第7話 祈り

「へっくしゅん。」


少し寒気がし、体の疲労が抜けない。

原因は、りんごの木の横で一夜明かした事に違いない。


「今日は予定がないし、体も痛いから外での作業は昼までにして、昨日もあんまり使えてない魔法を使いたいなぁ。」


そんな事を思いながら日課の作業をはじめる。

だが、今日朝一番にすることは昨日植えたりんごの木に水をあげることだ。


「元気になれよー。大きくなれよー。美味しい実をつけろよー。」


と声をかけ祈りながら水を丁寧にかける。

そのあと、日課をはじめる。

いつも通り野菜畑に水をやり、目につく雑草や害虫をとる。

それに、今日は一部収穫せずに放置していた枯れた野菜から種を回収する事にした。

時間は過ぎ、昼になるとテイは自分の食糧として野菜の収穫を始める。

今日は魔法の練習をする予定なので倒れないように力をつけるために、普段の量の3倍の野菜を収穫することにし、終わると昨日から汚れたままの体を井戸水で洗い、昼食の準備を始めた。


「おーい、テイいるかぁ?」


十八番の野菜炒めを大量に作っていたテイに訪問者がやってきた。


「マックスおじさんかどうしたの?」

「おいおい、お前と俺とは5歳くらいしか離れてないはずだぞ。おじさんはないだろ、おじさんは! 俺はまだまだ若い! そうだお兄さん、いや、お兄ちゃんと呼ぶといいぞ。」


少しうざいマックスという男は主に町と村を行き来する配達人だ。

配達人といっても物や手紙を運ぶだけではない。

それなりに村と町は離れているため、村や町にいく用事を肩代わりする世話人みたいな事もしている。


「ねぇ、なんかあったんでしょ? で、なに?」

「冷たいな、あー冷たい。どうしてこんな冷酷な奴になったんだ。もしかして、先日食堂のばばあにいびられたせいか? そうやさぐれるなよ。おまえは若いんだ。どうせあんなばばあすぐ死ぬ! 気にすんな!」


うざい上に口も良くないマックスは全く関係ないテイが思い出しくない話題を出してくる。


「もういいよ、その件わ。俺さ、火の番してるんだから用事がないなら戻るよ。」

「いや、ある! そうだ伝言がある! バルトが野菜を木箱4つ至急だったかな? なんでも知り合いが欲しいって言ってるからあるなら近日中に頼むって言ってたぜ。

ああ、中身は何種類かバラバラでだったっけ? まぁ、おまえに任せるよ。」


話を切られそうになったマックスは必死に言われた伝言を思い出し、テイに伝えた。


「バルト? バルト? 誰だっけ?」


聞いたことあるような、ないような。


「おいおい、バルトのおっさんだよ。おまえが世話になってるバルトのおっさん。 あの天才料理人と言われながらも酒場を開いてるおっさんだぞ?」

「酒場のおっちゃんか、名前なんて呼ばないから忘れてたよ。わかった。明日ちょうど町に配達があるから明日いくよ。」


バルト=酒場のおっさんだとわかったテイは依頼を了承した。


「じゃあ、俺はこれで! バルトのおっさんにはテイはお前の名前なんか知らねぇよって言ってたってちゃんと報告しとくな。 さらばだ、冷酷なテイよ!」

「ちょ、ちょまってーーー!!」


テイの制止も聞かず、マックスは笑いなが全速力で去っていった。

少しげんなりしながらテイはマックスの事は気にするのをやめようと決め、野菜炒めの作成に戻った。




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「ふー、お腹いっぱい。昨日夜食べ忘れてたからなぁ。でも、昨日は魔法を使ったのにお腹は空かなかったなぁ。」


お腹が満たされ満足したテイは、隠していたスクロールを出し机に広げる。


「この水滴の正しい名前はウォータードロップらしいし、すいてきをやめてウォータードロップって正しい名前で唱えてみようかな。そういえば、今まで何回唱えたらお腹が空いて、最終的に何回目で眠ったんだっけ?」


最近の事を思い出しながら、魔法の使用回数を思い出しはじめる。


「えーっと一番はじめが確か5回くらいだったかな?それで眠ってしまって。二番目が5回目でお腹が空いて倒れたはず! という事は俺の魔力の限界は大体5回くらいなのかな?」


魔法を覚えてから約5日ほどの事をしっかり思い出したテイは自分の限界回数が5回だと予想した。『水滴』の魔法の効果が魔力上昇なので、もしかしたら回数が増えてるかもしれないと内心期待を持っている。


「じゃあいくか! 『水滴』ウォータードロップ


だが、失敗した。


「やっぱり、すいてきで慣れてると簡単にうまくいかないな.....。こんな事で魔力?を使うのももったいないし、当分はすいてきと唱えよう。」


ウォータードロップと言い直すのをあきらめすいてきと唱える。


「『水滴』」


無事に通算4回目の成功を成し遂げる。

その水滴は空っぽになっていた皿に落ちる。

テイはその雫を観察した。


「そういえばこの雫って魔力なんだろうけど、飲めるのかな? 消えてないって事は触れれるだろうし、飲むこともできそうだよね。試しにちょっとだけ....。」


そんなことを言いながら皿に残ってる水滴に恐る恐る人差し指をくっつけその指をペロッと舐めてみる。


「甘い? おいしい気がする! これが魔力の味なのかな?」


魔力は美味しい物なんて思い始めると、魔力を増やす練習でも、ただ無意味に地面に落とすのはもったいないような気がしてきた。

それに火種の魔法も魔力が増えるかわからないし、食べれない、更に成功してないので使う気がなくなってくる。


「あと3回使えるかもしれないけど。明日は配達だから様子見に今日は3回までにしてみるか。本当は様子見を見なが1回づつ増やしていけばいいんだろうけど。今日1回失敗してるし、もう1回くらいいいよね。」


テイは自分で免罪符をたて今日は魔法を3回使う事を決める。本当は4回使ってみて様子をみてみたいが、先日の過ちは繰り返してはいけない。


「この雫おいしいなら野菜にあげたいけど、ほとんど量もないから無理かぁ。まぁ、野菜にどんな影響でるかわからないし、今はするべきじゃないよな。」


自分で舐めるだけかと思っていると、そこで思い至った。


「そうだ! りんごの木にならあげても問題ないか。美味しいんだもん、きっと大丈夫だろう。うん、使わないともったいない!」


そうすると、家から外にでてりんごの木の前に立ち呪文を唱える。


「『水滴』 元気になれよー。」


雫はりんごの木に落ちて微かに地面を濡らした。

3回目の呪文では疲れや腹の空きがない事がわかり、これなら4回目も唱えてもいいかもしれないと悪魔の声が聞こえるが、明日の配達に備え、昨日の疲れを癒す意味もこめ久々にテイは昼寝をすることにした。

そして、夕方に目覚め夕食を食べるとまた眠りについた。

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