10#ハクチョウの女王様とクジャクとの和解

 がしっ。



 「ごめんなさい!!ごめんなさい!!私!!この湖の『儀式』の時に大切なフラミンゴのショーさんの膨らます筈の、ピーコック柄のゴム風船を盗んでしまいました!!

 ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」


 唐突に、クジャクのジャニスはフラミンゴのベキィの前で土下座して何度も謝った。


 「いいのよ!!クジャクさん。ショーさんならピーコック柄があっても、ピンクの風船を選んだんでしょ?」

 

 ハクチョウの女王様は、あの日・・・コブハクチョウ家族やタンチョウやオオワシと共にフラミンゴのショーがこの湖にやって来て、皆で風船を嘴で膨らま割る『愛の仲間達』の儀式をする時を思い出した。



 ・・・・・・



 「そして、タンチョウのリサちゃんは白い風船、で、フラミンゴのショー君は・・・」


 「ピンク!ピンクがいい!!」


 「あるよ!ピンク!」


 「僕の体はピンクだからピンクの風船だぜ!」



 ・・・・・・



 ハクチョウの女王様の目から、大粒の涙が濁流の如く流れ出た。


 「ごめん!!ごめんね!!あんたを疑って!!酷い仕打ちにして!!ごめんね!!ごめんね!!ごめんね!!ごめんね!!ごめんね!!ごめんね!!許して!!許して!!

 あたしが!!あたしが!!悪かった!!

 うわあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」


 ハクチョウの女王様はクジャクのジャニスに抱きつくと、大きな翼で抱き締めて大声で泣き崩れた。


 ハクチョウの女王様がここまで嗚咽するのを見るのは、水鳥達には始めてだった。  


 「大丈夫よ!!大丈夫!!わたし、気にしてないわ。

 わたしも黙ってひとの風船をくすねたのが悪いのよ。」


 クジャクのジャニスの目にも涙が溢れて滝のように流れた。


 「わたしね、わたしね、わたしね、実は・・・わたし、逃げてきたの・・・人間の移動動物園から・・・

 人間の子供達が、私の拡げた尾羽を引っ張って引き抜こうとする訳・・・

 何度も何度も、何処へ行っても・・・

 もう怖くて・・・怖くて・・・生きている気がしなくて・・・嫌で・・・嫌で・・・嫌でも・・・また移動動物園で人間に揉まれて・・・

 ある日、乱暴な人間の子供がわたしの尾羽どころか翼まで引っ張ってきて、ビックリして・・・

 思わず移動動物園から飛び出し・・・て・・・

 わたし・・・居場所を探し回ったの・・・

 こんな短い翼じゃ、産まれ故郷のどっかへ飛べないし・・・」


 その時、フラミンゴのベキィはハッ!とした。


 ・・・フラミンゴじゃ翼が大きいから、高く遠く飛べるけど・・・


 ・・・このクジャクは・・・翼が短いから・・・


 ・・・このクジャクさん、ショーさんみたいに本当は故郷に帰りたいんだ・・・!!


 ・・・でも、断念してこの地へ身を埋める事にしたんだな・・・


 ・・・ショーさんも、このクジャクさんも、人間の都合の犠牲だったの・・・


 「ある日の事、この湖の畔へわたし来たの・・・

 でね、このピーコック柄の大きめの萎んだゴム風船が転がっててね・・・

 わたしと同じ柄のゴム風船って存在してたんだ・・・と思って・・・

 嘴から息を吹き込んで膨らませたら・・・膨らませたい・・・!!と。

 わたし、移動動物園の中で子供がゴム風船を膨らますとこ見てたし、ゴム風船の膨らませ方を知ったし・・・

 でね、召し使い鳥の目を盗んで・・・つい・・・」 


 召し使い鳥のガチョウのブンとマガモのマガークは、ギロっと睨んだハクチョウの女王様の目線に思わずドキッとした。


 「ごめんなさい!!女王様!!」


 「僕の不行届で・・・!!」


 「後であたしの羽根の手入れね。」


 ハクチョウの女王様は不適な笑顔で、召し使い鳥を見詰めた。


 「クジャクさん!クジャクさん!お願い!!」


 フラミンゴのベキィは、目の涙を翼で拭うクジャクのジャニスを呼んだ。


 「『クジャク』でしょ?『クジャク』なら、この尾羽をバーーーーッと拡げてみて!!

 わたし、見たいの!!『クジャク』の尾羽!!」


 「こう?」



 バッ!!



 クジャクのジャニスは、フラミンゴのベキィの言われた通り尾羽を巨大な扇子のように、水鳥の前で拡げて見せた。


 「所々羽根が欠損してたり、ボロボロだけど・・・」


 「ふつくしい・・・」


 水鳥達が、クジャクのジャニスの拡げた尾羽に溜息が出る程の感嘆の声をあげてる時、クジャクのジャニスは、羽毛の奥からピーコック柄のゴム風船を取り出した。


 「ごめんね女王様、これ返すわ。」


 「いいわよ。あげるわ。その代わり・・・」


 「なあに?女王様。」


 「このピーコック風船を、あんたの吐息ででっかーく膨らませて!!」


 「やだー!!せっかくわたし貰ったの割れちゃうのは?!」


 「どんどん膨らませて!!このゴム風船、どんなに大きく膨らませても割れないからね?今、あたいが『魔術』かけたから。」


 「え?」


 クジャクのジャニスは、息を思いっきり吸い込むと、ピーコック柄の大きめの風船の吹き口を嘴にくわえ、渾身の力を込めて頬をめいいっぱい孕ませ顔を真っ赤にして、思いっきりピーコック柄のゴム風船に息を吹き込んで膨らませた。


 

 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!

 



 パァン!!



 「?!」「割れちゃった!!」


 「ギャーーーーーーーーーーーー!!クジャクさんの風船が!!だから風船割れるの嫌なんだーーーー!!」


 「まーた、ガチョウのブン!!本当に風船が割れる音恐怖症なんだなあ。」


 萎ませたピンク風船を嘴にくわえたマガモのマガークは、取り乱すガチョウのブンを小突いた。


 「ごめん!!フラミンゴさん!せっかくのピンク風船鰭脚の爪引っ掻けて割っちゃった!!」


 カナダガンのポピンは、顔を赤らめて騒然とする水鳥達に平謝りした。


 「あれ?」


 「まだクジャクさんの風船、どんどん膨らんでる。」


 「もう、身体の10倍以上膨らんでるよーーー!!」


 「やべえええええ!!」


 もっと騒いだのは、クジャクのジャニスの膨らますピーコック柄の風船がもう直径5メートル以上膨らんでいる事だった。


 

 

 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!



 「うわー!今度はハクチョウの女王様と王様まででっかく白い巨大な風船を嘴で膨らませてるよー!!」

 

 「巨大な風船の大きさを悠々と膨らますとは、クジャクの肺活量も女王様と王様の肺活量ももう『鳥』離れてるよぉーーー!!」




 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!



 「もう、3つの巨大な風船が湖周辺を被い尽くしたよーーー!!」


 「割れたらやばい!!割れたらやばい!!割れたらやばい!!割れたらやばい!!」


 どんどん膨らむ巨大な風船に押し潰されそうな他の水鳥達は皆、耳の部分を翼で塞ぎ慌てふためいた。



 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!


 ぷぅ~~~~~~~~~~~~~っ!!



 突然、クジャクのジャニスが膨らますピーコック風船と、ハクチョウの女王様と王様其々が膨らます白い風船が膨らむのが、ひたっと止まった。


 「ん?」「凄いなあ。これ、こんなに巨大な風船の中に女王様と王様とクジャクの吐息が詰まってるんだぜ?」

 

 「わー!わー!巨大な風船を揺らさないで!!この3つの風船がパンクしたら・・・この湖が壊滅しちゃうじゃないか!!」


  3つの巨大風船に、ドギマギしている水鳥達。


 「ねー、この風船突っつきたくなった。」


 「俺らカラスは、風船見ると嘴で突っつきたくなるんだよねー!!」


 ハシボソガラスのカーキチとカースケは、興奮でブルブルと震えながら、嘴を風船の表面に突き出した。


 「やめろ!!カラスども!!」


 「ごるぁ!カラス!!しばくぞ!!」


 「冗談だよ。」「なーんちゃって!!」


 「冗談にも程があるぜ・・・」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!



 「わーー!!」


 「なんだ!!なんだ!!」


 「あれみて!!風船が!!」「あーー!!」




 ぷしゅ~~~~~~~~~~~~~~~~!!ぷしゅ~~~~~~~~~~~~~~~~!!ぷしゅ~~~~~~~~~~~~~~~~!!


 ぶぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!ぶぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!ぶぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!


 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!




 ハクチョウの女王様と王様の其々の白い風船、


 そして、クジャクのジャニスのピーコック柄の風船。


 吹き口から吐息を吹き出し、ロケットのように湖の上空を右往左往に吹っ飛んだ。



 「うわーーー!!」


 「すげーーー!!」


 「どはくりょく!!」


 水鳥達は、みるみるうちに萎みながら吹っ飛んでいく3つの風船に思わず見とれた。



 しゅーっ。しゅーっ。しゅーっ。




 ぽとん。ぽとん。ぽとん。



 空気が無くなり、3つの風船はしおしおになって、其々の膨らませた鳥達の翼に墜ちてきた。


 「これでクジャクのジャニスさんも、私達の『仲間』だよ。」


 「そう、『愛の仲間達』。運命共同体だよ。」


 ハクチョウの女王様と王様は、キョトンとしたクジャクのジャニスに翼で抱き寄せた。


 「ねえ、わたしも『仲間』に入れてくれないかなあ?」


 「僕も!!」


 フラミンゴのベキィとウミガラスのアデルも、ハクチョウの女王様に寄りかかってきた。

 


 

 

 


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