第9話 奈奈さんの葛藤

 一緒に体験入部に来た男子二人は、この学校オリジナルルールのタッチゲームってやつに参加するみたいだ。


 私は見学。

 その間にマネージャーさんと、女子選手の先輩達に色々聞いてみようと思った。

 マネージャーさんはゲームの時間を計るとか仕事があるから、ずっと話は出来ないみたいだけど。

 マネージャーさんは二人、女子選手は三人。


 三年のマネージャー、矢作やはぎ先輩と、二年のマネージャー、小阪こさか先輩。それから三年の選手、田沼たぬま先輩、二年の選手、伊能いのう先輩と新田にった先輩。


 まず思ったのがマネージャーの二人と選手の三人の肌の色の違い。

 マネージャーさんはとても色白だけど、選手の三人は小麦色だ。

 でも、普段はマネージャーさんも選手も、みんな焼け止めを塗ってるんだって。


 選手の三人は汗をかくから、どうしても少しは日焼けはしちゃうんだろうなと思ったのだけど、どうも話を聞いたら、ヘッドキャップの日焼け跡が嫌で、ちょっと前に3人で日焼けマシンで焼いたらしい。


 ちょっと笑ってしまった。


 でも夏場はやっぱりみんなどうしても日焼けはしちゃうんだって。


 まぁ、私もテニスやってたからわかるなぁ。

 私は日焼けはあんまり気にしないけど、母親は日焼け止めを塗るようにって口うるさく言うなぁ。

 医療関係の人はホント、こう言うのうるさいの。


 ちなみに、この学校はテニス部は屋内練習場があるんだよね。

 その点はやっぱこの学校すごいわ。


 でも、ラグビー部の女子の先輩達はなんでラグビー始めたのか凄く気になる。

 だって凄く危険なスポーツってイメージあるし、女子だけでチーム作れないから男子に混じって練習してるって話だし。


 失礼な言い方だけど、そこまでしてやるスポーツなのかなって。


「ラグビーって女子向きのスポーツじゃないと思うんですけど、皆さんはどうしてラグビー始めたんですか?」

 どうしようか迷ったけど、聞いてみた。

 好奇心が勝っちゃった。


「私は元々陸上やってたんだけど、記録が伸びなくなって悩んでたときに、ラグビーをテレビでやってて、あ、こういう競技もいいなって。そんな時に地元のラグビースクールの体験会みたいのがあって、参加したらはまっちゃって」と田沼先輩。


「私は元々でぶっちょだったのだけど、太っていても活躍できるスポーツってことで、始めてみたの」と伊能先輩。

「でもね、始めてみたら想像以上に凄いハードで!!やるんじゃなかった、いつ辞めようって毎日思ってた位!」

「でも男子と同じメニューこなしてる内に、いつの間にかそんなに辛いと思わなくなって、気づいたらラグビーにハマってて。辞めるとか考えられなくなって、しかも気づいたらダイエットに成功してた(笑)」

 そう明るく話してくれた伊能先輩は、背も高いからかもしれないけど、3人の中で一番細くみえる。

「たしかにイノッチは最初肥えてたよね」

 と新田先輩。

「肥えてたとか言うな(笑)」

 凄く伊能先輩と、新田先輩は仲がいいなって、初対面でも伝わってくる。


「ちなみに私は元々柔道やってたの。柔道やってたけど、同じ階級に凄く強い子がいて、全然勝てなかったの。

 その子に勝つために凄く必死で練習したんだよね。で、練習の成果が出て、中学の最後の大会でやっとその子に勝ったんだ。

 そしたら気が抜けちゃって。なんか満足しちゃったんだよね。

 で、もういいかって思って他の事やろうかなってなった時に、田沼さんが男子に混じってラグビーやってるの見て、すげぇ!カッコいい!!って。そのままルールもわからないのに入っちゃった」

「そう言えば、今日あなたと一緒に体験入部に来たあの男の子、昔柔道やってなかった?なんか大会の会場で見たことある気がする」

 と新田先輩が川中島君を指差した。


「うーん、違う中学だったんでよくわからないです。でも、お兄さんがラグビー部にいるって言ってました」


「え?誰の弟だろ??」


「名前は川中島って言うんですけど」


「え、それマジ!?」

「え、弟いたの?」

「自慢の弟だって前聞いた気がする」

「弟もラグビーやってたの?」

「いや、柔道って言ってたじゃん」

「どの子?」

「よく見えない…」

「え?背が高い子?」

「背が高い子いっぱいいるよ~」

「今ボール落とした子?」

「え?パスしたほう?」

「よく見えない…」

「あの子さっきからボール落としまくって腕立て伏せ連発だ」

「腕立て伏せしてるのは川中島さんの弟?」

「川中島さんの弟はあの子にパス出してる方みたいよ」

「いいパスだすけど、逆に速すぎてあの子にはとれない感じ?」

「あ、また落とした」

「さっきからあの子、全然取れないね」

「あ、またノックオンだ」


 プレーを見ながらワイワイやっていた女子メンバーの話題は、川中島君と荒川君の話題になった。


 ノックオンっていうのはボールを前に落としてしまう反則みたい。

 荒川くんはボールを全くキャッチ出来ないで前に落としてばかりいるから、さっきから腕立て伏せばっかりだ。


「ラグビーボールは最初はあの形に馴染みがないから混乱するよね」

「私も最初落としまくったわ」

「イノッチは今も落とすじゃん」

「それは言っちゃダメ」

「キャッチのコツつかめば、あの子は背が高いしロックとかフランカーなんかいいかもね」

「体重は増やせるけど、背は素質だからね~」

「背が高いのは羨ましいな~」

「小阪ちゃんの背が低いのも素質よ~」

「そんな素質いらない~」

「背が高くなったら小阪ちゃんが大阪ちゃんになっちゃうじゃーん」

 ちんまりとしてどちらかと言うと可愛い系なマネージャーの小阪先輩を伊能先輩と新田先輩がからかい始めたが、さっきのロックやフランカーって単語の意味が気になってしまい、話を遮る形にはなったが素直に質問してみた。


「矢作先輩、ロックとフランカーってなんですか?」

 ちゃんと答えてくれそうな矢作先輩に質問をした。

 小阪先輩はそのタイミングで、矢作先輩の後ろに逃げるように回り込んだ。

 そして矢作先輩の後ろから恐る恐る伊能、新田両先輩を覗き見る。

 か、かわいい。

 まさに小動物。

 ここにも居た癒し系。


「簡単に言うとラグビーは15人のメンバーのうち、フォワード8人とバックスの7人にわかれるんだけど、ロックはフロント2列目、フランカーは3列目のポジションになるんだけど、この辺は背が高いとか、そういうのも有利になったりするの。ラインアウトってプレーは初めての見るとビックリすると思うけど、ゲーム中に人が組体操みたいに持ち上げらるのよ」


「え!く、組体操!?」

 想定外だ。

 ラグビー選手って屈強な男達がぶつかり合うイメージ…

 頭のなかには体育祭のノリで組体操をする屈強なラガーマン達が…

 それに15人て…総勢30名の組体操!?

「ラ、ラグビーって、そんなアクロバットなスポーツなんですか?…っていうより、ラグビーは15人もプレイヤーいるんですか?前オリンピック見たときもっと少なかった様な…?」

 私は驚きを隠せなかった。

 わたしの中で、多いなーって思うサッカーで11人なのに、更に4人も多いなんて。

 今までそんなにラグビーは興味なかったから、人数もよく知らなかった。

 でもなんとなくだけど、ラグビーはサッカーから派生したスポーツって前に聞いたことがあったから、サッカーと同じく11人でやるものかと思っていた。


 でも、私がテレビで見たのは確かに人数が少なかったはずだよなぁ。


「あなたが見たのはセブンスね。要は7人制ラグビー。今は7人制ラグビーって言うのも盛んにやってるの」


「あぁ、頭が混乱してきた…」


「まぁ、今日はこれくらいにしておいた方が良さそうね。また体験入部来てくれたら、興味あるなら説明もっと詳しくするわよ」

「あ、先輩、勧誘上手い」

「さりげなく勧誘、来年のためにチェックあーんどメモリーですわよ、イノッチ。」

「わかったわ、心に刻んだわ、新田姉さん」

「マネージャーさんだけに勧誘を任せない、わんふぉあおーるの精神よイノッチ」


「バカなこと言ってないでちゃんとしてなさい」

 3年のマネージャーさんの矢作さんにたしなめられてしまい少し恥ずかしがるふたり。


 ものすごく楽しそうな雰囲気だ。

 冷やかしで来た体験入部だったのに、気持ちが惹かれているのが自分でもよくわかった。

 硬式テニスと茶道の組み合わせで部活はほぼ決まりだったのに。

 ここに来てラグビーの存在が大きくなってきた。

 しかもマネージャーと選手、選択肢が2つ。


 ああ、どうする!私!?



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