第5話 侵入者

ニセ売る者との戦いを、僕達は繰り返す。どうして僕は、そんなものに巻き込まれてんだっけ? ゲームで遊ぶという自由だったはず。クルミの情報では、副官の女性はミルクという名で、単独行動が多いらしい。

ミルクの目的、そしてサッツの思惑と関係ありと、クルミはみているようだ。クルミの単独行動も危険かも知れない。敵の全貌が少しずつ暴かれていく。

このゲーム世界は、面白くないな。現実と大して変わらないし……。カエル暦五百十二年かあ。売る者は何考えてんのか? 僕はリセットボタンをどうしたいのだろうな。まあいいさ。こんなことを考えていると、姉さんからの通信が入る。

「大岩、今こちらでは空人と海人の戦いが、落ち着いてきている。私達の主売る者にとっては、収入が激減だ。売る者のメンバー達は、その原因を調べているところだ」

「炎人はどうなった?」

「それなのだが、炎人達は空人と海人の戦いに積極的に参加している。私はそこに戦火の衰えの関係があると見ている」

「様子を見るしかないか」

「ああ」

ここで、僕は通信を切る。

キツキツは不思議そうに言う。

「現実世界とやらは、よくわからん。まあ、俺にとってはこっちが現実だがな」

ヘルは忙しそうに言った。

「何かおかしいです。あるはずのないことが、起きているのですよ。ゲートは閉じている。だから誰も侵入出来ないはずなのです、リサさんでさえも……」

「勘違いと決めつけるのは早いか」

「ええ」

と、僕とヘルは気を引き締める。

反乱軍のメンバーからここで情報が入る。クルミが、なんとミルクと遭遇したらしい。これは、嫌な予感しかない。しかも、クルミは冷静さを失っていたとのこと。キツキツは僕に呼びかける。

「行くぜ、相棒」

「おっしゃ」

と僕。そして、反乱軍のメンバー十人ぐらいに先行してもらう。

そして、その進む道にはニセ売る者のリーダー格がいて、僕達に言う。

「ここを通す訳にはいかないな。ミルク様にいただいたデータソードの力を見るがいい」

「データソードだと?」

僕とキツキツは驚く。データソードなんて、はったりだよなあ? しかし、現実世界の状況も少しおかしい。これは何かありそうだ。

キツキツは、虹のビームで一気にカタをつけるつもりのようだ。敵はそれを剣で受け止める。しかし、ビームはそれを貫通する。だが、敵は耐えきった。そして、敵の持つデータソードは、虹のビームへと形状を変化させた。

「そんなバカな!」

と僕。キツキツは怒鳴る。

「ボーッとするな、相棒」

そしてキツキツは、ビームをかいくぐる。キツキツに被弾はなかった。

キツキツはリーダー格に接近し、剣で仕留める。そして、キツキツは僕に言う。

「データソードは本物だな。しかし、このデータソードの技術は、大岩の使っているものよりかなり低い。虹のビームの速度は遅かった。今後、厄介になりそうだぜ。とにかく今は、クルミとミルクを追うぞ」

「うーむ。目的はそれだったな」

と僕。そこでキツキツは呟く。

「しっかりしてくれよ、相棒!」

「へいへい」

と、僕は適当に返事をしておいた。

しばらく進むと、クルミと一人の女性が戦っているのが見えてきた。もしかして、あの女性がミルクか? 多分そうだ。戦況は、一方的にクルミがやられている。ミルクは何故か手を抜いているように見える。それにしてもミルクの動きは速い。しかも、重装備だ。あの重そうな鎧を、使いこなせるほどの身体能力があるのか。これはヤバいぞ。

その時、キツキツが僕に話しかけてきた。

「大岩は気付いたか?」

「えっ、何のことだ? キツキツ」

「俺もあの重装備のせいで、すぐには解らなかった。よく見れば、ミルクとクルミは、見た目が双子みたいにそっくりだ」

「どういうことだ? 単なる偶然だろ」

これはどうなってやがる。とにかく、クルミに加勢した方が良さそうだ。

ミルクはニヤリとして、僕とキツキツに話しかけてくる。

「私の名は、知っている通りミルクだ。大戦士ミルク。勇者へとクラスチェンジするため、ここに来たのだ。『勇者の証』は、知識の果てにある!」

「何を言っているんだ? 頭がおかしいのか?」

「何を言う。勇者はゲーマーのユメだろうが!」

ミルクの頭がイカれているかは、ここでは置いておく。

知識の果てって、確かクルミも目指していたよな。僕とクルミが転生する前に、『何か』を置いたとかいう。勇者の証とかいうくだらないものではないよな? そうだとしたら、僕は悲しいぞ。

ヘルが驚いている。

「そんなはずはありません。起こりうるはずのないことです。ミルクさんは、ゲーム世界の住人ではないのですよ。カエル暦五百二十二年の炎人族の人間です。つまり、現実世界からやって来たのです。しかし、そのような方法は存在しないはずです」

どうなってやがる?

リサ姉さんも驚いている。キツキツは意味が解っていない表情だ。クルミはどうだ? それを確かめようとした時、ミルクは得意げに語る。

「私のじい様は伝説の魔法使いだからな。それぐらい余裕で出来るに決まっておる。魔法を使える戦士は、勇者の資格を持っているということだ。その目は疑っているな! よし、魔法を見せてやる。雷の剣よ、いかづちとなれ!」

凄まじいいかづちが、僕を襲う。データソードのバリア化を貫通しやがった。

しかし、少ないダメージで済んだぞ。僕は驚いて言う。

「ゲーム漫画に出てくるような魔法が、本当に使えるとでもいうのか!」

キツキツはこの展開に、ついてこれないようだ。ヘルが言う。

「これは魔法ではありません」

それに続いてクルミが言う。

「これは魔法ではなく、科学の力。ミルクのじい様とやらは、科学者よ。これは大地の記憶と海の記憶のエネルギーによるもの!」

「それはどうかな」

と、ミルクは余裕の態度をしている。

とにかく、僕も使って見ればわかるはず。データソードは更新された。いくぞ。僕はいかづちを放つ。

「あれっ? 何も起こらないぞ」

それを見て、ミルクは解説を始める。

「何故いかづちが出ないか、教えてやろう。きさまには魔力がないからだ!」

「そんなバカな!」

と、僕は驚きを隠せない。

クルミが解説をやり直す。

「大岩、騙されないで。データソードに技が登録されても、原料つまりエネルギーを集める技術が、あなたにはないためよ。しかし、ミルクとは何者なの?」

ミルクは言い放つ。

「クルミは私のじい様が作り出した存在だよ。つまり、じい様の記憶なのだよ」

クルミは叫ぶ。

「さっきから、訳の解らないことばっかり!」

ヘルも続ける。

「そうです、そうなんですよ」

クルミが、破壊本能を九十パーセント開放させた。いいのかよ。クルミよ、それほどのパーセンテージは、ただの謀り者だ! クルミは全力で剣を振り下ろす。そしてミルクは、冷静にそれに対処する。クルミの攻撃はことごとく空をきる。

その場の空気を読まず、キツキツはクルミに尋ねる。

「決着をつける気のない戦いなど、どうでもいいさ。サッツとキサマはどういう関係だ?」

「サッツ? ああ、社長のことか。ビジネスのことは、トップシークレットと聞いているぞ。ここで話したら、折角の計画がパーになる。勇者の称号が遠のいてしまう」

と、ミルクは適当に言う。

しかし、キツキツはしつこい。

「トップシークレット以外で、どういう関係だ?」

ミルクも疲れた表情で返す。

「キサマらが、社長以上の金を持っているとは思えないのだがな。こう見えても、私はそこそこ口が堅い。その手が通じる訳がないだろう」

「くっ」

と、キツキツはとりあえず、それ以上の追及を諦めた。

クルミは疲労で、ペースダウンする。もう、二人の決着はついているというのに……。更に言うなら、ミルクに殺意は全く感じられない。いつも冷静なクルミが、理性を失いかけている。どうしたものか。ミルクは僕達より明らかに強い。三対一でも厳しいだろう。ここは、ミルクを刺激しない方がいいだろう。

ミルクは意外にもヘルに興味を持ったようだ。

「妖精ヘルよ、この世界に本当にリセットボタンは必要だと思うか?」

「最強の兵器ですね。この世界の思い出達は美しい。私にはそう思える部分は少ないでしょう。それでも、それらが消えてしまうのは、少し悲しいです」

と、ヘルは表情を変えずに返答した。

ミルクはクルミを片手であしらう。クルミとミルクの戦いは、どのくらいの時間、続いているのだろう? クルミもそろそろ諦めた方がいいぞ。ミルクはゆっくりと言葉をつづる。

「クルミの相手も退屈だ。少し昔話でもしようか」

私はヘルです。私は、自らを守るために侵入を許しました。そう、ミルクさんですね。大岩さんとミルクさんは、いつか強い愛情に包まれる。知識の果ては、手を伸ばせばそこにある。でも、掴めない……。それはきっと、『心を守る』ためです。ところで、売る者には、ライバルの科学者がいたらしいですね。。リサさんも勉強しましょう。



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