第25話 槍の舞


 トリガーを握りこむと同時に魔力炉で生成した魔力を薬室に流し込み、装薬に点火する。車内にあふれる機関音をかき消すほどの轟音が耳元で響き、何度目かわからないめまいを覚えつつも砲身から飛び出た弾丸の行く先を確認。紅蓮の発砲炎を引き裂いて進む豆粒のような弾丸は吸い込まれるように目標に命中すると、わずかな火花を散らしてはじかれてしまう。

 先ほどから数えるのも馬鹿らしくなるほど繰り返された光景に、ため息よりもあきれの方が早く出てきてしまい、思わず操縦桿を握る魔女に視線を向けてしまった。


「ダメじゃな。効いとりゃせんわい」

「弱点は狙ったのか?」

「おうさ、直進補助魔術マシマシでな。これがまあ、ものの見事にそらされて主要装甲に直撃じゃ。暴徒鎮圧用の榴弾の信管を抜いても、20㎜砲ではダメじゃの。対魔獣用の徹甲弾がいるわい」

「警察の治安維持車両にそんなものが積まれているわけがないだろう?」

「何とかせい、錬金術師」

「装甲を薄くすれば幾らかは用意できるぞ。防御力の保証はできんが」

「却下じゃ。これ以上薄くしたらお主の荒い操縦に耐えられんじゃろうて」


「荒いはよけいだバカ者」と言いつつ、絶妙に減速させてうえで急ハンドルを切る。T字路に差し掛かった彼女たちの乗る警察車両は8つの車輪を軋ませ、車体後方を振りながら進行方向を変える。石畳の舗装路をタイヤがこする耳障りな音と悪臭を放ちつつ、10トンに達するビークルがドリフトを決め、路上にはみ出していた無人のテーブル数組をなぎ倒しつつ、人気のなくなった街道を疾走していく。


「あつつ…そういうところじゃぞ、アルマ」

「お行儀よく走っていればすぐに追いつかれてハチの巣だぞ。…ノーマッド、あのバカは何処をほっつき歩いている?」


 豪快なドリフトで額をぶつけた少女の抗議を叩き潰しつつ、操縦席の目線の高さに据え付けた通信機器――壁を一部錬成して機器を保持するアームを作っていた――に視線を向ける。画面には何やら逆三角形の上に7つの目と蛇とリンゴがあしらわれた悪趣味なマーク、その下に浮かぶSEELE、01、SOUND ONLYという文字列が並んでいる。十中八九彼らの星の住人にしかわからないネタなのだろうと考えないようにしているが、黒い画面に赤い文字で描かれているため無駄に目立つ。


『ユキトさんは現在D-55ブロックを南東に向けて進行中。こちらの予想進路上に出る予定です』

「時間は?」

『およそ30秒後』


 目線の高さの前方3面を囲むクリスタル製のモニターに流す魔力をわずかに変え、左側のモニターの一部に後方の様子を映し出す。こちらに迫る影は依然変わらず4騎、散発的に放たれる攻撃魔術を対魔術結界で防御している現状。距離はあるが万一アレを使用された場合のことを考えると、猶予は存在しないと考えるべきだ。

 速度を落とすことはできなさそうだと言う結論に達し、一つ舌打ちをする。


「ダメだ。奴には反転して別ルートでノーマッドに向かうように伝えろ。速度は落とせん」

『あ、ユキトさんより通信です。「進路そのまま、2秒でいいので直進よろしく」だそうです』

「は?いや、まて、まさか」

『ふふふ、すべてはユキトのシナリオ通りに』


 全力で背中を駆け抜けた嫌な予感に従って3枚のモニターに全周の風景を映し出す。限られたスペースに360度分の景色を映しているため、画像を構成する魔力の線が激しくゆがみ、何が何やらわからなくなってくるが、正面の路地から何かが飛び出してくるのは解った。

 サッと顔から血の気が引き反射的にブレーキを踏もうとした瞬間には、もうその人物が飛び出た路地を通過してしまっていた。しかし、フロントに何かがぶつかる音も、後続する敵に何かが踏みつぶされる光景もアリはしない。

 ただ、砲塔の後ろに跪き、正面からくる風の盾にしている異星人の姿があるだけだった。


「全速力のノールR35に飛び乗るとか、変態にもほどがあらんか?」


 車長用の展視孔から一部始終を見ていたフェネカが今度こそ完全にあきれた声を出す一方、ハンドルを握る魔女の口から飛び出たのは、AIですら恐怖するほどの怒気のこもった声だった。


「…………おい、ノーマッド」

『な、なんでございませう?』

「可及的速やかに、あのバカにつなげ」

『え?』

「つ・な・げ」

『アイマム!』





 ――ユキトさーん、アルマさんからOHANASHIがあるそうですけど?

 ――OK、聞かなかったことにしろ


 ルベルーズの街道を右に左に走り続けるノールの上で、時折飛んでくる魔術がアルマのものらしい対魔術結界にはじかれる姿をみつつ、後ろに続く特異な敵の姿を観察していたユキトの頭にそんなメッセージが流れ込む。どう考えても、先ほどの暴挙が原因だろうが、アレ以外に合流する方法が思いつかなかったのだから仕方がない。

 それよりもまずは、どう見ても場違いな奴らの


 ――馬鹿か貴様ァァアァァァァァ!


「うぉぁっ!?」


 思考を無理やり中断する聞き覚えのありすぎる怒声に思わず声が漏れてしまう。と、言うか、この暴風と轟音、そして装甲があっても車内からかすかに聞こえてくるレベルの怒声とか、通信機介す必要なくないか?などと場違いな感想すら浮かぶ。


 ――相対速度がいくつだと思ってるんだ!一歩間違えばミンチだぞ!?

 ――無茶やったのは認めるが、叫ぶな。外まで聞こえてくるぞ。

 ――喧しい!せめて事前に何か言え!この馬鹿!

 ――ノーマッド経由でメッセージ飛ばしただろうが

 ――あんなものメッセージの内に入るか!轢いたかと思ったんだぞこっちは!そもそも貴様一人なら安全にノーマッドまで行けるだろうに、なんで別々に向かわんのだ!助けに来てくれなんて言った覚えはないぞ!

 ――助けに来るな、なんて言われた覚えもないな。そんなことより、無事か?


 一瞬、こちらの問いに彼女が息をのむ気配がした。そのあとに続いて言葉は幾分か穏やかなもので、嘘ややせ我慢をしている様には聞こえない。


 ――っ!…あ、ああ。特に負傷はしていない、タブリスも、フェネカもだ。

 ――ならよかった。

 ――貴様は?ケガはないのか?

 ――なんとかな。

 ――………なら、いい。

 ――あのー、戦場でイチャコラしているところ悪いんですが。

 ――誰がだ!?


 アルマの怒声を聞き流しつつ、もうやだこの恋愛脳スイーツ系駄戦車と天を仰ぎそうになり、外の異変に気が付き乾いた笑いが漏れる。


 ――ユキトさんが飛び乗ってから、速度落ちてますよ?

 ――あー、後ろの重装騎兵が縦隊から横隊になったが、飛び道具とか持ってたりするか?彼奴ら。

 ――先に言え馬鹿共ォッ!


 6脚の足で大地を踏みしめる、甲冑を着せられた馬のような生物にまたがった4つの敵影。鈍色のフルプレートメイルを身に纏い、緑色のマントをはためかせ、片手で手綱を、もう片方の手で1m程度の細身の杖を保持した騎兵。武器が寂しいことを除けば地球基準では完全な重装騎兵と呼ばれるレネーイド帝国近衛魔導騎兵4騎の間合いに、デウス・エクス・マキナはとらえられてしまう。







 始まりは唐突だった。横隊といってもつぶれた楔型の体系をとった騎兵のうち、楔の頂点を疾走する騎兵――おそらく指揮官だろう――が片手に持った細身の杖を掲げる。馬上槍でもハルバードでもなく、杖を使用するのが現時点でのエリクシルにおいて最優の陸上兵力と謳われる魔導騎兵の特徴。

 甲冑の中で言の葉を紡ぐ必要もなく、掲げられた合計4本の杖の先端に埋め込まれた結晶が発光し魔力が渦巻く。直後、彼らのまたがる鞍の後方に備え付けられた長さ2mほどの直方体の箱の中から、次々と恒陽の光を反射する銀色の槍が姿をあらわしていく。一つの箱につき4本、1騎につき箱が2つ供えられているため合計で32本の銀色の槍が、箱から垂直に浮上すると同時に横倒しになり疾走による風を無視するかのように騎兵の周りに浮かんだ。


「―――ッ!――――ッ!」


 指揮官の怒声が暴風の中にかき消されると同時、中空に浮かんだ槍は2本ずつが引き絞られた弓から放たれる矢のように、わずかな魔力エーテルの残滓を大気に残しながらおよそ0.1秒間隔で次々と発射された。


 音速の3倍で飛来する32本の槍が街道を埋め尽くすように、わずかに拡散しながら反逆者たちに迫る。魔術の発動を見たアルマがノールの進路をわずかに修正し、直撃弾の数が4から2本に減らすがこれ以上は回避軌道だけではよけきれない。1発は車体側面を掠るにとどまるが、もう1発は砲塔後部に直撃するコースに乗っている。


 ――高速並列演算開始。対徹甲弾迎撃プログラム解凍、導入、実行


 あらかじめ軍刀の柄を握りしめていた手に力を籠めると同時に鞘の刀身加速装置を起動。はじき出された刀身を高速接近する銀色の槍に対して最適の角度で沿わせ、切断するのではなく別方向に力のベクトルを加えて針路を逸らす。軍刀を保持する手に尋常ではない衝撃が加わり、骨格と筋肉が挙げる悲鳴を脳が理解する前に、針路をそらされた槍は砲塔の端をわずかに掠って耳障りな音と火花とともに前方へとすり抜けていく。

 結局、不発に終わった32発の槍弾による攻撃だったが外れた銀色の槍は周囲に甚大な影響を及ぼした。

 ある槍は着弾地点の舗装路を数十mにわたって粉砕し、またある槍は住宅に直撃した瞬間衝撃波と運動エネルギーを開放し中に避難していた複数の民間人を肉塊へと変える。低い高度である店に突っ込んだ複数の槍は、建物を支える柱のことごとくを粉砕し射線上にあった4件の家屋を次々と倒壊させた。32発の槍の掃射を受けたルベルーズ5番街は数十分前の昼下がりの穏やかな光景から一変、巨大な棍棒で薙ぎ払われたかのような無残な有様を呈することになる。




『なんという王の財宝ゲート・オブ・バビロンいや全投影連続掃射ソードバレルフルオープンかな?。どちらにせよLOSAT担いだ重装騎兵とかコーラと紅茶ガンギマリすぎですねぇ!』

『近衛騎兵が他国の市街地で戦車砲レベルの攻撃ブッパとかロックだな、おい』


 槍がかすった衝撃で剥離した装甲の破片を、タブリスの防御結界でやり過ごした車内に、SOUND ONLY 02が増えた画面からノーマッドとユキトの興奮と呆れと困惑が混ざった声が聞こえてくる。ノーマッドが何を言っているのかはわからないが、ユキトの言うことに彼女は全面的に賛成だった。

 加速杖カタパルトと所持者の魔力を利用して打ち出される機動魔術槍マニューバ・バレルの威力は要塞級ビークルの主要装甲区画すら貫通し、破壊せしめる能力を持つ。十分な運用には一流の魔力炉だけでは足らず、騎乗するための軍馬も最高級の魔力炉を持つ個体が必要という重い制限があるが。編成できれば文字通り一騎当千の戦闘能力をもつ兵科であり、エリクシルにおいては戦略兵器クラスの位置づけであった。

 そのため、他国の市街地で魔導騎兵がその攻撃能力を開放することは、宣戦布告による奇襲でもない限りありえない。しかし、現実では投射された32発の機動魔術槍はルベルーズの街並みを切り裂いていた。


「正気か?レネーイドはルベルーズと戦争でもする気なのか?」

「さて、どうじゃろうな?」


 背後から聞こえてきた少女の声に思わず振り向くと、相変わらず整った顔には似つかわしくない邪悪すぎる笑みを浮かべている。先ほどの声を聞いた瞬間に浮かび上がり、即座に”ありえない”と一蹴した荒唐無稽な仮説が心の中でゆっくりと鎌首をもたげるような気がした。


「まさか、貴様…」

「レネーイド帝国は風の魔術に特化した国じゃ。機動魔術槍も加速杖も使用する魔力の属性は風。原理としては圧縮した風属性魔力に特定の魔術を打ち込むことで開放し、槍を打ち出しておる。さて、ここで一つ質問じゃ。威嚇用とはいえ展開した槍に周囲の風魔力を根こそぎ叩き込めばどうなる?」


 そういって、彼女は小さな手のひらを握りしめる。


「まさか、暴発させたのか?」


「いかにも」とつぶやくと同時に、握っていた手をパッと開いた。


「レネーイド近衛騎兵の常套手段じゃよ。機動魔術槍を展開して威嚇する。従わなければ、必要最低限の魔力をもって射出し言うことを聞かせるか殺す。ま、今回はビークルが対象じゃから魔力の圧縮率が高かった。ちょいと追加してやっただけでこのありさまじゃ」

「レネーイドの皇女がわざわざルベルーズとの戦端を開くのか?」

「手段や代替案は多ければ多いほど良い。今回もその布石を打った迄よ」

「もう少しで死ぬところだったんだぞ」

「お主等なら機動魔術槍ぐらい捌けるじゃろう。現に、こうして無傷じゃ。厄介な槍の多くを射程外に吹っ飛ばしてやったのだから、光栄に思うがよい」


 全く悪びれずに頬杖を突く少女に対して頭痛を覚えつつ、舌打ちを返事として携帯端末の方へ声を掛ける。前方からは、恒陽の光を反射する数本の銀色の槍ががれきの山の中から浮かび上がり始めていた。



 ――ユキト、前方に槍が見えるか?

 ――6本確認できるが、また飛んでくるのか?

 ――そうだ。機動魔術槍は術者の半径200m以内なら自由自在に機動し攻撃してくる。破壊すれば攻撃は止まるが、レネーイド帝国の槍は水銀を魔術で疑似的に硬化、成形したものだ。針路を逸らすことはできるが、切断は意味がない。

 ――弱点は?

 ――槍の中心に水銀を制御するクリスタルがあるが、待て、迎撃するとかいうなよ?

 ――なに?迎撃しろっていうんじゃないのか?

 ――馬鹿か貴様!危険だから車内に避難しろと言っておるのだ!車内の魔術防壁の中にいれば、一先ずは大丈夫だろう。私の防壁もそちらへ回すのだから。

 ――それでは車体が持たない。先ほどの攻撃でも結構ダメージが大きいのだろう?


 痛い所を突かれたのか、アルマが黙り込む。2発の槍は装甲を掠めるにとどまったがその際の衝撃波確実にノールを破壊していた。魔術防壁で乗員区画は無事でも、車体のあちこちに負荷が掛かっているとノーマッドから報告が入っている。シミュレーションでは直撃弾か2発以上掠めれば、機能停止に陥るだろうということだった。

 がれきから浮上した槍はこちらを取り囲むように空中を浮遊し穂先を向ける。正直なところ、術者である騎士に隙を銃弾を叩き込みたいが8発の槍がこちらをにらんでいる現状ではそのようなスキは与えてくれない。


 ――なら、せめて魔術防壁ぐらいは展開してやる。車体の上からは出るな。

 ――そんな魔力があるのなら乗員区画の強化に回せ。奴らはそのうち必ず、僕じゃなくて車体を狙い始める。その時がチャンスだ。

 ――……ッ!来るぞ!


 半球状に展開していた機動魔術槍がはじかれたように射出されユキトへと降り注ぐ。わずかな時間差を置いて突入する白銀の槍を軍刀の峰で弾き、払い、いなし、その進路をことごとく明後日の方向へと変えていく。

 上から下へ一斉に突き下ろされ、針路をそらされた槍は間髪入れずに反転し、今度は周囲を飛び回りながら死角を選んで連続かつ立体的な攻撃に打って出た。

 どうやら、敵は車体の上で無防備に体をさらしている愚か者から殺すことに決めてくれたらしい。あるいは、フェネカに並ぶ反逆者としてすでに情報が言っているのだろうか?どちらにせよ、標的が自分になるのは願ってもない。

 背後から心臓めがけて突き上げる槍を紙一重で躱し、頭上から延髄と上面装甲めがけて急降下する槍を払ってタイヤのすぐ横の地面に突入させる。かと思えば両側と前後左右から高度を微妙に変えた槍が付きだされるのを、しゃがみつつ直撃コースに乗った槍だけ弾き飛ばすことでやり過ごした。

 黒い軍刀と白銀の槍の舞に、時折飛び散った高温と火花が花を沿える。無限に続くようにも思える槍の乱舞の中、異星人と科学の瞳は襲い来る槍を冷静にとらえていた。


 ――LOSAT並みの威力が出るファング付きの騎馬兵がいれば、それは装甲車両も進化しませんよねぇ。ま、ファングの有効距離が200mとか近接戦ならともかく現代戦車なら雑魚も同然ですけどね!

 ――戯言はいいからとっとと解析結果を吐け。

 ――ぶっちゃけ攻撃に関しては規則性は見られませんね。プログラム誘導というよりも術者が逐次支持を出している形です。ただ、今のところ一斉射出以外の同時攻撃は4本までですね。自由自在に精密に操るのは一人1本が限界で、それ以上となると単純な配置、射出しかできないのでは?

 ――ただし、ある程度の移動は半自動でやる形か。今のところ槍の配置パターンは5個ぐらいか。

 ――ええ、ランダムに飛んでるように見えますが、その実いくつかの射撃位置ポイントを行ったり来たりしているだけです。ここは自動オートのようですね

 ――纏めると。攻撃位置への配置は決まったパターンがあり、そこからの複数同時射出は可能だが、それ以外に精密誘導を行う場合は術者一人につき1本が限度。マニュアルからオートに切り替わると自動的に攻撃開始点をランダムで行き来し、敵かく乱させるというところか。

 ――つまりファンネルですね。本当にありがとうございます。

 ――種も割れてきたし、そろそろ叩き潰すか

 ――さあ踊りましょう!近衛魔導騎兵と機動魔術槍が奏でる円舞曲で!

 ――ガンダムネタじゃないのかよ…


 死角となる斜め後方から突き上げられる白銀の槍を交わし、すれ違いざまに刃が叩き込まれる。単分子刀に構造を変化させられた刃は魔術によって形を整えられた水銀をやすやすと切り裂いていき、その中心にある直径1㎝ほどの緑色のクリスタルを切断した。

 魔力によって保たれていた槍の形状維持術式が瞬時に弾け、慣性にされるがままとなった水銀が空気抵抗を受けつつ拡散しながら空に吹き上がる。高速ですれ違う水銀の槍を”斬られる”などという、近衛にとっては超常現象にも等しい光景を見てしまった指揮官が息をのむがソコは栄えある近衛騎兵士官、瞬時に攻撃の目標を切り替える。

 もはやあの人物に槍を向けるのは無意味だ。ならば、乗っているビークルを破壊してしまえばいい。刀の届かないビークルの車体部分に残る7本を突き刺して破壊する。機動力を失った者など、近衛騎兵の敵ではない。

 そう結論付けて部下とともに残る機動魔術槍の目標を変更、対ビークル用攻撃パターンをパスを通じて槍に伝達し攻撃態勢に移らせようとするが、それはかなわなかった。



 何か巨大なものに体を突き飛ばされる感覚をわずかに感じた瞬間、体を構成していた筋肉や骨、神経線維といった物質が巨大な爆圧と衝撃波によって引き裂かれ、複数の魔術防護が施された鎧も紙きれのように切断されていく。内側から急速に膨張した人の肉体だったものは細かく寸断された鎧の破片とともに四方八方に砕け散り、近衛騎兵指揮官の体はコンマゼロ秒以下の間に乗騎ごと”粉砕”され砕け散った。



 吹き飛んでいく眼球とかろうじて残った視神経が最後に彼の脳だったものに送ろうとした光景は、酷薄な笑みを浮かべ大砲のような拳銃をこちらに向ける異星人の姿だった。










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