鞏咒怪奇譚

みずかん

第1話 自販機の怪

今日もいい天気だ。

鳥の声が囀り、海の音が微かに聞こえる。


「ふぁ~・・・、今日はなんか博士さんから依頼ありますかねー」


キリンが目立つような大きな欠伸をした。


「どうしたんだい?寝不足?」


「私の推理力に磨きを掛けようと思って、推理小説を借りて来たんですよ」


「ふーん・・・、誰の本?」


「色々です。旅行物とか、ネコが捜査するやつとか

私の部屋に色々置いてありますよ」


そんな質問をした後、私は書きかけの漫画を見た。

後2、3ページで書き終わる。


(うーん・・・。良いオチが思いつかないなぁ・・・

気分転換でもしようかなぁ・・・)


そう思った矢先のことだった。



コンコン



「邪魔するのです、タイリク」


「おいおい、博士、先生って呼んでよ」


「何を言うですか。私は島の長です。呼び方は私が決めるのです。

ところで、怪奇現象の相談がありましてね」


「怪奇譚作成ですか!!」


キリンが何故か声を上げた。

しかも、盛り上がりが半端なかった。


「なんでキリンがそこまで盛り上るんだい・・・」


「それについても色々考えてたんですよ~

怪異調査隊の結成、面白いじゃないですか!

因みにメンバーは先生とわたしと、博士さんもいますよ」


「何故私が・・・」


困った顔をして見せた。


「だって、博士さんが依頼を持ってきて、私達が動く。

つまり、博士さんは重要な情報屋の立ち回りですから」


「情報屋・・・、響きは悪くないですね」


少し誇らしげな雰囲気を醸し出した。


「で、博士、どんな情報を持ってきたんだい?」


先生は顔を上げ、博士を見た。


「相談してきたのは、昨日、セルリアンハンターのリカオンです・・・」


*

*

*

昨日の昼下がりの事だ。


「先輩たちがおかしくなった?」


「はい。なんていうか、すごくやる気熱心っていうか・・・」


「元気なのはいいことじゃないですか。

それのどこが変なのです?」


「いや、“疲れなくなった”んですよ」


「疲れない?」


「普通何時間とか、動いたら、疲れたり、お腹がすいたりするじゃないですか

でも、先輩たちはここ最近全然そう言う事が無いんですよ。

つまり、何も食べずに働き続けてるわけですよ!」


「ふん...、社畜の極みみたいな感じですね。

それで、何時頃から?」


「えっと・・・、2日前ですかね。森の中で不思議な箱を見つけたんです」


「箱ですか?」


「その箱の中身を、先輩たちが飲んでから...」


*

*

*


「箱・・・、飲む・・・?」


重要な単語だ。

メモ帳に書いた。


「それはヤギね!」


腕を組み自信満々に言い放った。

彼女は何時もこうだ。

推理に関して言えば、まだ三毛猫ホームズの方が優秀だろう。


「きょうしゅうエリア、ロッジ近くの東の森で見たと言ってました。

我々フレンズにとってはとても怪異な事なのです」


「ちょ、ちょ!わたしの推理は?」


「わかった、博士。私たちが調べに行こう」


私は即座に立ち上がった。

どうせ、外に出ようと思っていたことだ。


「よろしく頼みますよ」


「あっ、待ってくださいよ!先生!」


先生が扉を開けて外に出ると・・・



「うわあっ!!」


「おっ、おはよう。アードウルフ。今日も良い顔頂き」


彼女はアードウルフ。

このロッジに新しく従業員としてやって来て、働いてる。

良いリアクションを見せるから、私のお気に入りだ。


(朝っぱらからコイツと会うなんて・・・、幸先悪いなぁ)


「ホンさんはいるかい?」


「えっ...、いますよ」


「ありがとう。今日は出掛けるんだけど君も来るかい?」


「いえ、遠慮します。アリツさんの手伝いとかありますし・・・」


「私は別に大丈夫ですよ。オオカミさんの手伝いをしてください」


アリツカゲラが、偶然その場所に居合わせたのだ。


「そうか。ならよかった。アードウルフを連れてくよ」


満足げな笑みを先生は浮かべた。


「マジかよ・・・」


思わず小声でボロが出てしまった。


「先生、私がホンさんを呼んできますね」


アミメキリンはホンさんの部屋へと向かっていった。





「お邪魔しまーす。アミメキリンですけどー!」


扉を開けると、ベッドで寝ている人物がいる。

彼女こそが、ホンさんと呼ばれるごこくエリアからきた

旅人のフレンズ、ニホンオオカミだ。


「・・・・」


暫くその寝ている姿を眺め、いつもの手法を使う事にした。


「折角宝の地図を手に入れたんですけどねー・・・」


「・・・たからっ!?」


いきなり体中に電流が走ったが如く起き上がった。


「おはようございます。

ホンさん、先生が探検に行くそうなので、

一緒について来てくれませんか?」


「あてもいかぁ!すっと準備せんと!」


ホンさんはコーチべん?っていう不思議な喋り方をしている。

しかし、知識は色々あり役に立つ。

好奇心旺盛の冒険好きで、こういう事には目が無い。

この地を旅行で訪れてから、このロッジに入り浸ってる。


「先生、呼んできましたよ」


「おはよう、先生!今日は何処に行くがかぇ?」



「ああ、ホンさん。森の方に不思議な箱があるらしいから、

そこへ行ってみるんだ」


彼女は興奮したように尻尾を振った。


「ほりゃあ楽しみだなあ!はよぅ行こうやよ!」


「そうだな。ほら、アードウルフ、行くぞ」


「何で私も行くんですか・・・」


「行きますよ!アードさん!私達は怪異調査隊なんですから!」



「気を付けて行ってきてくださいねー!」


「いい報告を待ってるのです」


アリツカゲラと博士は4人を見送った。





噂のあった森へとやって来た。

木の間から、陽が射す。

のどかな森だ。


しかし、こんな所に箱なんてあったら、違和感を感じるだろう。


「この近くにありそうだな」


先生は周りを良く見ながら先に進む。


「うーん、一体箱から何を飲むんでしょうか?」


「あつー・・・、だるい・・・」


アードウルフは小声でブツブツと文句を言っていた。

歩くこと小一時間。


「ん?あれか?」


先生が足を止めた。


「どれどれ?」


ホンさんが、その物の前に立ち、観察する。


黄色い箱、リカオンの言ってた物だ。


「なんなんですかこれ、なんか色々開けれる所がありますけど」


アードウルフは弄る様に適当に触りまくる。


「うーん・・・、これは、ヤギね・・・」


立派な推理をしたつもりなのだろう。

だが、正解でない事は誰でもわかる。


「こりゃあー、自販機じゃ」


色んな所を旅をして、色々物知りなホンさんはそう答えた。


「ヒトが飲み物を買う為の機械でお金を入れると、品物が出てくる。

そういう仕組みなちや」


「先生、でも、リカオンはこの中の物を飲んだって言ってましたよね?

お金を使ってこの箱から買ったってことですか?」


「一応ジャパリコインという物があるが・・・

あのハンターたちが持っているというのも疑問だし、そもそも、

これ自体ちゃんとお金で動くのか・・・?」


「確かめてみるしかないですね。先生」


「ああ...。ところで誰かジャパリコインを持ってないか?」


先生は全員を見回した。


「私はないです」


「あても...」


3人の視線が一気にアードウルフに注がれた。


「な、な、無いに決まってるじゃないですか!」


両手を振ってない事をアピールした。


「アード、君は確か、あのロッジで働いてるんだよね?」


「な、何言ってるんですか、タ、タイリク先生・・・

わ、わ、私は、お手伝いみたいなもので・・・」


「キリン」


「わかりました」


キリンは、アードウルフの後ろに立ち、彼女の両腕をがっしり掴んだ。


「えっ?何するんですっ!?」


「手荒な事はしたくないが・・・、調査の為だ」


先生はアードの身体を触り始めた。



「おいっ!ちょっ!やめろっ、バカ!」


「ん?」


ポケットに異物を感じた。

それを引き抜いた。


「あっ、私のサイフッ!!」


「やっぱり嘘じゃないか・・・

なんでこんなもん持ってるんだい?

このパークじゃコインなんて使わないだろ。

持ってたとしても、ツチノコみたいな変人だけだろ」


呆れた目を向けた。


「労働と引き換えにお金を得ることがどれ程快感なことかッ!

そもそもロッジはヒトの宿泊施設として機能してたので、

コインは沢山あるんですよッ!」


「ふーん・・・」


興味なさげに、答えると財布の中身を開けた。


「結構たんまり入ってるじゃないか~」


先生はその数枚取り出す。


「あたしのお給料が・・・」


「ここに入れるんだな」


投入口に、ジャパリコインを入れる。

しかし、反応は無い。


「何も起きないぞー?」


「おかしいな」


ホンさんは顎に手を当て考える。


「もっと入れてみるか?」


黙々とコインを入れたが、状況は変わらない。


「やめてくださいっ!」


「あっ!」


キリンはアードを抑えていたが、彼女の抵抗力に負けた。


「金返せこの野郎!!」



先生に向かって、タックルを仕掛けてきたのだ。

もちろんそのことは気付いている。

そっと、進路から退いた。



ドンッ!!




「なん・・・、で・・・・」


アードは勢いよく自販機に衝突し、後ろ向きに倒れ込んだ。

と、同時にガコンと音がした。




「おお、なんかでた!」


「何だ?」


先生が取り出し口を開けると、そこにあったのは真黒な缶だった。



「先生・・・!それは・・・!!ヤギですね!!」


アミメキリンが揚々と言うが、違うのは誰でもわかる。



「恐らく、これがリカオンが言っていた飲み物なんじゃないかな」


その物体を持ち、眺めた。


「誰かに飲ませるか・・・、おい、アードウルフ」


「...ってて」


額を撫でながら上半身を起こした。


「これ、お金をくれたお礼だ。飲んでみてよ」


「はぁ・・・」


力なくそれを受け取った。

開け方がわからなかったが、親指でプルタブを適当にパチパチやるってると、

プスッという音がして開いた。


(喉が渇いてたし・・・、いいか)




ゴクッ...





数日後

博士の元にリカオンがやって来た。


「どうしたのです?リカオン」


「先輩方、数日間物凄く頑張ってたと思ったら、

いきなりスタミナ切れしたみたいで、なんて

いうか、疲れたとか言い始めて・・・」


「なるほど・・・」




私は卓上で、ノートを開き、筆を走らせた。

今回の調査報告だ。

―――――――――――――――――――――――

"自販機の怪"


森の中にある、自販機。その中から出て来た飲み物を飲んだ者は、

疲れを感じなくなる。しかし、それが切れるととてつもない疲労感に

襲われる事がわかった。今、目の前でもの凄く綺麗に掃除をしてくれている

アードウルフだが、彼女も数日で、動けなくなるということだ。

後にホンさんに聞いた事だが、ヒトはアレで活力、すなわちやる気を

手に入れていたらしい。

飲み物で疲れを忘れさせ、極限まで身体を働かせるとは恐ろしい物だ。


―――――――――――――――――――――――


書き終えると、


「先生、他に掃除する場所はありますか!!」


アードがやる気に満ちた声で、そう尋ねた。


(うーん・・・、やる気のあるうちにやっといた方がいいな)


「アミメキリンの部屋でも掃除してくれ」


「了解ですッ!!」


バンッとドアを勢いよく開き、飛び出していった。

入れ替わりにキリンが入って来た。


「・・・うわっ、なんなんですかあれ」


「君の部屋を掃除するように頼んだ。

これでハカセから図書館の本を早く返せって責められることは無いよ」


「ちょ、勝手に掃除されたらっ!!」


急に焦り始めた。


「なんだ、まずい物でも隠してるのか?」


「あっ、いや、大したものじゃないんですけどっ!

見られたらまずいんです!!」


キリンは大慌てで、自分の部屋へと戻っていった。


「・・・・」

(次のネタが増えたね・・・)




自販機の怪、調査終了。

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