第6話人見知り

 悩んでいるうちに日々は過ぎて、入学式も無事に済んだ。


 教室内ではすでにグループができあがりつつあり、


同じ小学校出身の者同士、塾でできた友達同士ですでに固まっていた。


しずくはどこの派閥にも入りそこねてしまった。


「今度こそたくさん友達を作ろうと思ったのに。もうおしまいだ」


としずくは家に帰ると自室で布団を被って泣いた。


 赤く泣き腫らした目を見ても、親は何も言わなかった。


一人でぽつんと座っているしずくを見かねて、


「おひるいっしょに食べよう」などと誘ってくれる女子もいた。


しかししずくは口下手で緊張しやすいので会話が続かず、


お互いにきまずい思いをした。


味もわからないほど緊張しながら黙々と弁当をかきこむ自分の姿はどんなに


みじめにうつっていることだろうかとしずくは家に帰ってから、一人思い悩んだ。


しずくは誰と向かい合っても居心地が悪く、


会話が途切れた時は罪の意識にさいなまれた。


大勢の中に身をおくことは拷問にひとしかった。


「人見知りばっかりして友達をつくれない自分はおかしいのではないか」


としずくは人知れず悩んだ。そのうち、しずくは


ろうかを歩いているときなど人がいるところを避けるようになった。


移動教室のときなどはわざと遠回りして一人で目的地まで急いだ。


 やがて気がかりになることができた。


同じクラスの女子二人が、しょっちゅうしずくのいる方を見ながら


ひそひそ言いあったりつつきあったりすることに気づいた。


また、しずくがたまたまそばを通ったときなど、


背後からどっと笑い声が聞こえて落ち着かない気分にさせられた。


ある日、休み時間に腹痛を感じたしずくはトイレに駆けこんだ。


教室に戻ってみると、いすにかけておいたブレザーが床に落ちており、


明らかに踏みつけられたような跡がたくさんついていた。


しずくはだまってそれを拾いあげ、ほこりを払った。


ふと、視線を感じてその方向に目を向けると、あの二人組がにやにやして


こちらを見ていた。あきらかにしずくが困っている様子を見て楽しんでいた。


にやりと笑って細めた眼にはぎらぎら光っており、


しずくは言い知れぬ恐怖を覚えた。


文化祭が近づくころになっても、しずくは部活にも入らず、学校と家を往復する


だけの味気ない日々を送っていた。小さい頃見たドラマでは、10代の若者は


みな、楽しい学校生活を送り、恋愛に部活にと、華やかな青春を謳歌していた。


しずくは自分が暗い性格で、孤独な毎日を送っているということに


罪悪感を覚えた。


友だちのいないしずくにとって、昼休みは苦痛だった。


女子のクラスメートはみな派閥ごとに固まって食べているのに、


しずくがただ一人でぽつんと座って食べているのを見た同じクラスの男子生徒が、


「あいつは嫌われ者だ」


などと指差して大声で聞こえよがしに言ったので、


教室にはいづらくなった。食べ終わっても手持ち無沙汰で、


午前中の授業で習ったことを


おさらいしたりしたので成績は上がったが、むなしかった。


ばかにされた次の日、教室で食べるのをやめることにした。しずくは人気の無い


階段に腰掛け、弁当の包みを広げた。すると、例の男子がぬっと現れて、


「こいついつも一人でいるよ。こええ。」


といった。おびえたしずくはとうとう、便所の個室で食べる事にした。


便臭が漂う中、インスタント食品を詰め込んだ弁当をかきこむのは


なんともむなしいものだったので、涙がこぼれた。


食堂で食べようかとも思ったが、


食堂に女子一人では入りづらいので弁当を食べるしかなかった。






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