第一章【嚆矢篇】

第1話『復讐の嚆矢・よみがえれ戦艦大和』

 無限に広がる宇宙空間……恒河沙の光。

 恒星から惑星が生まれ、惑星は海と緑に、あまねく生命に祝福された。

 生命の樹に純愛宿り、紡がれゆく……

 

 太古の記憶。

 悠遠の神代から続く人々の営みは『神話』となり、新たなる時代の幕開けを告げる──









 《 新日本神話 第一部【新日本神話:序】 第一章「嚆矢篇」 》









『(夏の夜、緑の丘に祈る少女あり──)』

 

 囃子と提灯が鮮やかに彩る祭。

 老若男女が集い、若人たちが恋の花咲かせる。


 朱の社に佇む少女。

 少女は祈る。何を祈る?

 伏せた睫毛、桃色の頬が愛らしい……

 

 ふと、傍らの異性に気づく彼女。

 振り向きざまにポニーテールを揺らし、彼の心をわしづかみにする。

「あれ? 洋祐?」

「悪いな美咲、邪魔したか?」

「ううん、大丈夫だよ」


 西村美咲にしむらみさき東城洋祐とうじょうようすけの姿を認め、今に至る。


 無料通話アプリを交換し、はにかむ美咲。

 照れ隠しにSNSを開く。タイムラインを上下にスクロール。検索数上位ワードを見やる……


「……えっ!」

「どうした? ……!」


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【 国民保護に関する情報 】

【 警戒情報。警戒情報。衛星軌道上のスペースシャトル地表へ降下 】

【 対象地域:関東全域 】


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 ふたりは顔を見合せ、愕然とした。


     *    *


 雲の切れ間から下界を見下ろす一柱の神。

 赤い髪が風に揺れ、荘厳さをたたえる。

 火之神カグツチだ。

 瞑目し……かっと双瞳を開いた!


 スペースシャトルのエンジン2基が点火!

 バーニアから青の噴射炎を吹かし、軌道上から降下する。

 機体耐熱タイルが空力加熱で輝き、溶岩の塊になる。

 

 火之神が放った復讐の嚆矢──それは米国が誇る無人宇宙船〈ベテルギウス〉の墜落だった。


 管制センター、オペレーターが慌てふためく。

『〈ベテルギウス〉、衛星軌道より降下!』

『スラスターに点火する直前、外部からのハッキングを確認!何らかの工作が行われたものと思われます!』

『落下予想ポイントは!?』

『……日本の関東地方です!』


「──大統領に緊急連絡だ」

 センター長が拳を握りしめた。


     *    *


 日本国、東京── 


 首相官邸危機管理センターに設けられた官邸対策室には阿部泰三あべたいぞう首相はじめ閣僚らが詰め、対応にあたっていた。


「ホワイトハウスからの連絡では、ベテルギウスは何らかのハッキングにより暴走。迎撃を突破し太平洋上空を飛翔しつつあるとのことです」

 岸本きしもと外務大臣が受話器を置き、対策室メンバーに告げる。


 重苦しい空気が場を支配した。


 阿部は腕を組み、荒垣に顔を向ける。

「荒垣補佐官、あのふねはどうなっていますか?」

「いつでも行けます総理」

 阿部と荒垣は目線を合わせ頷く。


「やるしかない……我々はあの艦に希望を託します!」


     *    *


『ドック内の作業員は直ちに待避! 繰り返す! ドック内の作業員は直ちに待避!』

 

 機関操縦室についた女性幹部自衛官が、鋼鉄の城を胎動させる。

「主機起動……主動力線コンタクト……全電力スイッチオン!」

 機関の正常運転の旨、機関操縦室から戦闘指揮所CICに伝えられ、ふねは目覚める。


 横須賀バースにそびえる鋼鉄の城──それこそまさに海上自衛隊が誇る護衛艦〈やまと〉の勇姿だ。


「──対空戦闘用意! 目標〈ベテルギウス〉!」

 東城宏一とうじょうこういち艦長が席から立ち上がり、制帽を被り直す。

「主砲レールガン攻撃始め!」

 砲雷長が発射を命じた。


 三基の主砲塔が起き上がり、砲身が上空を睨む。


「発射用意……撃てぇっ!」

 砲術士がトリガーを引き、瞬時に電気信号がレールガンへと伝わる。


 砲口からプラズマの炎と共に極超音速の弾体が射出され、成層圏へ向け放物線を描く。

 水平飛行に移った〈ベテルギウス〉に砲弾が殺到する。


 一発の主砲弾が主翼に直撃、フレームが圧壊し〈ベテルギウス〉はきりもみを起こす。

 急激に高度を落とし、無人宇宙船は海面に墜落した。


「やったのか……?」

 阿部がスクリーンを見つつ言う。

「〈やまと〉からの通信、入りました!」

 画面に宏一が映る。


『こちら護衛艦〈やまと〉、スペースシャトル〈ベテルギウス〉の撃墜を確認……引き続き本艦は警戒にあたります』


 主砲から煙を吐き、〈やまと〉は堂々たる艦体でそびえていた。

 火之神カグツチが放った復讐の嚆矢は、護衛艦〈やまと〉によって防がれたのだった。

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