第3話02話 諦めと魔法

 

俺は転生して新たな生を受けた。

それも地球ではない、どこか別の世界で。

俺の名前はリュート、俺を抱き上げていた人が母親で名前はカミラと言うらしい。

そして父親はどうやら居ないみたいだ。

全く姿を見かけない。


だがそれは、大した問題ではない。

大した問題ではないのだ。


──問題は別にあったのだ。


この身体になった当初、俺は羞恥で死にそうになった。

何せ前世の俺は24才であったのだ。

いい大人である。

そんな俺が下の世話はもとより、食事は母乳だ。

何から何まで世話になるというのは、この上ない屈辱だった。


しかしそんな介護生活も、1ヶ月も経てば諦めがつくものだ。

だってどうしようもない。

……俺には諦める以外の選択肢など存在しなかった。


「リュー君~、ミルクの時間だよ~」


母親が胸をさらして、俺の口に近付ける。


……無心だ、深く考えるな。

俺は赤ん坊、赤ん坊赤ん坊赤ん坊赤ん坊赤ん坊……そう赤ん坊だ。


そう自分に言い聞かせて今日も母乳を飲んだ。


「よーし、今日も一杯飲んだねぇ。そろそろオムツも替えたほうがいいかなぁ?」


「……」


「はーい、あんよ挙げてぇー」


……なされるがままである。

それを今日も俺は死んだ眼で見つめていた。


……諦めるしか……ないんだ。

今だけの辛抱だ。

もう少し成長したら、不自然だと思われようが何だろうが自分でやる。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







俺には日々無心を心掛ける生活の中で、唯一の楽しみがあった。


──魔法だ。


そう、魔法!!

なんとこの世界には、前世にはなかった魔法が存在するのだ。

流石異世界ファンタジー!


俺が意識を覚醒させて何日か経ったある日。

母親が料理中に包丁で指を切って、魔法で治療しているのを見た時は驚愕したものだ。

なんせ、一瞬で傷が消えたのだ。

俺の持つ前世の常識からしたら、あり得ないどころではない。

それを魔法と呼ばずに、なんと呼べるだろうか?

その後も母親は少し不器用で天然らしく、度々ケガをしては回復魔法を使用しているのを何度も目撃した。


「“ヒール”」


何時もその言葉と供に傷口が光に包まれ、一瞬で治癒した。

何度見ても、信じられない。

まるで現実味のない光景だ。

だが、俺は前世から知識欲だけは強く、人一倍はあった。

よって、その晩すぐに見よう見まねで試した。


「ふぃぃう」


……発動しなかった。

しかも赤ん坊の舌ではろくに、詠唱も出来なかった。

己の無力さを再び感じた。


赤ん坊って本当に無力だな……。


でも、詠唱時身体の中で何かが巡るのを感じた。

全く効果が出ないというわけではないのだろう。


これが魔力というものなのだろうか?

だとすると、詠唱がしっかり出来れば正しく発動する可能性はある。



まぁ、時間はたっぷりある。

検証や練習を重ねていけば、発動出来るようになるだろう。

……歩行と滑舌も、……きっとマシになる。


その時こそ、脱介護生活だ!

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