(17) 錯綜する騎乗馬、アルフォンソの場合

 

 

 年を追うごとに国際色が薄れていくジャパンカップも、今年は参加国の面から見れば華やかになった。イギリス、フランス、アメリカ、オーストラリア、香港。あの、外国馬が上位を占めて日本勢が歯噛みしていた頃のようなメンバー構成だ。ちなみに第1回ではインドの馬も参戦している。

 

 東京競馬場の1年を締めくくる重賞レース。このレースが終わって関東の開催が中山に移ると、真冬の到来となる。

 

 今年の1番人気はモンダッタ。外国馬が1番人気になるのは15年振りだ。それほど、近年の外国馬の成績は冴えない。

 

 モンダッタが人気になったのは、その実績からきている。だがそれと同時に、アルフォンソが乗るということも大きな要因だった。この世界で指折りのジョッキーは、毎年短期免許で来日し、荒稼ぎをして帰っていく。今年も秋の東京開催から乗り、ここまでの2ヶ月で勝率2割5分、3着内率は6割1分。これくらい馬券に絡むと、ファンからすると10割きているような印象を与える。

 

 もちろんいい馬が集まるから打ち出せる成績だが、日本の競馬関係者にその実力を認められているからこそ、いい馬をまわされるのだ。ただスターだからといって乗せるほど、馬主や調教師は甘くない。大金がかかっているのだ。

 

 何度かの来日で日本の競馬を知り尽くしているアルフォンソは、最初、モンダッタの騎乗依頼を受けるか迷った。日本馬のレベルを熟知しているからだ。

 

 欧州上位は、もはや過去の話だ。トップから下位まで総合的に見れば、欧州とまったく遜色ない。欧州で現役最強馬と見られている馬でも、こと日本への参戦であれば、勝てる見込みは薄いと見ていた。実際にそういった鳴り物入りの馬たちがジャパンカップで凡走しているのだ。

 

 世界のホースマンたちの目からは、日本馬とは比べ物にならないくらいモンダッタの評価は高い。しかしモンダッタが日本の馬場に合うかは合わないかというのは、また別の話だ。運よく馬場に合った時点で、はじめて「地の利」を持つ日本馬と互角に戦える。

 

 その日本の競馬を熟知しているアルフォンソなので、よっぽどモンダッタを断って日本馬の中から騎乗馬を選択しようと思った。トレミーなど、欧州GⅠに参戦すれば歯が立たないだろうが、東京コースなら上位にランク付けできる。

 

 モンダッタを管理するフレイ調教師と親しいアルフォンソは、最初、ジャパンカップ参戦を耳にしたとき、何故なんだろうと不思議に思った。パッと軽く即断するような男ではなかったからだ。しかしモンダッタの馬主の一人が日本の競馬界と強いつながりがあり、モンダッタが日本の馬場に合うとアドバイスされて参戦に踏みきったと知った。アルフォンソは、フレイ師にアドバイスをした者を、何人か頭に浮かべた。

 

 そして、フレイから直にアルフォンソに連絡が入った。

 

「お前のことだからお手馬は何頭か確保してるだろうがな、でもなアル、モンダッタは間違いなくジャポンの馬場に合うぞ。それにお前の経験が合わされば、おそらく勝てる。おれがジョッキーで参戦した頃は賞金も1億弱だったが、今は3億だからな。狙おうじゃないか」

 

 アルフォンソは悩んだ。発言の重いフレイ師が言うのであれば、モンダッタに馬場適性があることはある程度信じていい。もしモンダッタが7割の力を出せるのであれば、勝ち負けになる。

 

「今回モンダッタを選択しておけば、来年のキングジョージ、バーデン、凱旋門での乗り馬にもなるかもしれない。これを選ぶ方が断然オトクだ」

 

 かくしてアルフォンソは日本のGⅠ馬を数頭、ソデにした。

 

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