第38話 体育祭文化祭 体育祭編1
とうとうやってきた体育祭と文化祭。一日目は体育祭だ。
天候にも恵まれ、絶好の体育祭日和。人の熱気も相まって、グラウンドは熱く盛り上がっていた。
因みに、俺が出る種目は、百メートル走と学年種目のみ。運動できる人は、もう一種目出たりする。勿論、春輝と美来はプラス一種目出ることになっている。
しかし、全校生徒が集まることが、こんなにヤバイことだとは……。好感度マークで埋め尽くされている……。
開会式が終わると、すぐに百メートル走出場者の招集がかかった。椅子から立ち上がり、テントの外へ出ると、美来と春輝が俺を呼び止める。
「冬馬、頑張れよ」
「せめて二位獲んなさいよっ! 負けたらアレだかんねっ!」
またアレか……。プレッシャーがヤバイ。
と、重さを感じながら歩いていく。すると、目の前に九条さんがやってきた。どうしてここに! と驚きを感じながら、会えた喜びを同時に感じていると、九条さんが微笑む。
「頑張ってね!」
「あはは。ありがと。でも、他クラス応援しちゃダメじゃん」
と、少し意地悪なことを言うと、九条さんはクスクスと可笑しそうに笑った。
「だよね。それじゃあ、こっそり応援してるね」
そう言って六組のテント方へ帰っていった九条さん。頬が緩んでしまう。
可愛いな。しかしだ……九条さんにも見られるんだよなぁ……。恥ずかしいところ見せられないよ……。
更にのしかかる不安と緊張。それを払い除けるように、頬を二回叩いて、俺は招集場所へと急いだ。
そして、始まった百メートル走。七人ワンセットで順番に走っていく。
後もう少しで俺の番だ。
高まる緊張感。顔も強張ってきた気がする。前の組が立ち上がるたび、ジワリジワリと前に進んでいく。
そして、とうとう俺の番がやってきた。
「次、前へ」
体育の先生の誘導で、スタートラインに並んでいく。チラチラと横のライバル達を見てみるが、みんな強そうに見えてしまう。
深呼吸を一回。前を見つめ、集中力を高める。そして
「ヨーイ……」
鳴り響くスターターピストルの音。それと同時に、地を思いっきり蹴る。そして無我夢中で走った。その結果……
三位だった。ヤバイ……。マジ、アレされる……。
走った後の汗とは違う汗が出てるような気がする。恐れを感じながら、自クラスのテントへ戻ると、冷酷なオーラを纏っている美来が、俺を睨みつけていた。
思わず目をそらす。すると、春輝が近くにやってきてくれた。
「お疲れ」
「あ、ありがと! いやーみんな速かったね!」
春輝に同意を求める。そう、対戦相手が悪かったんだ! そういうことにしたい。すると、春輝は眉を八の字にして、困った顔をした。
「そうだな。特に一位のやつはかなり速かったな」
さすがは春輝! 俺は小さな声で、「ありがと」と言い、自分の椅子へと急いで座った。
それからしばらくは、テントで涼みながらクラスメイトを応援していた。すると、美来が隣の席にやってくる。
「うちのクラス、結構いい感じじゃない? 二、三年にも負けてないし」
「だね。運動神経いい人が多くて良かった」
「ま、私と春輝もいるし余裕かな。冬馬、学年種目は頑張んなさいよ!」
そう言って眉を釣り上げる美来。ホント、俺には厳しいやつだ。と、呆れていると、美来は言葉を付け足す。
「てか、六組も結構強いね。如月さんもだけど、他の人もやる気全開みたいな感じで」
そう言って、顎に手を添えながら難しい顔をする美来。確かに、如月さんと九条さんが属する一年六組の点数も高い方だ。
俺も貢献しないとな……。と、無駄に緊張を積もらせていると、春輝が出場する男子四百メートルリレーが始まった。
春輝がグラウンドに出るだけで、黄色い声援が飛んでいく。イケメンは、登場するその瞬間から、スポットライト全開なのだ。
さすがだなーと感心していると、その横で美来は難しい顔をしていた。
「春輝、油断しなきゃいいんだけどね」
「ま、まあ、春輝は大丈夫だろ」
結果、うちのチームは一年生の中では、一番だった。さすがは精鋭といったところだ。
春輝がテントに戻ってくると、女子達はキャーキャー言いながら春輝を称えていた。
実力も人気も頂点。近くでは、五美が悔しそうに春輝を睨んでいた。
それから、美来の出る女子四百メートルリレーも終わり、体育祭は一旦昼休憩に。
一斉に教室へと戻っていく生徒達。俺も一旦教室へ戻り、急いで購買へ向かう。そして、購買のある階に着いた時だった。少し遠い所で雪村さんの姿を見つけた。
声、かけてみるか。そう思い、近くに行こうとする。すると、すぐ横から嫌な会話が聞こえてきた。
「はあ……ウチらのクラスヤバくない? 学年最下位じゃん」
「ね。残りの種目、全部上位じゃないとキツイって」
「は? 学年種目も? いやー無理っしょ。ウチらのクラス、女子基本やる気ないし」
「確かに……。特に、雪村とか絶対やる気ないよ」
「ね、マジ休めよ」
雪村……さん? 一年二組の女子だろうか。なんていうか、友達が悪く言われると、傷付くな……。
沈んでしまった気持ち。さっきまでの興奮はどこへやら。と、立ち止まっていると、背中をつつかれた。振り向けば、如月さんが不思議そうな顔をしていた。
「どした? 暗い顔しちゃって」
「え? あーいや、何でもない!」
咄嗟に作り笑顔を見せる。すると如月さんは、興味なさげに「ふーん」と言って、要件を話しだした。
「桃華が探してたよ。お昼一緒に食べたいって」
「そ、そっか! ありがとう! んじゃ、行こっか!」
急かすように言う。すると、如月さんは呆れた表情を浮かべながら、ため息をついた。
「あたしはパスよ。桃華、空き教室にいるから。んじゃ、伝えたからね」
そう言って、背を向けた如月さん。
九条さんが待ってくれている。急がなくては。そう思い、購買へと急ぐ。目の前のパンをよく見もせず、適当に二つほど手に取ると、肩を叩かれた。振り向けば、楽しそうに微笑む雪村さんがいた。
「やっほ!」
「や、やっほ」
「どうしたんですか?」
不思議そうな顔をする雪村さん。ふと
けど……ここは明るく振る舞わないとな。
「何でもない! 雪村さんも購買?」
「ん? そうですよぉ! 桐崎くん、ボッチなんですか?」
そう言って意地の悪そうな笑みを浮かべる雪村さん。からかいたいだけだろうな。
「いや、これから九条さんと食べるんだ。あっ、雪村さんも一緒にどう?」
人数多い方が楽しいしね。それに……ちょっと雪村さんが心配というか、何というか……。
すると、雪村さんはハッと息を飲むと、嬉しそうに目を輝かせる。しかし、すぐに苦笑いを浮かべた。
「いや……遠慮しておきます。私ぃ、そんなに空気読めないタイプじゃないですよ?」
「そ、そっか!」
「はいっ! ふふ、それじゃ楽しんで下さいね?」
「ありがと。その……雪村さんも、楽しもうね! 体育祭!」
せめて、何かいいことを言おうと思ったけど、こんなことしか言えなかった。すると雪村さんは、眉を八の字にして、口角を少し上げた。そして小さく頷くと、背を向けてどこかに行ってしまった。
その去り際、何故か好感度が75に上がっていた。
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