4 事実は常に命題として与えられる

4.0 犯人の独白

【犯人の独白】

 さて、リョウたち4人は少しづつ事件に巻き込まれていく。

 賢明な読者はお気づきかもしれないが、私は”guest”としてE-schoolにログインし、ユウコを体育館に呼び寄せた。そしてそこで彼女をロープで絞め殺した。<ユウコのアバターが削除されました>とクラスチャットに表示されてた、まさにあの瞬間に、ユウコは私に殺されたのだ。

 しかしクラスチャットにユウコが死んだ痕跡が残ってしまったのはミスだった。もしかすると致命的なミスになるかもしれない。まさか直前にクラスチャットにログインしていたとは思わなかった。ログインしていなければ(少なくとも2年1組の生徒には)気づかれることなくユウコを殺し、発見を遅らせることができたはずだ。クラスチャットにユウコがログインしていたことで、ユウコが少なくともその時間までは「生きて」いたことがわかってしまった。学校側や警察に頼らずとも、殺害時間を生徒が特定できてしまうのだ。


 事実は常に命題として与えられる。世界に存在するのは「事実」ではなく「命題」なのだ。「ユウコが殺された」という「事実」があるのではなく、「ユウコが(誰かに)殺された」という「命題」があるのであり、その命題の真偽によって事実の真偽を測っているだけなのだ。命題の真偽が世界の真偽を決定する。


 真偽がつくものは、いつかその真偽が明らかになる。それは1秒後かもしれなけば、100年後かもしれない———

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