こえたので、ブライド様がいると思って振り返った。

 彼の声もすっかり聞き慣れたものだわ。

 ブライド様とよく一緒にいるのだもの。

 ちょっと仲よし過ぎる気がしない? 

 やっぱり二人は只ならぬ関係なのかしら……。


 喜んですぐに寄って行ったら、何だか負けたような気持ちになるので、いったん隠れた。

 こっそりブライド様を見ようと思って、物陰から頭だけ出したのだけど、意外と距離が近くて焦ったわ。

 見付かってないかと思ったけれど、会話は途切れず続いたので、様子を見ることにした。

 いつものように、ブライド様と同僚(仮)が二人で話している。


「あのお嬢さんのお守りばかりしていたら、また振られるぞ?」

「エルちゃんの事? 別にお守りをしているつもりは無いわよ……それに振られるって失礼ね、またって何よ。私そんなに振られてないわよ」

「でも恋人と長続きしないだろ? 見た目は良いからもてるけど。お前その口調止めれば? 子供好きだって言っていただろう。そのうち結婚して家庭を持ちたいなら、そろそろいい女捕まえないと」

「口調は余計なお世話だけど、まあ確かに……私ももういい歳よね」


 はあ、とブライド様が溜息を吐いた。


 何ですって……? ブライド様、結婚願望あるの?

 女性と結婚したいの? 恋人ってどっち、男性? 女性? 本当は男性が好きだけど、子供が欲しいから女性と結婚したいと言う事なの? それとも元から女性だけが好きなの?

 ちょっと、同僚(仮)! いつもみたいに上手く聞きだしてちょうだい! 

 今私の疑問を代弁してくれたら、お守り云々の失礼極まりない発言は許してあげるわ!


 聞き出せ~、聞き出せ~、と念を送っていたら、同僚(仮)に気付かれてしまったわ。

 強く念じすぎたみたい……。


「お、噂をすれば」


 同僚(仮)がそう言った事で、ブライド様まで私の存在に気が付いてしまった。「あら、エルちゃん」と手を振ってくる。

 少しほんわかしながら、物陰にいる意味が無くなったので、二人の側へ行く。


「騎士様、同僚さん、こんにちは」


 私が挨拶すると、同僚(仮)が「おいおい、いい加減名前を覚えてくれよ」と言ってきたけれど、私興味の無い事ってすぐ忘れちゃうのよね。


「こんにちは、エルちゃん。今日も一人?」

「ええ、まあ」

「もう、いつになったらエルちゃんは自覚するのかしら? 間違っても夜遅い時間に来ちゃ駄目よ?」


 困ったわね~と言うブライド様に、やんわりと叱られる。

 もう昼に、一人で来てしまうのは止めても無駄だと思っている節があった。

 せめて自分が巡回している時間の昼に来るようにしてね、という事だと思う。

 ブライド様、怒った事あるのかしら? 

 少し優しすぎると思うわ。

 ブライド様は、優しいし、かっこいいので、恋人がいてもおかしくない。

 さっきの話からすると、やはりオネエというのが原因で、あまり上手く行かないみたいだけれど……。

 もし、彼が本気で結婚しようと思ったら、いつでも結婚出来てしまう。

 だって、オネエ以外に欠点が見当たらないもの。

 それさえ無くしてしまえば、ブライド様は完璧だ。


 生涯の伴侶がオネエというのは嫌だけど、ブライド様とは、良いお友達になりたいと思っている。

 だけど、ブライド様の素敵な所を見付ける度に、どうしたって友情に変えられなくなって、困る。


 そのままのブライド様も、素敵よ。

 他の人と結婚するために、自分を捨ててしまうの?


 オネエだから嫌だと思っていたはずなのに、あんなに認めたくないと思っていたのに、ブライド様が変わってしまうのは、何だか寂しいわ。

 それに悔しいのよ。

 目の前に、私みたいな女性がいるのに、余所見しないで欲しいわ!


 ブライド様が無理をして、相手を見付けるくらいなら、ありのままのブライド様を、私が貰ってあげるのに!


「エルちゃん、黙っちゃってどうしたの?」


 何も知らないような顔をして、無邪気にそんな事を言うブライド様も。

 私の気持ちにさっぱり気付いてくれない、オネエのくせに、女心をわかっていないブライド様も。

 まとめて貰ってあげるのに。


 私は、ブライド様を睨みつけるようにして、言った。


「結婚は許さないわ」

「え」

「騎士様、いえ、ブライド様と結婚するのは私だもの!」


 言ってやった!

 もう後戻りは出来ない。

 覚悟を決めるわ。

 勝ち負けで言えば、最初に好きになった私の負けよ。

 オネエでも仕方が無いわ。

 好きになってしまった私が悪いのよ。

 ブライド様に、オネエでいる事を止めろだなんて言えないわ。

 嫌いになれないなら、私が変わるしか無いじゃない!


「ええと……エルちゃん、もしかして私達の話聞いていたの?」

「聞いていたわ! 安心して、私と結婚すれば、ブライド様が変わる必要は無いもの。今まで通りのブライド様で大丈夫よ!」

「エルちゃん……あのね、私、今二十六歳なのよ」

「……? 知っているわ。それがどうしたの」


 ブライド様の基本情報は、最初に調べてあるわよ?


「……女性に年齢を聞くのは、良くないと分かっているのだけど、差し支えなければ、教えてもらっていいかしら……エルちゃんって、何歳?」

「十二歳よ」


 うーーーーん、と悩ましげな声を上げて、ブライド様は黙ってしまった。

 同僚(仮)が、「うわあ……」と言って、ブライド様から少し距離を取った。


「ブライド、お前ロリコンだったのか」

「言うと思ったけど違うわよ!」

「こんな少女を誑かして……」

「誑かしてないわよ!」

「子供が好きってそういう意味だったんだな……」

「だから!!」


 何だかブライド様が必死に言い返しているけど、どうしたのかしら。

 揉める前に、返事は? 


 断られても、諦めないけどね!








〈終わり〉

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