17#『愛の仲間』の儀式の途中で降ってきたアホウドリ

 「これが・・・ニドさんが膨らませ割った風船・・・」


 雄ヒドリガモのカロは嘴の鼻の孔で、割れた水色の風船の裏の表面にこびりついた、防鳥網にかかって死んだ番の雌ヒドリガモのニドの涎の匂いを、涙を流してクンカクンカと嗅いだ。


 「ニド・・・一緒に僕も防鳥網にかかったのに、僕だけ生き残ってごめんな・・・

 僕は、もうこんな事故に逢う鳥が居なくなるように、この『秘密の湖』で『魔術』の修行をするからさあ・・・!!」


 雄ヒドリガモのカロは、割れた水色の風船を翼で抱き締めて激しく嗚咽した。


 「風船が繋ぐ魂ね・・・」


 フラミンゴのベキィは、湖の上空を見上げて同じく死んでいったフラミンゴのショーを思い出して、うっすらと一筋の涙を流した。


 「女王様ぁ、私ここに居ていい?」


 ハクチョウの女王様の目の前で、派手な尾羽をバッ!!と拡げてクジャクのジャニスは馴れ馴れしくせがんだ。


 「居るに居たって、おいら『外来種』だし。」


 カナダガンのポピンとコクチョウのブラッキィそしてペリカンのオギは、異口同音で答えた。


 「あたしも此処に居るわ。あたし、あふりかのフラミンゴの湖に戻りたくないし。だって、あたし例の事で嫌われてこっちで骨を埋める事にしたし・・・」


 フラミンゴのベキィは、何か悟ったように皆に振り向いて決心したように答えた。


 「皆、お疲れちゃん!!あ、留守番のカラスとガチョウとアヒルもね。

 さて!!お待ちかね!!

 これから、みーーーんな『仲間!!』

 『愛の仲間達』!!

 『愛の仲間達』の儀式を行ないまーす!!」


 ハクチョウの王様は、年期の入ったトートバッグに満載した萎んだゴム風船を首に担いで、皆のとこへやって来た。


 「やんややんや!!」


 カラスのカーキチのカースケ、そしてカーキチとカースケに『カラス仲間』に無理矢理させられた、ウミガラスのアデルが顔を引き面せて歓声した。


 「俺が大きく風船を膨らますぞ。」


 「いや、俺が風船を膨らますのが得意だ!!嘴で途中で割らないように。」「するかっ!!」


 ニードルとアルゼの2羽のアオサギは、早くも小競合いを始めた。


 「やだー!!風船割れる音こわーーい!!」


 「ガチョウのブンの奴、まーた風船が割れる音怖がって取り乱してるぅーーー!!」


 「ははっ!!無理矢理でも嘴に風船突っ込もうか?また!!」


 頭を抱えてガーガー叫ぶガチョウのブンに

、マガモのマガークとアヒルのピッピは呆れ顔で言った。


 

 「皆!!ゴム風船行き渡った?」


 ハクチョウの王様は、思い思いの萎んだゴム風船をチョイスした鳥達に向かって呼んだ。


 「はぁーーーいー!!持ってまーす。」


 「ヒドリガモのカロさんは?確か、風船持ってくるの忘れたとか。」


 「ありまーす!!ニドの風船と同じ水色の風船にしました。」


 「あれ?」


 「ハクチョウの女王様は?」


 「何処に行ったんだろ?」「見あたらないなあ・・・」


 「ハクチョウの女王様が居ないと、『儀式』が始まらないよお。」


 その時だった。



 ひゅ~~~~~・・・



 「わー!!」


 「なんだなんだ?!」


 「あ・・・」


 「アホウドリだ!!」


 遥か上空から皆の居る湖の畔の草原目掛けて、1羽のアホウドリが一直線に滑空してきた。




 「わーーー!!どいてどいて!!」


 弾丸のように飛んできたアホウドリは、『儀式』に集まった鳥達に向かって、必死に叫んだ。


 「そんなこと言ったって!!」


 「ひいいいいいいいい!!」


 アホウドリの行く軌道が、鳥達に向かって来た。



 すぅ・・・



 「逸れたね。」「うん。逸れた。」


 「助かったぁ!!」


 「つーか・・・このアホウドリ、このまま滑空したら、あの大きな岩に激突するぞ!!」


 「アホウドリって、着陸が苦手何だよね!!」


 「岩ににぶつかる!!」


 「もうダメだぁ!!」



 ぷくぅ・・・。



 大きな岩が、突然更に大きく膨れ上がった。



 ぷくぅ~~~~・・・



 「あの岩・・・まさかぁー!!」


 「ああっ!!岩にアホウドリが激突する!!」


 「もうだめだ!!」



 ぼい~~~~~ん!!



 「あっ!!」「アホウドリが岩にめり込んだ!!」



 ぷしゅ~~~~~~~~!!




 「今度は岩がどんどん萎んでいくぞ!!」


 「あらら・・・岩が小石に萎んだ・・・って・・・それ、ゴム風船だったの?!・・・え?女王様!!」


 命拾いしたように、仰向けになって満面の笑みを浮かべるアホウドリの側で、ハクチョウの女王様が岩の形のゴム風船の吹き口をくくりつけた長いホースをくわえてぜーぜーと、息を切らしていた。


 「ぜぇ、ぜぇ、全く・・・この『どアホウドリ』は。着陸は超ど下手なんだからぁ!!

 あんたから貰った岩型の風船が、こんなことで役に立つなんて皮肉だわ!!

 これから大切な『儀式』なのにぃ!!」


 「しょうがないでしょ?!私は『アホウドリ』よ師匠!!

 着陸が下手なのは、生れつきよっ。師匠!!」


 ムクッと起き上がったアホウドリは、プンプンと反論した。


 「あのぉ。アホウドリのソアラさん。」「あなに?」


 ウミガラスのアデルは、アホウドリのソアラに声をかけてきた。


 「確かソアラさんのとこも、僕らの塒に隣接してる海と同じく、プラスチックのゴミが浮いてるんでしょ?」


 「うん!!だからあたいは、女王様に『魔術』の修行して貰って、プラスチックゴミを岩や石に変換する『魔術』を拾得したんだぁ。

 逢いたかったよ、ウミガラスさん。同じプラスチックゴミの海に翻弄されてる同士でさあ。」


 「チョット待った!!」


 声をかけたのは、カナダガンのポピンだった。


 「女王様?何で、ウミガラスの塒の崖下の大量のプラスチックゴミの対策をこの『変換能力持ち』アホウドリに頼まずに、カワセミやらトビやらトキやらの・・・」


 「ポピン、その時はねえ。アホウドリのソアラは忙しかったのよ。

 丁度、繁殖期でねぇ。餌の魚を採ろうも採っても採っても全部のプラスチックの浮遊物でねぇ。

 困り果てたアホウドリのソアラは、島の海にプカプカ浮いているプラスチックゴミをねぇ・・・根刮ぎ鉱物・・・石ころや岩に変換しまわってて、多忙だったのよ。解って!!」


 ハクチョウの女王様はそう言い聞かせると、アホウドリのソアラの頑強な嘴に、岩の形に大きく膨らんだ風船の吹き口を宛がった。


 「ねぇ、修行した時約束したじゃん。あんたが岩から物質変換させた、この岩型のゴム風船を今度あんたが来た時に、あんたの吐息で膨らませてみて!!と。

 それで、あんたの修行は終わるって。」


 「むぐっ!!むぎゅっ!!」


 アホウドリのソアラは困惑した。


 

 ぷぅ~~~~~~~~~!!



 「あれ?岩の風船じゃなくて、嘴から風船が?!」

 

 

 パァーーーン!!



 「がぁーーーーーっ!!アホウドリの風船が割れたぁーーー!!」


 風船が割れる音に仰天したガチョウのブンは、ガーガーと暴れて取り乱した。


 「アホウドリさん・・・まさか!!」


 水鳥達は、ウミガラスの海で出逢ったウミガメのマークスの口から膨らんだ風船を思い出して騒然とした。


 「やっぱりね・・・まだアホウドリのソアラさんの胃の中に誤飲した漂泊風船が溜まってたのね。

 これで全部よ。」


 ハクチョウの女王様は、このアホウドリのソアラがこの湖にやって来た経緯を『儀式』に集まった鳥達に話した。


 「そっか・・・このアホウドリは、魚とヘリウムガスを満たして飛んで、萎んで漂泊していた風船と間違えて呑み込んで・・・もがき苦しみながら、この湖に・・・」


 「ええっ?!そんな事があったの?」


 皆は、異口同音で答えた。


 「そういえば、俺達。どっかの風船大量飛ばしで、脚とか翼に風船の紐が絡まって、この湖で救出されたんだよな・・・」


 アオサギは、シラサギとカワウに目配せしながら言った。


 「アホウドリさん、一度君の棲む島へ行きたいんだ。何かお手伝い出来ないかなあ?」


 ハクチョウの王様は、アホウドリに聞いてみた。


 「ちょ・・・ちょっと!!『儀式』は?!」


 カルガモのガスタは、慌てふためいて反論した。


 「『儀式』は皆が落ち着いてから、やるものだよ。

 アホウドリさんを助けたりするのが、この湖の仲間の役目じゃん!!」


 「あたしとヒドリガモのカロは駄目よ。今から修行なんだから。」


 ハクチョウの女王様は、翼でヒドリガモのカロを抱いて言い聞かせた。


 「女王様とヒドリガモさんはお留守番ね。」


 「あたしは?」


 クジャクのジャニスは、扇子のような尾羽を大きく拡げて『行きたいアピール』をした。


 「クジャクのジャニスさん!!あたしとガチョウのブンさんと遊ぼう!!

 せっかく仲間になったんでしょ?」


 アヒルのガーコとガチョウのブンは、綺麗な尾羽の羽根を引っ張って誘った。


 「判ったわ。あたしクジャクは長距離飛べないし。『あしでまとい』になるわね。」


 「じゃあ、いこうー!!アホウドリの島へ!!」


 「ちょっと!!アホウドリさんは、『風』に乗らないと飛べないんじゃ?」


 「大丈夫だわよ!!これを使えば!!」


 ハクチョウの女王様は、徐に特大の超巨大風船を持ちだし胸が何倍も膨らむ位に息を思いっきり吸い込むと、



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!



 と、一気に超巨大風船に息を吹き込んで、でっかく膨らませた。


 「すげーーーー!!女王様の肺活量!!大きな湖が半分隠れる位に膨らんだよ!!」


 「つーか、この風船膨らましてる女王様の顔がまるでハクチョウに見えない位に凄い形相だったぞーーー!!

 頬っぺたが顔がむくれる位パンパンに頬っぺたが膨らんだよぉーーー!!」


 周りの水鳥達は、お腹を抱えて爆笑した。


 「ほっといてちょーだい!!」


 ハクチョウの女王様は、失礼しちゃうわ!と頬っぺたを孕ませて超巨大風船の吹き口を、アホウドリのソアラの翼の側に近づけると、



 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~!!!!!



 「うわーーーー!!浮いたぁーーーーー!!翼に風が集まってるぅーーーーー!!」


 巨大風船から吹き出す空気が上昇気流に変り、アホウドリのソアラはまるで凧のようにどんどんどんどんと上に上にと揚がり、悠々と飛び立っていった。


 「成功よ!!?・・・ああ・・・身体中の空気使い果たしてヘナヘナよ・・・」


 ハクチョウの女王様は、空気が抜けた空気ビニールのハクチョウ風船のようにくたんと倒れてしまった。


 「ありがとうーーー!!女王様ぁーー!!!!」


 「じゃあー!!アホウドリの島へいってきまーーす!!」

 

 ウミガラスのアデルを先頭に水鳥達は、次々と先に飛んで行ったアホウドリのソアラを追って湖を後にして、向こうの空へ飛んで行った。


 「いってらっしゃーい!!あ、アヒルさん。クジャクさんでもいいや。

 あたしを嘴移しに息を吹き込んでぇ~。

 あたしをパンパンに膨らませてぇ~。

 膨らまし過ぎて、あたしが割れないようにね~~。」

 

 くたん。

 








 




 

 


 





 








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