第14話ゲーマーズ

おれと桃は昼食を済ませた後、アニメショップ巡りをすべく、電気街に来ていた。

向日葵も一応誘ってみたが『友達と遊ぶから』と断わられた。

「よし、じゃあ近くにある店から順に見ていこうぜ!」

「うん」

 そう言っておれと桃は、まずゲーマーズに足を踏み入れた。

 店内に入ると、すぐにエレベーターに乗り、七階のミュージアムスペースを目指した。

 何日か前から期間限定で、超絶魔法少女プリズムアスカの衣装展示やパネル展示、グッズ販売、作品関連の資料の展示などが行われている。

ミュージアムでは、物によっては撮影可能だったりするので、自分の好きな作品で開催された時はなるべく足を運ぶようにしている。

「おお」

七階に到着し、エレベーターの扉が開くと、そこはまるで別世界のようだった。可愛らしいキャラクターたちのイラストが、全面をカラフルに彩られた壁紙に描かれている。そしてその壁紙には、名シーンの場面写真が一枚一枚規則正しく貼りだしてあり、入り口近くのショーケースには、一話分の台本や主人公の変身後の姿のフィギュア、設定資料集などが展示されている。等身大パネルのキャラクターたちが、こちらに向かって可愛く元気にポーズを取ってくれている。奥へ進むと、作中の衣装がマネキンに着せられて展示してある。そして壁際にはたくさんのグッズたちが並べられている。

「すごいな、ワンフロアまるまる場所を取ってある」

 盛り上がり具合によっては、フロアの半分くらいの規模でやることも少なくない。

「よし、まずはスマホで撮ろうぜ」

「そうだね~」

 おれと桃は、各々が可能な限り写真に収めていく。残念ながら、撮影禁止の札がショーケースに貼られているので、中身の撮影は断念した。

 一通り写し終えると、いよいよミュージアム限定グッズ選びの時間だ。可愛らしいキャラクターたちがおれたちを待っている。

「わ~、可愛いね~」

 そんなことを言いながら、キャラクターが描かれたアクリルスタンドを手に取る桃。

 おれも物色しようと、商品群に手を伸ばそうとしたその時、一際目を引くポップが商品棚に差し込まれていた。

『もう普通のマウスパッドには戻れない! 究極のふわとろ感であなたの手首をやさしく包んで全力で癒します! おっぱいが好きだが迷っているそこの紳士諸君、勇気を出して新しい扉を開けてみよう。きっとそこには楽園が広がっているはずだ!』

 ふっ、なるほど、おっぱいマウスパッドか。よし、そこまで推すならとりあえず見てみようじゃないか。

 そして、実物を手に取ったおれは驚愕した。

「こ、これは、で、でかい……」

 まず、なんと言っても、とにかく胸部パーツが大きい。……なんて柔らかそうなんだ。思わず包まれたい衝動に駆られてしまう。それに、描かれているキャラクターの表情もなかなか良い。赤面し、恥ずかしがりながら、それでも『君が求めてくれるなら受け入れる』という気持ちが伝わってくるすばらしい出来だ。うん、簡単に言うとすごくエロいね! それにチョイスされているキャラは、作中屈指のバブみを感じると評判の、主人公の後輩ちゃんじゃないか!

 この子はとにかく胸が大きくて、世話焼きで、話しているだけで疲れた心を癒してくれるような優しさを備えるなど、包容力の塊のようなキャラクターなのだ。

 素晴らしいな。やはり元々のキャラのおっぱいがでかいと、存在感が段違いだと思う。

 たぶんおれがどちらかというと、胸の大きいキャラのほうが好みなせいだと思うのだが、貧乳キャラのおっぱいマウスパッドを見た時、物足りなさを感じてしまうことが多々あった。やはりおれは、巨乳キャラのたわわに実った柔らかそうなふくらみに包まれたい。

 そんなことを考えながらおっぱいマウスパッドをガン見していると、隣から視線を感じたので、桃に顔を向けた。

「ねえねえそれず~っと見つめてたけど、欲しいの~?」

 すると桃はにっこり笑顔でそんなことを訊いてきた。

はい! 正直欲しいです! でも……。

「欲しいは欲しいけど、ちょっとお高いしな、どうしようかね……他の店も行くし、とりあえず今はスルーしておくか」

 後ろ髪を引かれる思いで、持っていたおっぱいマウスパッドを棚に戻した。

 買えなくは無いが、絶妙に渋ってしまう値段設定だった。

 しかし、ミュージアム限定グッズか。開催期間はいつまでだったっけ? あとで調べておかないとな。気づいたら『期間終了でもう手に入りませんよwww』なんてことにもなりかねないし。

もしかしたらネットオークションなんかに出品されたりするかもしれないけど、定価の倍以上の値段で取引されてたりするからな。あんなもん買えるわけねえだろ! 人気商品に限って買占め、からの高額転売しやがる悪質転売ヤー許すマジ! 

だからといって中古品も買いたくない。どこの脂ぎったおっさんが使い倒したかわからんお古なんか、気持ち悪すぎて要らねえよ!

「まあ、それはしょうがないね~。それにしてもあいちゃんて、巨乳キャラ大好きだよね~」

 なぜか桃が己の胸元を見ながら訊いてきた。

「必ずってわけでもないけどな。たとえ巨乳だとしても顔がブスとか、ただのデブとかなら見向きもしないぞ」

「あはは~、厳しいね~」

「それで? 桃は何か買うの?」

「うん、この明日香ちゃんのアクリルスタンド買うよ~。ほら、すごく可愛いよね~」

 確かに、なかなか可愛いじゃないか。

なるほど、明日香ちゃんと飛鳥君で、ちゃんと別の商品として売られてるのか。

 どちらの需要にも応えられるいい売り方じゃないか。

「おれは、そうだな……この梓ちゃんデカキーホルダーにするかな」

 梓ちゃんというのは、さっき見ていたおっぱいマウスパッドのキャラだ。うむ、やはり素晴らしいおっぱいだ。

 そうしておれたちはそれぞれの選んだ商品を手に取り、レジへ並ぶ。

 すると、レジ台の壁にポップを見つけた。

え~と『期間中、超絶魔法少女プリズムアスカの関連商品をご購入、ご予約内金千円毎にブロマイド(全五種)を一枚プレゼント。ブロマイドのお渡しはランダムとなります。特典は無くなり次第終了となります』か。

そこでおれは、手にしている商品の価格を確認した。オーケー、大丈夫、千円はギリギリ超えてる。

桃はどうかなと思い、目を向けてみる。桃は――あの顔なら問題無さそうだな。

「なあ桃、絵柄誰当てたい?」

「やっぱり、わたしは明日香ちゃんかな~」

「おれは梓ちゃんだな。それか灯ちゃん」

 灯ちゃんは飛鳥君のことが(おそらく)好きな幼馴染キャラである。そして胸が大きい。

「それはもしかして、やっぱり巨乳キャラだ~! っていうツッコミ待ちなの~?」

「べつにそんなの求めてない。それよりも、あいつだけは当たらないで欲しいよな」

 言いながら、おれは『あいつ』を指差した。

「あ~腐りかけた死体のフラン君?」

「そうそう、何であいつが特典に入ってるのか分からん。敵キャラにするにしてもかっこいい幹部キャラとか、飛鳥君の通う学校の美人女教師とか、他にも色々良さそうなのいるのに何でよりによってフラン君なんだよ。あんなの一話目で早々に退場した雑魚だろ」

「でもネット掲示板とか見ると、結構好きな人いるみたいだよ~。キモ可愛いんだってさ~」

「えっマジで?」

 おれとしては、ただただキモいだけなんだが……物好きな人もいるもんだな。

 ちなみに残り一種類は、主人公である飛鳥君だった。

 会話をしているうちにレジは滞りなく進み、おれたちに順番が回ってきたので、すぐにお会計を済ませる。

ブロマイドは袋詰めしてあるので、開封しないと中身が分からない。すぐに確認したかったのでフロアの隅に移動した。

おれたちは同時に開け口に指を掛ける。何が出るかな? 緊張の一瞬だ。

「「せーの!」」

おれたちは期待に胸を膨らませ、勢い良く封を切る。

梓ちゃんか灯ちゃんよ、来い!

「……マ、マジかよ」

「わ~、わたしのは当たりでもなく外れでもないって感じだよ~」

「くそおおお、フラン君なんて要らねえって言ってんだろおおお!」

 フラグ回収早すぎー!

「わたしはね~、この子だったよ~」

 そう言って、ニヤニヤしながらブロマイドを見せてくる桃。

「はっ? 梓ちゃん……だと?」

 どこが当たりでも外れでもないんだよ! 大当たりじゃないか!

「なあ桃、トレードしないか?」

「明日香ちゃんならいいよ~」

 明日香ちゃんが当たるか、お目当てのキャラが当たるまで、グッズを買い込めと? おれにそこまでできる経済力はないよ?

「ほ、ほら、ここにフラン君があるからこいつと交換を――」

「明日香ちゃんならいいよ~」

「ほら、ここにフラン君があるから――」

「明日香ちゃんならいいよ~」

「……ここにフラ――」

「明日香ちゃんならいいよ~」

「……」

「……」

 そんなゴミとは絶対に交換しないという、強固な意志をひしひしと感じる。

「なんだよ~、さっきネット掲示板の話してたから、桃もフラン君愛好家だと思ったのに違うのかよ~」

「もちろん違うよ~。さっきのは、ネットサーフィンしてたらたまたま見かけたってだけの話だもん~。だからわたし自身は、べつに好きなわけじゃないよ~」

 ぐぬぬぬ~、悔しいがしょうがないか……。桃がフラン君好きならともかく、こんな鮫トレード、おれと桃が逆の立場だったら同じ反応するだろうしな。

「わかった、諦めるよ。じゃあもうさっさと次行こうぜ」

「うん、そうだね~」

 それからおれたちは階段を使い、フロアを一階ずつ見て回りながら店を出た。

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おれは高校生活を楽しみたい! 卯月ひろなり @eguchi

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