第39話新しい妹

 平家打倒の兵を挙げ、敗死したとされる

兄、以仁王もちひとおうと入れ替わるように

後白河法皇に第六皇女が誕生した。

忌み名は覲子きんし、のちの宣陽門院せんようもんいん(1181~1252)である。

 母は高階栄子たかしなのえいし丹後局たんごのつぼね)で

式子内親王しきしないしんのうにとっては異母妹である。


「孫たちより年下の子が生まれるとはな。

 かわいくてしょうがない!

 できるだけ長生きしないと!」

と後白河法皇は大喜びだった。


 この末娘は高倉天皇(1161~1181)が

わずか20年の生涯で遺した七人の皇子女たちである

安徳天皇(1178年生まれ)や後に即位して

後鳥羽天皇となる尊成たかなり親王(1180年生まれ)らよりも

年少なのである。


「なんてかわいいの!この子は死んだ

 休子きゅうしの生まれ変わりかしら!?」

と親子ほども年の離れた妹に

式子は愛情を感じた。若くして病死した

妹、休子内親王の面影を

目の前の赤ん坊に見つけて式子は喜んでいた。

 覲子は後に広大な所領を父から受け継ぎ、

絶大な権力を握る女院となるのだが、

この無力な赤子の姿からは想像もできなかった。


 式子は高倉天皇生母である若く美しい建春門院に対しては

反感をもっていたが、前夫の間に数人の子供を抱えた

未亡人である高階栄子には敵意を感じなかった。

 夫を亡くして苦労した女性に対する同情もあったが、

話術が巧みな栄子と話していると退屈しなかったからである。


 特に美人でもない中年女性である栄子が

遊び人の後白河法皇にこれほど寵愛されたのは

ずば抜けて機転が利く女房だったからであった。

栄子が日本一の大天狗であるはずの法皇を操り、

政治を牛耳るようになるのも

当然の成り行きであった。


「まったく!あんなおばちゃんのどこがいいんだろ!」

藤原定家ふじわらのさだいえはやきもちをやいて

物陰から見ていた。


「あっ!今、赤ちゃんが笑った!」

と式子が明るい声ではしゃいでいる。


「美しい歌詠みのお姉さまに会えてうれしいって

 喜んでいるんですよ。」

と栄子が巧みに式子をおだてている。


「まあ、お世辞がうまいのね。」

と式子はまんざらでもなさそうだ。


「ふん!口がうまい腹黒女め!

 今に化けの皮をはいでやるからな!」

と定家はぶつくさ言いながら背を向けて

帰っていったのだった。



 


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