第49話 夏休み課題の進捗を

 夏休みもさてさて終盤となって参りました。

 ちなみにあの露天風呂で何があったかについては、追ってお話をしよう。


 勝手が掴めずに終わってしまったお見合いはともかくとして、夏休みの一般的な、金持ちだろうと、そうでなかろうと公平に与えられるのが宿題というものである。

 夏休み前のテストにおいて欠点者ではないので補習も無く、自由気ままに過ごしてきていた。

 夏休みの宿題の内訳としては、国語は古文と漢文のワーク類と課題図書、数学はそこそこ分厚いワークと参考書、英語はワークと資格試験問題集、理科系は専攻別であるがまぁ問題集である。社会はとてもとても薄い問題集だが、問題がかなり難しい。

 高校2年生の青春に対して、真っ向から壁を作ってくるあたりはどうにかならないものかと常々感じるところである。

 そんなことをタラタラと述べているが、俺は俺で、お見合い後の宿泊疲れでヘトヘトであり、家に戻ってからすぐさま零と眠ったはずなのに、朝の4時に目が覚めてしまった。


 「朝の4時ね……。しかも、二度寝にも戻れそうもないな」


 感覚的に二度寝に戻れる時とそうでない時が分かるのは誰しもだろう。俺もである。零が隣で行儀よく可愛らしく寝ているため、忍者のごとく寝室を抜け出した。

 

 夏時期の良い点は、もうすでにある程度明るいことである。そして、まだまだ太陽もその灼熱さを発揮していないのだから少々心地よいくらいだ。

 惰眠を貪るつもりで眠りについたのにもかかわらず、零に起こされずに目が覚めたのは初めてではないかと浸っていた。朝飯でも作ろうかと考えたら、零も5時となれば起きるだろうし、零のご飯が食べたいので耐えるとしよう。


 「適当に朝から勉強でもしておくかな。」


 俺は、1階に降りて飯をどうしようかと葛藤していたが、零の飯に軍配が上がったので書斎へ向かった。

 そして、書斎に落ち着き、To doリストでも作ろうと思うと、ふと書斎で充電中の俺の携帯に振動が走った。振動的に電話だろうか。


 「誰だよ、この朝早くによ。迷惑電話する方も忙しいな。」


 迷惑電話でしかないと決めつけていたので、番号を見たときには少々フリーズしてしまった。そしては、俺は普通に電話に出た。


 「なんだよ葉山、朝の4時だぞ。」


 「いや、出てくれて助かったよ。雅が今日から少しお泊りに行くと思うからよろしく頼むね。」


 「おいおい、どういうことだ?」


 「実は、サッカー部がこれから3泊4日で合宿というか遊びというかに行くからさ。そしたら、雅が東雲さんと遊ぶって言うからさ。」


 「いや、サッカー部だったら雅もマネージャーだろ。行かないのか?」


 「雅が面倒くさいって、それに宿題がかなり残っているらしい。」


 「あ、さいですか。雅が言ってるということは零も知ってるのか?」


 「いや、雅が昨晩にいきなり思いついたらしいから言ってないと思う。宿題が進んで、美味しいものが食べれる所を探して思いついたらしい。」


 「雅らしいと言えば、そうだが。まぁ、分かったよ。」


 「うん、ありがとう。サッカー部が終わったら迎えに行くから。頼むね。」


 これにて会話は終了した。要するに雅がいきなりに遊びに来るということだ。こんな朝から合宿とは、部活動というのは大変だな。というか、前に部活動はセーブしてどうとかこうとか言っていたが気のせいか。


 「まぁいいや、気を取り直して勉強と……。」


 机に再度向かってみたが、よくよく考えると宿題は9割方終わっているんだよな。まぁ、遊んでばかりいる印象であろうが、実はちゃんとそこそこ片付けていたのでね。遊びに行って、新鮮な気持ちで非日常的な空間で勉強するというのも悪くないと感じていたくらいだ。


 「英語の資格試験でもやるか。受験させられるだろうから。」


 この所、大学受験において公的な英語の資格試験のスコアを要求または加算対象となるケースが多くみられる。国立だろうと私立だろうとである。英語系の学部を目指そうならば、ある一定以上のスコアを所持していなければ受験資格すら持てない大学もあるようだ。


 早朝のためか頭の働きは大変良いようだ。スラスラと頭に入ってくる感じがなんともたまらない。時間も簡単に過ぎていったようである。


 「さすがに腹が減ってきたな。時間は、えーと5時5分か。そろそろ零が起きる時間あたりだな。」


 空腹にも耐えかねて時間を確認したところで集中も途絶えてしまった。すると、程無くして書斎に向かって足音が近づきつつあった。

 ノックがされて静かにドアが開かれた。まぁ、誰かと言えば簡単である。


 「失礼します、あっ涼さん、おはようございます。」


 少々不安げな顔であったが、俺が視界に入ったのか表情はどんどんと明るくなったのがすぐに分かった。


 「あ、おはよう。早く目が覚めたからこっちにいたんだよ。」


 「ちょっとびっくりしましたよ、起きたらベットに涼さんがいないんですから。これから朝ご飯作りますのでちょっと待ってくださいね。」


 「あ、それと今日から雅が泊まりに来るらしいぞ。葉山から連絡があってな。」


 「えっ、そうなんですか?」


 「まだ零に言ってないようだな。まぁ、雅から連絡が来るんじゃない?」


 「そうですね。まだ時間が早いので後から聞いてみます。」


 「うん、そうだな。」


そして、雅が来るであろうことを伝えて零は階下に降りていった。普通に会話していたが、零の夏のパジャマは半袖にショートパンツな上に着崩れてほぼ確実に下着が見えてしまっているから目のやり場に困ってしまう。


 「えーと、To doは、雅が家に来る……と。」


 俺は、To doリストに書き足した。さて、これはTo doなのかは疑問だがな。



 時刻は朝の6時である。睡眠を取ったうえで、この時間帯にすでに起きているというのは言うまでもなく健康的な生活。たった一日だとしてもだ。

 そして、目の前には零の作った栄養バランスの行き届いた朝食が綺麗に並んでいる。


 「頂きまーす。うん、うまいな」


 「はい、ありがとうございます。」


 零の料理がやはり一番落ち着いて食べることができ、そして何よりも美味いのである。簡単に俺の胃袋が陥落してしまったのは言うまでもない。


 「雅さんに連絡したら、午前中にはお家に来るそうですよ。」


 「あ、そうか。泊まりって言うから昼と夜の飯どうするかな。どこかに食いに行くのか。あ、違うな、零の飯目当てで来るって葉山に聞いたな。」


 「え、私の料理ですか?」


 「らしいぞ。宿題がかなり残ってる上に美味しいご飯が食べられる場所ってことで雅が来るんだからな。」


 「あ、そうだったんですね。」


 「ところで、零は宿題の進み具合はどう?」


 雅が課題提出前に死にそうになっているのはよく見ているが、零はそんなことはないので、どうせほぼ終わっているであろうと思って聞いてみた。

 だが、意外と元気がない感じになっていた。


 「実は、数学と理科の宿題の進みが悪くて……。まだ半分くらいしか」


 何というか零らしくないというか、まぁそんなこともあるよな。


 「単純に遊びすぎてしまって……」


 「まぁ、それはな」


 この理由に関しては俺も心当たりがありすぎるので何も言えない。


 「ち、ちなみに涼さんは?」


 「えーとね、もう終わってるん……だよね。」


 「えーーーー。」


 朝から零の悲しくも小さな叫びを聞いてしまった。

 夏休みは残り1週間程度、まぁなんとかなるであろう。雅の「かなり残っている」というのが気に掛かって仕方ないのは何故だろう。





 「え、待って宿題のリストってどこだっけ?まあ、零ちゃんに聞けばいいよね。」


 雅のお泊り準備の独り言を聞いたものはいない。


 


 



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