第12話 親友よ

ミルクは厳しい表情で言う。

「目的だった巨大な天使は、ゲット出来た。この設計図を組み立てるのには、時間がかかるがな。ところで、大岩はどうしたい? こちらから動かなければ、ヘルはもう干渉してくることはないだろう。それでもヘルを倒したいか?」

「ああ!」

と、僕は言葉に力を入れる。冷静さを失っているだけだろうがな。

ミルクはこう切り出した。「巨大な天使とは乗り物さ。長さが二十メートルぐらいで、天使を描いたものだ。それに乗れば、ヘルのところにも行けるし、弱点である頭を撃ち抜くことも出来るかも知れない」

「わかった。何時まで待てばいい?」

「大岩、今キツキツ町は大変なことになっている」

「何? キツキツが危ないじゃないか。これ以上大切な人を失ってたまるかよ!」

と、僕は言う。ミルクはホッとした表情で続ける。

「完全な復讐者に、大岩がならなくて良かったよ」

僕はとりあえず、今の情況をミルクに尋ねる。

「キツキツはどうしている?」

「そこまでは、さすがに解らない。だが、予測は出来る。社長は、ゲーム世界つまりはキツキツ達のいる場所を捨てるだろう、新たなるビジネスを求めて。売る者を失った空人、海人そして炎人は大混乱だよ。いい仕事が出来そうだ。そして、クライが安息を求めて、キツキツ町を狙うという予想だ」

僕は更にミルクに尋ねる。

「何をしている、ミルク? 巨大な天使を完成させると、力が入っていたようだが」

「知らないのか、大岩。これはテレビゲームというもので、私は一日十八時間プレイしないと、禁断症状が出てしまうのだ」

「後半はとくに、知りたくもなかったよ」

と、僕は文句を言う。

ミルクは僕に話しかける。

「行かないのか、大岩? 傷の手当てが先か?」

「ミルクの科学ではなく、魔法の力が借りたい」

「金は貰うよ」

と言うところを見ると、ミルクはゲーム資金が尽きかけているらしい、それでも僕は言う。

「ありがとう、ミルク。向かっているうちに、ウシダさんの薬なら効いてくれるだろう」

コピーされた大地は、再びカエル暦五百十二年へととぶ。五百十三年になっていた気もするが。まあいい。データソードは姉さんの魂だ。無駄にはしない。サッツは力と法と金で地上を手にするだろう。クライは前に戦った時、相当強く感じた。厄介だな。

完全なる自然破壊が、ゲーム世界では行われていた。やったのはサッツだ。まともな土地は、ほぼないと言っていいだろう。それで。まだ無事だと思われるキツキツ町が、狙われているということか。データソードを導くのは、今からは僕だ、姉さんの死を受け入れるためにも。リサ姉さんは確かに存在したという証のためにも。

親友キツキツよ。僕はお前の味方だよ。初めての親友だよ、例えデータでしかなくとも。汚染された大地を、僕は突破して行く。そして、クライと戦うことになる。ヤツは強い。

姉さんを失った今、僕はキツキツとクルミが心の拠りどころなんだよ。僕のこの怒りは、クライにぶつけてやる。そろそろキツキツ町が見えてくる頃だ。さあて、どうしたものか……。反乱軍のメンバー達が、コピーを防いでいる。しかし、やられるのは時間の問題だろう。だが、諦めたりはしないぞ。

クルミは僕に厳しく言う。

「遅いわね! クライとキツキツが戦っている」

キツキツは僕達に気づく。

「リサさんのことは噂で聞いた。行けるか、大岩?」

「親友よ、キサマを失う訳にはいかない」

と、僕は返事を返す。キツキツの顔が本気になったぞ。いけー、虹のビーム! この町だけ守ってどうなるかは知らないけれど、精一杯やるよ。

よく見ると、キツキツとクライは互角に戦っている。キツキツがやや押されているのか。キツキツの心に炎が宿る。僕とキツキツはバトンタッチ。キツキツは、コピーを防ぐための司令官となる。反乱軍のメンバー達の動きが良くなったぞ。さすがキツキツだ。信頼関係が上手くいっているようだな。

クライは怒りに燃え、僕達に言葉をぶつけてくる。

「サッツのヤロウ、今度会ったらただでは済まさねえ。新たな世界が、そんなに魅力的かよ!」

「キサマが弱いだけだ」

と僕。剣と剣が激しくぶつかる。キツキツのお陰で、今のクライは動きが鈍っている。いけるぞ! キツキツも気になるが、今はクライに集中だ。

僕は異変に気づく。何かおかしい。何だ? そうか! キツキツはまだ僕に任せきってくれてはいない。これはキツキツの視線だ。僕はキツキツに文句を言いたいところだが、クライが強く、そっちまで手が回らない。

クライは余裕の態度で言う。

「データソードと進化は止まった。そんなもの、恐くねえよ」

「僕が最高の剣にして見せるさ」

と、僕は冷静さをできるだけ保とうとする。それにしても、キツキツ町にも死んだ大地のコピーが迫っていく。ここは守らないといけない。姉さんは守れなかったよ。

キツキツは虹のビームのスキを狙っているぞ。僕が信用出来ないのかよ、キツキツ。それとも過保護か、と言っても僕はクライに押されている。応えてくれよ、データソード、

戦いは続くが、コピーのスピードが速い。どうする? それを気にしたら、こちらにスキが出来る。しかし、気にするなと言う方が無理だよ。クライはとどめを狙っているぞ。クライはミルク以上の強さかもな。

クライは僕に語る。

「キサマには、従うしかない弱い心が解るだろう。俺は中途半端な存在だ。何のために生きているのかも解らねえ。ユメも捨てた。残るものは、ただ必死に生き延びることだ。その先に未来などなくとも、大岩も戦う存在だ。知っている」

「冷静な読みだよ。嫌になるぐらいにな」

都僕は素直に答えた。

売る者のメンバーの中でも、上位に入れるほどではなかったんだ、僕はね。リサ姉さんは常にトップクラスだった。才能が違いすぎたんだ。そして、その才能を僕とために捨てた。それを姉さんの最後にしてたまるかよ。姉さんが報われないままでは、終わらねえ。

反乱軍の戦力は弱っている。キツキツは叫ぶ。

「大岩、場所にこだわるな! 俺達が生きていれば、キツキツ町は何処にだって作れるんだ」

「思い出の地なのだろう?」

「ああ」

と、僕とキツキツは少し食い違う。データソードが進化しないのなら、僕が強くならないといけないんだよ。いい加減くたばれ、クライ!

ニセ売る者の最後の抵抗。そのトップに立つのはクライだ。ヤツもまた守りたいものがあるのかも知れないな。

「大岩、キツキツ。諦めないでよ。私は知識の果てに辿り着く。大地も海も記憶も、大切なもの全て守るわよ」

と、クルミは破壊本能を強く出す。クルミは、作られたミルクのばあさんのコピーの一人だ。知識の果てにクルミが行くことにより、自らを初めて認められるのだろう。

クルミは人形じゃねえ! 彼女もまた僕の親友だ。僕とクルミは、力を合わせて知識の果てに行きたいんだ、自らを認めるために。

姉さんの幻影はまだ続くから。託されたデータソードは、リサ姉さんと共に時間が止まってしまったんだ。

僕はもうクライの剣を受け止めることしか出来ない。反撃に転じられないよ。クライもニセ売る者のトップとして、絶対に引けないのだろう。それは、僕達の町を奪ってもいいという理由にはならないけれど。クライを倒す、ヘルも倒す、その後に残るものとは何だ? 姉さんなら、僕に何を期待するだろう?

キツキツとクルミが叫ぶ。

「大岩ー!」

遂に僕は追い詰められた。クライの剣が僕を貫く。だが、まだ僕は生きている。ヘルに止めを刺す前に、くたばってたまるかよ。僕の体は無情にも動かない。死んだか? いや、まだやれる。

その時、キツキツ町に火が放たれる。クライのスケジュール管理をしているのではなかったのかよ、サッツ軍の上官『ナツ』。三十歳ぐらいの女性だ。それは前回見たときの印象だが。そんなことより、キツキツ町が燃えているんだ。

住民達が苦しんでいる。ナツはクライに告げる。

「クライの最後のスケジュールが、用意されているのよ。次の任務はクライにはないということよ」

クライは崩れ落ちる。ここで止めを刺そうと思えば簡単だ。

しかし、今はそれどころではない。キツキツとクルミは、必死で住民達と反乱軍のメンバーを避難させようとする。しかし、住民達はキツキツ町から動こうとしない。住民の一人が言う。

「キツキツさんの愛した場所を、離れられる訳がないだろう!」

「そうだ」

「そうだ」

と、輪は広がっていく。それに対して、僕は無力だ。

キツキツがクライと同じように崩れ落ちる。

「俺はリサさんも、大岩の心も、自分さえも守れないのかよ」

その時、クルミが叫ぶ。

「データソードに何かあると、大地の記憶が語っている」

「何かとは何だよ」

と、僕は叫び返す。キツキツは町がこんな状態なのに僕を近づいてくる。そして僕に語る。

「リサさんの心を、まだ消えていない。データソードは俺にも力をくれるんだ」

僕はデータソードを見ながら言う。

「剣が光っている。これはカセットテープかよ」

テープから姉さんの声が聞こえる。

「データソードは、大岩が望む限り成長する。私が例え死のうともな。これは奇跡ではない。親友同士の心が一つになった時、それは必然となるのだ。大岩の心に従うように作られた剣こそデータソードだ。大岩が力を示せば、まだ成長するさ」

キツキツが泣き叫ぶ。

「リサさーん! 俺にも力をくれたのかよう。自らの死を想定して。ならばデータソードは、俺と大岩で成長させ続ける。親友よ、力をくれ」

「それはこちらのセリフだ、キツキツ」

と、僕。

「二人だけの世界に入っているわね」

と、クルミは苦笑い。

ナツが驚く。

「どうなっている? 炎が消える。死んだ大地が浄化されていく。これが奇跡ではないというのか」

カエル暦五百十三年。今、歴史が生まれ変わる。クライをトップとした組織が、キツキツ町を支援することとなった。キツキツと僕が信じた世界は、データソードを成長させた。姉さんの想いは今も死んでいないと、問うかのように。

ナツはサッツの元へと急ぐ。現実世界は、三つの種族の戦いが、終わりを告げることなく進んでいく。管理された世界へと変わっていく。サッツは、それは弱い心が生むと言っていた。本当にそうなのだろうか? サッツはサッツで、自分を貫いたのだと僕は思う。戦いの果てに、ゲーム世界は息を吹き返す。

クライは守りたい部下達のため、キツキツ町の復興に手を貸してくれるんだ。決着は着かなかったけど……。あとは、巨大な天使とやらでヘルを仕留めるだけだ。

僕はキツキツに向かって言う。

「親友よ、行ってくる」

キツキツも答える。

「俺が望めば、離れて鋳ても大岩とデータソードに力は宿る。それは、リサさんの最後の贈り物だ。俺は大岩を親友だと再認識出来たことが嬉しい」

最後にクルミは僕に言う。

「知識の果てで大岩を待っているから……」

僕はそれには答えず、ミルクのところへと急ぐ。戦いは、最終決戦の地へと移るのだ。ヘルよ、キサマも大切なものを守ったのだろう。しかし、その代償もでかいと知れ!

サッツの乱は終結した。クライさえもキツキツさんは仲間としましたね。最後に残るのは、わたくし星の化身ヘル。ねえ、大岩さん。もう少し考えましょう。わたしはまだ大岩さんのナビのつもりでいるの。



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