第11話

「ねぇ、ちゃんと聞いてる? それで、わたしは従者と来たの。

すごく道が悪くてかなり酔ってしまって、次の町で着くって言うじゃない?

だから、従者は先に行かせて私だけ後でゆっくりいけばいいと、その時思ったのよ。

これは名案だって。

従者は約束があるから先に行かないといけないけど、私だけなら後で一人でもいけるって言ったの。

無理やり納得させて、休憩してから目的地行きの馬車にちゃんと乗ったのよ。

そこまでは良かったのよ!

そうしたら、そうしたらよ?

その馬車揺れがその前に乗ってた馬車よりもっと酷くて、すごく気分が悪くなるじゃない?けど、途中で何もないところで降りるわけにもいかないから、耐えるしかないじゃない?

ずっと必死に目をつぶって口を押えて我慢して、やっとここが最終地点です、降りてくださいって言われたから降りたら、さっきの村よ?

信じられないでしょ?

それでも、ここまで来てしまったら仕方ないかって気持ちを切り替えて降りようとしたら私の荷物がなくなってるの!

御者に言っても自己責任だと一点張りで。

まぁ、馬車は前払いだったから良かったんだけど、一文無しよ?

その後、次の馬車は?って聞いたら1か月後だって言うのよ。

どこの田舎よ!って思ったわ。

仕方ないから身分の差がわからないのかと言っても証明する物は?証明できる人は?なんていうのよ。

これ以上言っても大人げないから今回は引き下がってあげたの。

無理を通して庶民を困らせるのも不本意だし。

その後、馬車のせいで最悪な気分になっていて何も食べていなかったから村の食堂に入ったの。

そしたら、一言目が、財布を見せろ!なんて言うのよ!

私はお客よ? 信じられないでしょ?

それにお金がないなら水も出さないって言うし。

あんたが座る椅子なんてないとも言われたわ。

おかしいじゃない!!

あとでお金は持ってくるって言っても無視だし。

そのあと私を足蹴にしたのよ!!

本当に信じられない!

あの村の食堂についてはちゃんと報告するつもりよ。

絶対に許さない!!

誰よ田舎の人は優しいなんて言う人は!!

全部嘘じゃない!

この村で待ってても意味がないから、町への行き方を聞いて歩きはじめたの。

昨日から何も食べていなくて、お腹がすいてふらふらしてたら躓いてケガしたの。

もう動けないから道の真ん中に居れば、誰か通る人が見つけてくれるだろうと思って待ってても誰も来ないし、1時間以上たってやっとあなただけよ。

この周辺に人は居ないの?!

本当にあの村はなんなのよ!!

今回で田舎は大っ嫌いになったわ。

もう絶対来ない! 頼まれても二度と来ないわ!!」


ここまで来るのがいかに大変だったかと、道中一から説明がはじまり、彼女の不満はテイの荷車の上で大爆発した。

スピードがでるはずもない人力荷車は揺れる事があっても、その揺れはあまり大きくなく、彼女の口にブレーキをかける事はなかった。

彼女の不満は怒りが込みあがる度に何度も話がループするものの、テイの荷車には多少の感謝はあるようで、テイについて遅いやらもっと丁寧になど文句を言う事はなく順調に進んだ。

テイも普段運ぶ野菜の重さと彼女の体重はあまり変わらず、そこまで苦にならない事も幸いだった。


「ねぇ、ちゃんと聞いてる? 聞かないと罰を与えるわよ?」

「......聞いてます。」


彼女は黙って無心に荷車を引くテイに度々相槌を求め、しぶしぶテイは返事をしていた。

それから、田舎の道と都会の道の違いからはじまり、服装や食べ物、流行などを彼女は一人で一方的に2時間あまり話していた。


「あれが町? ちっさいわね。」


町が見えてくると、白いローブの彼女は荷車の上で立ち上がり、遠くまで見ようとしていた。


「そうですか?」

「そうよ、ちょっと大きな村じゃない。」


テイは村より大きいから町なんじゃないかと思いつつも声にしなかった。


「もう、ここでいいわ。」


唐突に彼女は言うと荷車から飛び降りた。

まるでケガなどしていないようだった。


「あの、足は大丈夫ですか?」


当然心配になったテイは白いローブの彼女に聞いた。


「言い忘れていたようね。私、治癒の魔法も使えるから。」

「へ?」


テイが呆けている間に白いローブの彼女は言葉を続ける。


「あなたには世話になったわ。報酬は期待していいいわよ。すぐには無理だけど後でちゃんと届けるから。そういえば、あなたの名前聞いていなかったわよね?」

「えっと.......報酬とか別にいいんですけど。」

「な・ま・えは?」

「テイです。」

「そう、私はソフィア。有能な農民テイね。あなたの野菜おいしかったわよ。報酬はきちんと送るから。それじゃあね。」


彼女は自分が聞きたい事と言いたい事が終わると町の門がある方へと走っていた。


「あの人、動けるじゃん.....。」


彼女と積んでいた野菜がなくなり荷車は軽くなったのに、その何倍もテイは疲労を感じた。

気づけば、日は落ちようとしていて、このまま家に帰れば暗闇の中帰路に着かないといけなくなる。

そんな命知らずな事はできないので、テイは帰宅を諦め町で一泊する事を決めるのだった。

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