第3話 コップの下の湊


 コップの下のみなと



「乾杯!!!」



 湊の夏祭り。人が集まり出店も賑やかだ。財布はさびしくなっていくが、腹も心もみたされていくような気がする。気分のなみのはげしさに自分で呆れる。うかんだりしずんだり、プカプカしたりズブズブしている。もちろんさけを飲んでいる。飲みながら歩いても怒られない。なぜなら周りにも酔っ払いがいるからだ。

 懐かしい仲間にも時々すれ違いながら、いつものメンツと飲んでいる。ふとみんなの顔の中にこの前居酒屋で飲んだやつがいないことに気づく。



「お、お前来たんだな」


「おー!お前も。そういえば今日〇〇は来ないのか?」


「ああ?あいつはもう地元を離れて都会に行っちまっただろ。聞いてなかったのか?」


「そうなのか…いや僕が酔って覚えてないだけだろう」


「お前ってそういうところあるよな」


「冷たい?」


「酷い」


「はは、悪い」



 そうか、またか。なんで僕はきえてしまってから後悔ばかりするんだろう。航かいしてはたどり着く港がない。他の船の邪魔になってしまう。重要なことは相手と話すこと。コミュニケーション。あんなに乾杯していた相手なのに。コップを合わせていたのに。どうして僕はさけばかり飲んでいたんだ。泡告も漣絡も湊談もうまくできずに。受けながして聞きながしてきた。泡のように告げて連なって絡めて奏でるように談笑し言葉を使って話したい。


コップの下にはみずたまりができていた。



「酷い顔、なくなよ酔っ払い」


「うん、悪い」

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