15#鳥達のあの世とこの世を繋ぐ風船

 「私、ヒドリガモの『ニド』です・・・干拓沼のレンコン栽培のハス田に張られた、防鳥網に絡まって、もがいていたら・・・此処に来ていました・・・

 死んだのね・・・私・・・

 本当に死んでるの?私・・・

 そうよね・・・もう、あの鳥(ひと)に逢えないのね・・・」


 『死に体』ヒドリガモのニドは、ハクチョウの女王様の目をじっと見てゆっくりと話しかけてきた。


 「女王様。俺、聞いたことあります。人間が湖や干潟を干拓したハス田でレンコンを育てていて、レンコンを食い荒らすとかで、防鳥網を仕掛けていて、今そこに生息している鳥達が次々と防鳥網に引っ掛かって命を落としている事故が問題になってると・・・」


 「ブラッキィ!!何で教えてくれなかったの?!こういう大事件!!」


 ハクチョウの女王様は、コクチョウのブラッキィの首根っこを嘴で掴んで激昂した。


 「こんな神聖な場所で激しく怒らないでよ・・・

 今、俺らの湖に1羽の雄のヒドリガモがやってきて、その事故の事で女王様に相談したいと、痺れをきたして待ちわびているんだよ。

 女王様を呼んでこようと、カルドとアルゼとレンスと一緒に付いてきたんじゃん。」


 「その雄のヒドリガモ・・・って、まさか・・・名前が『カロ』?」


 コクチョウノのブラッキィは、震え声で聞いた。


 「ええ、そうよ。かつての私の番いの雄のヒドリガモよ。カロ・・・カロさん!!」


 突然、『死に体』ヒドリガモのニドは声を張り上げた。


 「生きてたんだ!!良かった!!私、一緒に同じ網にかかってたの!!

 カロさんは私の許嫁でね・・・、北の世界からレンコン畑のある湖の側に飛んできたとたんに・・・!!」


 「そっか・・・貴方が死んで婿が生きていたの・・・酷いわ、やっぱり人間は。」




 「女王様!!俺もレンコン畑の防鳥網にかかって死にました!!」


 「私もよ・・・やっと飛べるの上手くなった矢先に・・・もう鳥は懲りごりだから、今度は獣に生まれ変ろうかな?」


 「私も防鳥網に!」「僕も!」「あたしも!」「俺も!」「私も!」「僕も!」「あたしも!」「俺も!」「私も!「僕も!」「あたしも!」「俺も!」「私も!「僕も!」「あたしも!」「俺も!」「私も!「僕も!」「あたしも!」「俺も!」「私も!」・・・


 『死に体』ヒドリガモのニドに合わせて、他の『死に体』の水鳥達も、其々風船を持ったまま女王様とブルンガ大王の方へぞろぞろとやって来た。


 「こんなにも・・・コウノトリまでいる・・・!!

 人間界では、こんな酷い事が起こってたとは・・・!!」


 ハクチョウの女王様は思わず絶句した。


 「女王様ぁ、だからあの『カロ』という雄のヒドリガモ。

 人間の悪意ある防鳥網から鳥を守りたいと、女王様の魔術を所得する為にあの湖に待たせてるでさぁ。

 この施設を建てた、様々な能力のあの鳥達の噂を、あのヒドリガモのカロも聞いてるんでさぁ。

 そして、あのヒドリガモのカロ。女王様と一緒にあの『儀式』をしたいんだって!!

 でも、風船持ってきてないって悔やんでるらしいから・・・」


 「この風船を使って!!」


 『死に体』のヒドリガモのニドは、



 ぷぅ~~~~~~~~~っ!!



 と、ひと息で持っていた水色のゴム風船を嘴で膨らませて緩く吹き口を結わえてハクチョウの女王様に渡した。


 「この私が膨らませた風船を、カロさんに渡して。私の吐息と一緒に・・・カロの吐息と・・・永遠の愛・・・」


 『死に体』のヒドリガモのニドの目からうっすらと涙が溢れてきた。

 ヒドリガモのニドは、涙声でハクチョウの女王様に聞いてみた。


 「女王様。この風船が普通の2倍以上に膨らむように魔術かけといて・・・」


 「ごめんね・・・この風船、元々プラスチックから『魔術』で物資転換したのよ。

 『魔術』に『魔術』はかけられないの。」


 「そうなの・・・」


 『死に体』のヒドリガモのニドは俯くと、その隣で同じく『死に体』のフラミンゴのショーと元不倫相手だったベキィが首や翼を絡めあって、1つの風船の膨らま合いをしているのが見えた。




 ぷぅ~~~~~~!!



 「この一緒に風船に膨らませてる風船、私とあんたの吐息が1つになって・・・」



 ぷぅ~~~~~~~~!!



 「永遠の愛・・・」



 ぷぅ~~~~~~~!!




 「忘れないわよ・・・身体は死んでも・・・心はこの風船を通じて繋がってる・・・」



 ぷぅ~~~~~~~!!



 「割れないかなあ・・・この風船・・・物凄く大きくなってるんだけど・・・」



 この『バードランド』の地面には、『死に体』の鳥達がプラスチックから変換したゴム風船で遊んで、パァン!!パァン!!と破裂した破片が無数に散らばっていた。



 「女王様、やっぱりこの風船戻して。」


 『死に体』のヒドリガモのニドは、ハクチョウの女王様から今さっき半端に膨らませ途中だった水色の風船を渡されると吹き口をほどき、息を思いっきり吸い込むと



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~っ!!



 と水色のゴム風船に息を思いっきり膨らませた。




 パァーーーーーーーン!!




 パァーーーーーーーン!!



 フラミンゴ達が一緒に膨らませたピンク色の風船。


 ニドが膨らませた水色の風船。


 破裂したのは同時だった。


 

 「ありがとう・・・ショーさん・・・」


 「ありがとう・・・ベキィ。」

 

 フラミンゴのベキィと『死に体』フラミンゴのショーの目からも、



 「湖のカロさんに届いたから?私の膨らませた風船のパンク音・・・」


 『死に体』ヒドリガモのニドの目からも、



 大粒の涙をボロボロと流して、やがて激しく嗚咽した。


 そして、ハクチョウの女王様や王様、


 クジャクのジャニス、


 透明な風船越しにその光景を見ていた、水鳥達も、


 お互い、涙を流して泣いた。


 


 ぼーーーん。ぼーーーん。ぼーーーん。ぼーーーん。ぼーーーん。ぼーーーん。ぼーーーん。ぼーーーん。ぼーーーん。




 「今日転生の日になってる鳥達、この世に名残りは無いですか?

 そろそろ、旅立ちの時間です。」


 「あっ!!僕だ!!」


 「私!逝かなきゃ!!」


 『死に体』のフラミンゴのショーと、『死に体』のヒドリガモのニドは、ブルンガ大王の号令にはっ!と気付いた。



 



 



 


 

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