24話

祭を一通り見て回り、アレクシスとエレーンは約束通りにビアンカ率いるサーカス団のメイン会場、一際大きな天幕の席に着いていた。


アレクシスは今までに王都での公演を二度程観覧した事はあったが、周りを警備の大人に囲まれて窮屈な思いをしながら、ぼんやり眺めていたものだった。

兄とは歳が離れているから、サーカスをと共に見ることなど無かったし、唯一の救いは隣にロバートが居た事だろうか。



今日は本当に現実なのか?


昔を思い起こして、今居る現状に少し不安になる。まだ短い間とは言え、気心知れた者と一日自由に、しかも誰にも気兼ねせず祭を楽しむ日が来るなんて。


道化師の動きに笑い、虎の火の輪潜りにハラハラしたりと、共感しあえる者と一緒に居るだけでこんなにも楽しさが倍増するとは。何も知らない幼い頃の自分に教えてやりたくなる。


隣で一緒に観覧しているエレーンも、驚いたり笑ったりと表情がくるくると変わって、楽しんでいるのがよく分かる。アレクシスは横目でこっそり様子を伺って、そっと微笑むのだった。


メインの空中ブランコも成功に終わり、夕方の公演は拍手喝采で幕を閉じた。


二人は借りていたカツラを返そうとビアンカを訪ねたが、何かの役に立つだろうからとプレゼントされ、エレーンはまた大きな体にすっぽりと包み込まれて、来年も会える様にと挨拶を交わした。


アレクシスも最初逃げたが、結局エレーン同様に抱きしめられて、少し恥ずかしく照れ臭い気持ちでその場を後にしたのだった。


もう閉門する時間に差し掛かり、城前の広場に向かう。アレクシスはまたも手をエレーンに向ける。そこには、最初の気恥ずかしさは無かった。


「自由な時間も後少しなんだ。ここまで来たら、最後まで楽しまないと。」


そう言うと、エレーンは頷いて手を取ってくれた。



二人は坂道をゆっくりと歩く。

夜に向けて影が二人の斜め前へどんどん長くなる。その影の後を追うかの様に一歩一歩進んで行く。


「今日は楽しめました?」


暫く無言で歩いていたが、後少しで広場が見えて来る頃、エレーンが不意に尋ねて来た。


「それは、もう。…充分過ぎるくらいに。今迄俺はこんな楽しい事も知らずに生きて来たんだな。」


歩きながら、アレクシスは一人で納得する様に、吐いた言葉を噛み締めていた。これは、良い思い出になりそうだ。


「良かった。私も何だか何時もより楽しかった気がするの。毎年春祭は見物に来ているのに。きっとアレクシスが人一倍楽しんでいたから、移ったのかも。」


エレーンの言葉を聞いて、思わず立ち止まる。


「俺ばかりじゃなくて、エレーンも楽しかったなら凄く嬉しい。」


自身が笑顔を向けたからか、エレーンの穏やかな表情を向けられて、アレクシスの胸が高鳴った。祭の高揚感がまだ抜けていないのだろうか。

心なしか、エレーンの頬が薄く赤くなっている気がする。


「こ、此方に来てから毎日が目まぐるしくて、アレクシスにイスベルを気に入って貰えるか正直不安だったの。でも、今日喜んで貰えて、私自身こんなにも嬉しくなるなんて思ってもみなかった。一緒にイスベルへ来てくれてありがとうございます、アレクシス。」



エレーンのはにかんだ笑顔が、夕陽に照らされて更に輝きを増した様な錯覚を覚える。


眩しいくらいの微笑みは、思春期の少年の心を鷲掴みにするには充分だった。アレクシスは何も言わず頷くのが精一杯で、暫く二人は見つめ合っていた。


一陣の風が、二人の間を吹き抜ける。



「……これは不味いかもな。」


アレクシスは胸の高鳴りの正体に気付かない振りをして、ぽつりと独り言ちた。これを、この形の無い感情を肯定してしまったら、一気に大きく膨らんでしまいそうで何だか怖いのだ。


「何か言いました?」


強い風に、エレーンには小さく呟いた言葉は聞き取れなかった様だ。アレクシスは直ぐに首を振り、エレーンを見つめる。


「此方こそ、エレーンには感謝している。……その、変装しているのに変な話しだけど、今日のドレス良く似合っている。朝に言えば良かった。エレーンの肌に映えて素敵だと思う。」


突然の褒め言葉に、エレーンは途端に顔が赤くなって、見るからに動揺しはじめた。


「あ、ありがとうございます。」


そう言って貰えたのに、なんとなく気不味い。さっきから起こっている胸の動悸が治まりそうも無い上にその脈の音が耳の中で煩くて、顔をまともに見ることが出来なくなる。目まぐるしい感情に、アレクシスは戸惑いばかりが溢れて、どうしたら良いかも分からない。




只黙ったまま向かい合う二人の横に、ルーカスがひっそりと立っていた。



「!!うわっ。」


気付いてアレクシスは仰け反った。エレーンも驚き、後ずさる。


「い、何時から其所に?!」


慌てるアレクシスを横目に、ルーカスは不貞腐れた顔をした。


「えー?王子がエレーンちゃんのドレスが似合うとか褒めてた時から?」


「声を掛けろ声を!!」


「だって邪魔しちゃ悪いしー?良い雰囲気だったしー?」


そっぽを向いた顔を良く見てみると、ルーカスの左頬が少し……いや、かなり腫れている。


「どうしたその顔?!」


「……体術大会でレオナルドどのにこってりヤられたんですー。ガードの上から強烈な一撃喰らっちゃって。もう折角の自由時間が最悪だっての。」


「ごっごめんなさい!早く城で手当てしないと!」


エレーンはレオナルドと聞いて、思わず頭を下げた。慌てて向かおうとすると、ルーカスの後ろからレオナルドが歩いて来るのが見えた。


「?おーい、騎士どの誰と話してる……?!もしかしてお嬢??えっ王子?!」


追い付いたレオナルドは、アレクシスとエレーンの変貌振りに驚きを隠せない。レオナルドの方も細かな裂傷だらけだったが、ルーカスの顔の腫れが派手な為に、軽傷に見えた。


「騎士どの顔腫れて来たなー。早く冷やさないと夜辛くなるぞ。」


ルーカスは頬を擦りながら、レオナルドを睨む。


「張本人が良くも……。少しは加減して下さいよ、顔は商売道具なんだからさー。」


「……お前は役者か何かか?」


呆れながら、頬を擦るルーカスにアレクシスは堪らず突っ込んだ。それにしても何とも痛々しい姿ではある。ルーカスのじっとり恨みがましい視線を受けて、レオナルドはぽりぽり頭を掻く。


「すんませんね、何か外野の黄色い声が煩くてイラっと来たもんで。まあ、男共の声を代弁したらそうなった感じ?」


レオナルドはルーカスの肩を城方向へと誘導して、歩き出す。


「それは半分冗談で、中々しぶとかったので、強攻手段を取らせて貰いました。さすがに王子付き騎士ってのは伊達じゃないわな。久しぶりにやり甲斐が有ったってもんだ。」


半分冗談。もう半分は……。ん?それにしても、何故ルーカスは声も掛けずに変装を見抜いたのだろう。後ろに続いたアレクシスは一人首を傾げたのだった。




その隣で、エレーンはほっと胸を撫で下ろしていた。


あのまま二人きりだったら、心臓が破裂していたに違いなかった。本当に、この方は突然大人びた発言をするから、いつもびっくりさせられる。と、横のアレクシスをこっそり盗み見る。これじゃあ、仕事で常に一緒に居るのは心臓が持たないのではないだろうか。…何であんなになったのかは、いまいち掴めてはいなかったが。きっと、今日が楽しすぎて、そう、その余韻がそうさせたに違いない。などと、見当違いな認識を強めていた。


その後、広場で待っていたロバートが、ルーカスに気付いてから次いでアレクシスの変装に気付き、腹が痛くなる程大爆笑したのが楽しい春祭の締めくくりとなった。









時が流れるのはあっという間で、明日はいよいよエレーンの送別会だ。


その前に、アレクシスにはやるべき事が在る。気は進まないが、避けて通る訳には行かない案件だった。


一人サイラスの執務室に赴き、扉をノックする。

中から返事が返ってきたので、徐に扉を開いた。大きな机の奥に、サイラスが書類を睨みながら座っている。アレクシスをちらりと見て、書類をまとめ始めた。


「わざわざ来て頂かなくても、此方から参りますのに。供も付けずにどの様な用件でしょう。」


「いや、話しがあるのは俺の方なんだ。自分から出向くのが筋と言うもの。仕事の最中に押し掛けてしまったが、問題無いだろうか?」


サイラスは黙って頷いた。


二人は中央のテーブルセットに対面して座る。サイラスが酒のグラスを用意しようとしたが、アレクシスは手を挙げそれを制した。


「まず話しを聞いてからにして欲しい。……此度のエレーンどのの王城入城の件、了承して頂いて感謝します。そして、賊の件も巻き込む形になってしまい申し訳無かった。」


座ったままだったが、膝に手を付け頭を下げる。


「その話しですか。……国の長に次ぐ立場の者が、そう易々と頭を下げるものでは無いと習いませんでしたか。」


冷ややかな声色が、アレクシスの頭上に降り注ぐ。意を決して顔を上げて、サイラスをしっかりと見据えた。


「……へりくだるのと、礼を尽くすのは違うと認識しています。俺が招いてしまったかも知れない面倒事にも関わらず、全力で守り、済んだ以降に責めもしない。公の寛大な対処に、感謝の言葉しか無い。」


サイラスは暫く思椎していたが、グラスを用意し始めた。


「サイラスどの?」


話しはまだ途中にも関わらず、酒を注ぐ。その行動にアレクシスは少し眉を潜めた。が、サイラスはそのまま自身のグラスにも注ぎ出す。


「……どれもこれも、私が決断した事。お礼は結構ですが、謝罪は全く要らんのですよ。まあ、あれだけ派手に怒鳴り散らしたんだ。今更儀礼的な態度はお互い無しにしましょう。」


そう言われ、ふと賊退治の晩を思い出して、静かに唾を飲み込んだ。あの正座は結構堪えたのだ。


「……一つだけ、酔う前に聞きたい。何故、エレーンどのの入城を了承して頂いたのだろうか。エレーンどのの熱意が伝わったのだとは思うが、まだ此方から打診もしていなかった手前、正直発表された時は戸惑った。」


アレクシスの持つグラスに自身のグラスを軽く当て、サイラスは酒を一口呑む。


「……娘は、あの通り真っ直ぐで、礼節を重んじる性格なのだが、……まあ、そう私が教えて来た訳だが。」


本当面倒臭いなこの人。アレクシスは反射的に出て来そうな突っ込みを心の中で留めた。が、サイラスは直ぐに怪訝な顔をした。


「……殿下は何か言いたい事でも?」


「……いや。 」


顔に出さなかった筈なのに、なんて鋭さだ。

澄ましてみせるアレクシスを訝しげに見つめていたが、サイラスは直ぐに姿勢を戻した。


「まあいい。……あの日貴方の部屋へと訪ねた時に、自ら扉を開き、食事の誘いを申し出たでしょう。」


アレクシスは思い出して、ゆっくりと頷く。

たった数日前の出来事なのに、随分と昔の話しの様だ。とにかく此方へ来てから休む間も無かったから、仕方ないのかも知れない。


「あれは有り得ない光景なのです。普段ならば順を追って挨拶の機会まで待つ筈なのに、それをすっ飛ばして部屋へと訪ねるなど。ましてや相手はこの国の王族だと言うのに。……たった数日で、あの子の気持ちが貴殿方に開いていた事実に内心仰天し、その反対に直ぐに納得したのです。エレーンが伸びやかに振る舞う場所を、貴殿方なら例え殺伐とした王城の中だとしても作ってくれるのだろうと。」


サイラスは部屋を覗いていたのは必要無いので黙っておいた。孫と遊ぶ姿にも、少しながら人柄が垣間見れたのだが、なんだか余計な誉め言葉は言いたく無い。親心は複雑なのである。憮然としたまま思い切り酒を煽り、飲み干す。勢い良くテーブルにグラスを戻すと、たんっ!と軽い音が響いた。


「……本来なら、私の許可無く娘を連れて行こうとするなど、誰で在ろうとくびり殺すつもりだったのだがな。私も歳を取ったものだ。」


アレクシスは微笑の表情を崩さず、内心戦々恐々していた。本人目前に言う事か?

分かっていたが、公爵は国相手でも臆さないらしい。もし仮に戦になろうとも、生き生きと進軍するだろう光景がありありとアレクシスの頭の中を過る。数少ない国から認められた自治領の長は、歳のわりにイケイケな様だ。


動揺を隠す様にちびりと酒を舐める様に呑む。


「!旨い。」


二日酔いは懲り懲りだし、正直酒の味も分かっていなかったが、あまりの薫りの良さに驚いた。


「ほう、この味が分かるとは。まあ、どうせ明日も祭で予定が無い様なものだ。気にせず呑みなさい。」


どんとボトルを中央に置き、サイラスは不敵な笑みを浮かべた。







イザベラはいつまで経っても私室へ戻らない夫を迎えに、執務室へと足を運んだ。ノックをしてそのまま勢い良く入る。瞬間飛び込んで来た、信じられない光景に目を疑った。


「……娘に目を付けたのは評価するが、手を出したらどうなるか分かってるだろうな?」


「……はあ?そんなの本人の意思を無視して縛るものじゃ無いだろう。そろそろ子離れした方が良いんじゃないのか。」


目が据わった夫と、顔の真っ赤な殿下が顔を突きつけて睨み合っている。


話しの内容は聞いていたいが、これ以上呑ませるのは憚れる。が、面白いものが大好きなイザベラはワクワクが止まらない。


「まあ、娘が貴様の様な軟弱者に惚れるとは思えんがな!娘は強い男が好みなのだから。」


サイラスは言ってグラスを煽る。途端に、アレクシスの顔が苦悶の表情になる。かなり気分を害した様だ。


「……はあぁ~?そんな事誰にも分かんないだろ。どうせ、強い男が現れても嫁に貰うとなったら渋る癖に。そうやって何処も断ってたら、エレーンの行き場が無くなるぞ。」


そして、ちびりちびりと酒を呑む。どうやら自然と呑み方を学習し、会得した様だ。それでも相当酔ってはいるが。


二人のやり取りに、イザベラは笑いを噛み殺す。一体全体、何故そんな話しになったのか。三日前、自分の質問にしどろもどろに否定していたあの彼が、これでは別人だ。何か思う所があったのだろうか。


「……随分と自信が有るようだな、え?第二王子殿下どの?」


……我が伴侶は一体全体何処のチンピラかと思う程、対面している少年に睨みを効かす。


「自信とかそんな話しじゃ……?ちょっと待った、何でこんな話しになってる?」


アレクシスが少し正気を取り戻したのに対して、イザベラは内心舌打ちをしたが、そろそろ潮時の様だ。


「はいはい、二人共飲み過ぎよー?もうお開きにしましょうか。さ、あなた。」


「……私は良いから、ロバートどの……か、ルーカスどのを呼んでくれ……。」


イザベラが来たから気が揺るんだのか、サイラスはテーブルに突っ伏す。


「ちょっと!全くもう!殿下、ごめんなさいね?今人を呼びますから。」


イザベラは直ぐに廊下へと駆け出す。


アレクシスも頭の中がぐるぐると回って、限界を迎えていた。頭を背凭れに乗せ、瞼を閉じる。このまま寝てしまえれば、物凄く気持ちが良いのに。


暫くして、パタパタと人の気配が近付いて来る。

肩を揺らされ、ゆっくりと目を開けた。


「?!」


目の前で、エレーンが心配そうに顔を覗き込んでいる。


「アレクシス大丈夫?起きれそう?」


驚きのせいか、途端にあれだけの酔いがうっすら何処かへと飛んで行った。アレクシスはそのまま曖昧に返事を返した。


「エレーンの部屋が近いからお願いしたの。二人で行けるかしら?」


暇しようと徐に立ち上がる。しかし、立った瞬間、何処かへと飛んで行った筈の酔いが舞い戻って来る。まるで気分は今日見た空中ブランコを体感しているかの様に、アレクシスの視界が回る。


「歩けなさそう?」


エレーンに脇へとするりと滑り込まれ、そのまま肩を担がれる。アレクシスはドキリとして、余計酔いが回る気がした。けれど、エレーンは何て事無い雰囲気で、父や兄達を散々介抱しているのだろう、手慣れたものだった。


「……大丈夫だ。」


返事を絞り出して、エレーンに担がれ千鳥足ながら前へと進む。


「では母様、父様を宜しくお願いします。」


イザベラは小さく手を振って若い二人を見送っていた。


「……天下の王子様相手に、名前呼びな上にため口ねぇ。」


面白そうな予感に溢れる笑いを抑えつつ、イザベラはニマニマしながら、夫を揺り起こしたのだった。







春祭は夜中まで盛り上がりを見せるので、非番の兵達は出払い、城の中は比較的がらんとしていた。


サイラスの執務室は一階の奥だが、客間は三階の為に階段を上がらなければならない。踊り場のバルコニーを見て、アレクシスは風に当たりたいと、方向を変えた。


風は未だ冷たく、真っ赤に火照った体にはこの涼しさが有り難い。頬に風を感じて、思わず溜息が漏れた。

エレーンには少し肌寒かったらしく、二の腕辺りを擦るのを受けて、アレクシスは回る頭の機能を総動員して、エレーンの肩に自身の上着を掛けた。


「!アレクシス、私なら大丈夫。アレクシスが寒くなってしまうわ。」


エレーンに上着を被せ、ずれない様にと首もとを押さえたまま、くすっと笑う。何だか懐かしいやり取りを思い出したのだ。


「アレスでの夜会でもそんなやり取りをしたな?」



言われて、エレーンも思い出していた。


あの時は、アレクシスに対してもっとずっと恐縮していた。まさか、手を繋いだり、肩を担ぐ日が来るとは思いもよらなかった。


「あの時も、今もエレーンは変わらず俺を気遣ってくれる。でも、」


アレクシスはにっこり笑う。


「今の方がずっと可愛いな。」


「?!」


か、可愛い?!今彼の口から可愛いって聞こえたけれど??


突然の事にエレーンは言葉が出ない。どう考えてもアレスの時の方が今よりずっと飾り立てていたのに?城に戻ってビアンカから施された化粧も落としてしまったのに?昼はドレス姿を褒めてくれたり…本当に今日のアレクシスはどうしたと言うのだろう??


一人パニックになりながら、目の前のアレクシスを見る。


「エレーン……」


そう言う彼の目はとろんと据わって、顔がどんどん近付いて来る。首もとは上着を掴まれたままで身動きが取れない。


「えっ?あの、アレクシス??待っ……!」


予想外の事態に、エレーンはぎゅっと目を瞑り、咄嗟に下を向いた。この程度、いつもの自分なら手を払う事は可能なのだが、パニックによりそんな事など思いもつかなかった。


その刹那。


ずしりと肩に重みが掛かる。エレーンが怖々目を開けると、アレクシスが肩に頭を乗せていた。


「もう限界かも……吐きそう」


「ええっ?!待って待って!!……誰かー!!」




エレーンの叫びが、城中に響いた。

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