2話

アレス城は規模こそさほど大きくは無いが、内装は品良く、しかし要所要所豪奢に造られている。さすが商都と言うべきか、ウェリントン国伝統的な建造の中、国内外の良いとこ取りな調度品が来城者を楽しませる。エレーンとて、いつもは実家と違うこの城の造りに、来訪する度心踊らせていたものだったが、今日は少しも気に止める事は無かった。



蝋燭に灯された、薄暗い長い廊下の突き当たりまでアリーシャに手を引かれ(引っ張られ)終始俯いていたエレーンだったが、不意にアリーシャが手を離した所で咄嗟に顔を上げた。エレーンに向かって微笑む姉のその仕草が余計にいよいよ…な感じを醸し出して、自然にゴクリと喉が鳴った。


「謁見の部屋では無いのですね。てっきりそちらに向かうのかと…。」


エレーンは何度もこの城へとお邪魔した事が有るので、思っていた部屋と違い、少し戸惑った。既に予想外な展開が頭を支配していると言うのに、これから降りかかる更なる大事に、溢れる不安感を隠さず姉を伺う。


「もう遅い時間だもの。それに女性の身支度は長いと相場が決まっているのよ?待って、謁見して、それから食事なんて皆空腹で倒れちゃうでしょ?」


アリーシャは小首を傾けて笑った。姉の余裕な姿を横目で見ながら、あわよくば謁見だけでおいとましたかったのだが、食事も追加され頭の中はどんな挨拶を述べるか、何を話せば良いのか、それだけがぐるぐると渦巻いていた。


この広間に辿り着く廊下の距離では文章がまとまらなかった。………まあ、廊下は短くはなかったけれど。

その上、食事まで一緒なんてどんな会話をすれば良いのか検討も付かない。まだパーティーの方がそそくさと退散出来ると言うのに。



無言で思索している妹を他所に、アリーシャは軽やかに目の前の扉をノックする。返事の代わりに扉が部屋の内側へゆっくりと開かれた。


広い部屋の中心に脚に彫刻が施された大きな長テーブル。奥に黒髪の少年が座り、右隣にはウィンチェスト伯爵、テーブルを挟んで伯爵の向かいに見事な白髪の老紳士が座っているのが一瞬見えた。が、エレーンは直ぐ下を向いた。


隣の姉が入室するのを下を向いたまま確認し、やや後ろに付いて行く。


「お待たせ致しました。殿下。私の妹、ラ・マルシュベン公爵の末娘、エレーン・ラ・マルシュベンでございます。」


アリーシャは深くお辞儀をして見せた。


「御初に御目にかかります。殿下。エレーンと申します。」


まだ顔を上げられず、エレーンはもっと深々とお辞儀した。さあ、これから口上を述べなくてはならない。


「本日はお会い出来ました事…」


「まあまあ、堅苦しい挨拶は無しとしましょう。今日はエレーンどのも試合でお疲れでしょうし。そうですな?殿下。」


老紳士が立ち上がり、話しかけた黒髪の少年に体を向ける。しかし、返事が無い。

少年は座ったままエレーンを凝視している。老紳士は怪訝な顔をしたが、一瞬の内にニヤリといたずらっぽい笑顔に変わった。


「殿下、エレーンどのがあまりに麗しいからと言って、挨拶もしないおつもりですかな?」


エレーンは聞き間違えたかと慌てて顔を上げた。家族の甘やかした可愛がりは別として、麗しいなどこの十七年間誰からも言われた事が無い。思わず少年を見つめる。


ばちりと、いきなり視線が合ってしまった。エレーンはまるで火花が散るかと錯覚した。澄んだ青い輝きが、自分を捉えている。暫く少年はこちらを見ていたらしい。逸らしたら失礼だろうか?大きな青い瞳に見つめられると、何だか自分の慌てぶりが恥ずかしくなってくる。


「じい…何をいきなり…」


少年は老紳士をジロリと見返したが、心無しか頬がうっすら赤い様だ。少年は誤魔化す様に大きく咳払いをして見せた。それを楽しげに見ていた老紳士は、立派な顎髭を撫でながら、おどけた仕草をした。


「おや、外れましたかな?おかしい、じいの感は当たるのですぞ。」


「うるさい。」


「おお怖い怖い。いや、失礼致しました。エレーンどの、こちらはウェリントン国第二王子、アレクシス・レイル・エオリメンリック・ウェリントン殿下にございます。私は王子殿下の側役を勤めております、ロバート・オルクと申します。本日は急なお呼び立て、誠に申し訳ない。」


ロバートと名乗った紳士は、軽く頭を下げた。見事な白髪を後ろで一つに結わえ、薄いグリーンの瞳が印象的だ。先程のおどけた仕草にもどこか滲み出ていたが、所作が一つ一つが滑らか且つ綺麗で、さすが王族の側近と言うところだろう。


「いいえ、お待たせ致しました事、大変失礼致しました。」


エレーンは直ぐ様お辞儀し直した。すると、おもむろにアレクシスが立ち上がった。


「そんなに畏まらずとも良い、俺の方こそ疲れている所呼び立てしてすまなかった。昼の試合を見ていたのだが、是非本人と話しをしてみたくなったのだ。戦いぶりも素晴らしかったが、それが女性だと聞いて更に興味が湧いた。」


「殿下、俺ではなく私ですよ!」


「じい!そんな訂正は後で良い!」


慣れているのか、本当に注意しているのかポンポンと突っ込み合う二人のやり取りが軽快で可笑しい。

先程から我慢していたが、顔を赤くして怒るアレクシスが面白く可愛く見えて、エレーンは遂に固く閉じていた口元が決壊してしまった。口元を押さえ笑いを堪えるが、今度は肩が震えてしまう。不味い、これは失礼過ぎるだろう。


どう乗りきろうかと思っていると、隣から清々しい笑い声が上がる。


「ぶっ…で…殿下、今日は止めましょ~?威厳の有る話し方とかもう必要無いのではありません?」


「威厳の有る…?」


エレーンはまたちらとアレクシスを盗み見た。また目が合ったのに直ぐに視線を外された。が、言い逃れ出来ない程顔を真っ赤にして、まだ幼さが残るアレクシスは乱暴に椅子に座り直した。


「アリーシャ、殿下に失礼だろう。」


見守る姿勢を見せていたウィンチェスト伯爵も、さすがに困り顔だ。大柄で、焦げ茶色の短髪と髭が、領主たる威厳を醸し出す。が、妻にはやや甘いのかたしなめる程度に止まった。


「良いんだリチャードどの。そろそろ気安い話し方は改めろと周りから言われてるから、視察を機にやってみたけど正直慣れない。肩が凝る!今日はこの面々しか居ないんだ、崩して行こう。お二方には、一日付き合わせて申し訳無かった。」


リチャードとアリーシャは顔を見合せ微笑んだ。


「では、直ぐに夕食に致しましょう。そう言えば、ルーカス様がまだいらっしゃらない様ですが…。」


「あいつは良いんだ。無視して食べよう。持って来てくれ。」


まだ見ぬ御仁を余所に、アリーシャとエレーンが席に着いたその時だった。突然ノックも無しに広間の扉が開いた。


「いやー!遅れてしまって申し訳無い!試合で疲れて寝てしまったみたいで!」


あっはっはっと笑いながら、背の高い若者はロバートの隣に座る。顎下辺りで揃えられた、綺麗な白みがかった金髪を靡かせ、周囲を見渡す紫の瞳が珍しい。


「これ、初めての方も居るのに失礼でしょう。挨拶しなさい。」


ロバートはジロリと若者を睨んだ。

注意された若者は苦笑いしながら頬を掻く。直ぐに、にっと笑顔になってエレーンに視線を移した。


「初めまして!ルーカス・ヘンベルクと申します。話題の飾り毛剣士がこんなに可愛い女の子なんて嬉しいやら恥ずかしいやらの二十四歳です!以後お見知りおきを。」


テーブルを挟み、握手を求められた。届かない距離では無いが、エレーンは余りの勢いに驚いてぽかんとしてしまった。


「こらこら、こんな所で…。良いからもう座りなさい。エレーンどのも気にせず座って下さい。全く、坊の世話係のはずが何でお前の世話もする羽目になってるんだか、私は。」


「じい、坊とか呼ぶな。」


「えー、だってそりゃ可愛い女の子となら隙あらば握手したいに決まってるじゃないですか。殿下もそうでしょ?」


「なっ…おまっ…!」


一瞬でアレクシスの顔が真っ赤に染まる。


「え~?殿下何ですか?聞こえませんよ~?」


ルーカスはわざとらしく耳に手を当てて、小柄なアレクシスに屈んで見せた。


「いい加減にしなさい!……失礼。」


ロバートはこほんと咳をした。二人でのやり取りも軽快で可笑しかったのに、ここに来て新たにルーカスが投入されての三人のやり取りは、まるでエレーンの実家での家族のやり取りを見ている様な気安さで微笑ましい。あんなに頭を支配していた緊張は、どこかへ飛んで行ってしまった。



それからの食事会は、心配していた会話の内容も只の杞憂に終わり、アレクシスが視察を機に態度を改めて来いと兄王子に言われていて正直面倒だと溢したり、ルーカスが特別枠で大会に出場している事、王子の側役の前は西の都に近衛隊二番隊副隊長をしていた事等、寧ろエレーンが口を挟む間もなく話が次々と王子側から発せられて、大いに盛り上がった。


ロバートは息子が家督を継いでから王城での殿下付きの側役に呼ばれ、もう十年以上一緒に居ること。孫が騎士を目指している事など、話しは尽きる事が無い。 もちろん、エレーンの大会での活躍なども話題に上がり、食事会を過ぎて食後のお茶にしてからも話しは続いた。




談笑する中、ふとアレクシスがカップをテーブルへ戻し、エレーンに向かい真剣な面持ちで話し始めた。


「突然の事で驚くとは思うが、俺はエレーンどのにこの大会が終わったら直ぐに王城へ入城して欲しいと思っている。」


アレクシスの申し出に、その場の一同は一斉に注目した。


「殿下…さすがにいきなり求婚は早すぎますよ…。相手の意思も確かめないで…。」


ルーカスは、本気なのか冗談なのか真顔だ。


「違う!」


アレクシスは慌てて否定するが、エレーンには状況が飲み込めない。入城?まさか遊びに?そんな訳は無いのだが、ついつい考えが暴走する。


「俺の側近を勤めて貰いたいんだ。エレーンどのの腕なら、充分こなせると思う。」


じっとエレーンを見つめる。その姿勢には、冗談等微塵も感じさせない。


「女性の側近はまだ王城では居ない。騎士や専門医は少ないながら女性も居るけど、王族の専属で補佐をしながら騎士も勤められる人材は居ないんだ。だから、男だらけの職場で不自由をさせるかも知れない。だけど直ぐに改善策を立てるし、不満はどんどん言って欲しい。」


「…やっぱり求婚じゃあないですか。」


ルーカスは懲りずにまた話しの腰を折る。


「ルーカス…、いい加減にしろよ、怒るぞ。」


「もう怒ってるんじゃないですかね。………っと、分かりました。」


さすがに無言で睨まれ、ルーカスは仕方無いように黙った。すかさずロバートがルーカスを肘で小突く。


「こんなルーカスでも出来るんだ。どうかな?」


アレクシスの爽やかな笑顔の裏で、ぐぇとルーカスの喉が鳴ったが、誰にも聞こえてはいない様だ。


エレーンはあまりの展開に目が回る。こんな名誉な事は無いが、まさか自分が?他に強い人が沢山居ると言うのに。それこそ自分には荷が勝ち過ぎてしまうのでは無いか。


まとまらない思考を抱えながら、此方を向いているアレクシスを見返す。その真摯な瞳を見つめ、しばらく間を置いて今日一番の失礼だろう言葉を口にした。無意識に手に力が入る。


「殿下…私には勿体ないお言葉です。このような名誉な事、人生で有るか無いか…。いえ、きっともう二度と無いのでしょう。しかしながら、私には荷が勝ち過ぎます。私は地元で近衛兵を勤め、今日の大会に出場するのをやっとの思いで果たせました。何も持たない名も無い一剣士に過ぎません。その様な者、殿下にとって役立つ所かお邪魔になってしまいます。」


話しながら漠然とした考えがまとまった。視線はアレクシスをただただ真っ直ぐに捉える。初見とは違う緊張感が、エレーンの体を強張らせる。


「…それは断る、と言うことだろうか?」


エレーンの話を黙って聞いていたアレクシスは、只でさえ大きな目だと言うのに、更に大きく眼を見開いている。


「…このような御無礼、どんな罰でも受け入れます。ですが、これは私一個人の事。家は関係の無い事ですので、お許し下さい。」


言ったが早いかエレーンはすぐさま頭を下げた。アレクシスはややうつむきながら、肩を震わせている。その様子に、そこまで怒らせてしまったのだろうか?と不安が込み上げ、額に汗が滲むのが分かる。先刻、姉に王子殿下との謁見を告げられた時よりも汗がじわりと感じられて、肌が粟立つ。しかし、どんな返事が来ようとも、覚悟は出来ている。


すると、震えていたアレクシスは突然高らかに笑ったのだ。


「あー…夫人の言った通りだ!なんと生真面目かつ謙遜過ぎる姿勢!確かに謙遜は時に行動の邪魔をするな!」


腹を抱えて笑うアレクシスを、エレーンは取り繕うことも忘れて怪訝な顔で見ていた。アリーシャも笑いを堪えながら、戸惑う妹の手を取った。


「殿下から、入城の相談をお受けした時にね。エレーンは絶対断りますよって、殿下に言っておいたのよ。だって、貴方は何でも頭で考え過ぎて慎重になって自分を押さえちゃうんだもの。それでも、殿下は貴方に打診した。どうしてだか分かる?」


思わず首を振る。自分のした事はそんなに可笑しい事だっただろうか?確かに王城勤務は、剣士たる者誰もが夢見る大抜擢。断る者など一人も居ないかも知れない。


「それでも、エレーンが来てくれたら良いな~と思ったからに決まってるでしょ?」


アリーシャはまだニコニコしながら、妹の頬を撫でた。しかしエレーンの表情は硬い。でも…と口にしようとした矢先に、これまで黙っていたロバートが話しかけた。


「エレーンどの。貴方はきっと心優しく、殿下のお立場を案じて下さったのでしょう?ですが、それよりも貴方の事を考えなさい。これを受ける事で、貴方は何か得るものが有るのではないかと、私は思いますよ。」


「私自身…。」


エレーンは、広間の皆の顔をゆっくりと見渡した。最後にアレクシスを見つめる。するとアレクシスは静かに息を吐いたかと思うと、パンっと自身の膝を勢い良く叩いた。と同時に立ち上がる。


「分かった。名も無い剣士だから俺の側役が出来ないと言うのなら、名の有る剣士になれば良い!俺の側役に足る腕前だと。この大会で入賞したら、即採用な!順位は問わないが、上を目指して頑張ってくれ。」


「それは良い案ですな、分かり安くて。」


アレクシスとロバートは顔を見合せにかっと笑った。


「えー!俺は今のままのエレーンちゃんでも可愛くて充分すぎるくらいだし、即採用で良いと思うんだけどな~。でも、まだ戦う姿見れて無いからそれはそれで良いかも~。」


頭に腕を回して寛ぐルーカスに、アレクシスは炎の様などす黒い殺気を送る。……様に見えた。これが目で殺す…と言うやつか。年の頃に似合わず、なかなかの迫力だ。


「えっあの…?」


予想だにしない展開に、エレーンは一人置いてきぼりだ。これは断った事が無かった事になっている??


「?、そう言ったんだろう?何も持たない一剣士だから出来ないと。それとも別に理由が有るのか?この大会で入賞なんてなかなかの名誉な事だし、これで俺は有名剣士を側に置けるし、エレーンも入賞で箔も付くし良い事だらけだと思うんだけど。」


すっかりこれが素なのだろう、アレクシスはホクホク嬉しそうだ。


「それでは、入賞しなければこのお話しは無かった事に…?」


こちらとしては、明日の試合だって一勝出来るか不安なのに、なんだってこんな事に。これでは更に重圧では無いだろうか?困惑しているエレーンに、向かいのルーカスがパッと視線を投げた。


「…ふーん?君は、殿下の申し出を断りたいが為に手を抜くと言っているのかな?」


登場してからずっとふざけていたルーカスが、顔は笑っているのにも関わらず、その背後に怒気を纏って自分を見据える。雰囲気が違い過ぎて、エレーンは思わず身がすくみそうになるのを、気力で堪えた。


「!いえ、この大会はずっと出場したくてやっと叶った私の目標なんです!手を抜くなどとそんな愚行、誓って致しません!」


エレーンはルーカスに向かって慌てて答えた。そうで無くとも自分だって剣士の端くれなのだ。全力で向かうに決まっている。とは言え、狼狽えていたにしても馬鹿な言葉を発した自分が腹立たしい。



「では決まりだな!」


そんなエレーンの葛藤等、露も知らないアレクシスの今日一番だろう爽やかな笑顔を受けて、エレーンは返す言葉が出て来なかった。





お茶会も夜も更けて解散となり、エレーンは部屋へと戻った。アリーシャも一緒に暫し居てくれる事になり、二人はソファへと腰掛けた。


「アリーシャ姉様…どうしましょう…」


アリーシャは未だ戸惑い気味なエレーンの頭を撫でながら答えた。


「突然にこんな話しでエレーンには本当に悪かったわ。ごめんなさいね。でも、姉さんは貴方がこの話しを受けるに足る腕を持っていると思ってるのよ。」


「でも、父様や兄様はこの大会出場だってまだ早いと言っていたのよ。それは私の技量が足りないと言う事でしょう??」


アリーシャは今にも泣き出しそうな妹をそっと抱きしめた。


「……それは私がこの大会に出場して、あっと言う間に嫁いでしまったからだわ。お父様達は貴方が可愛いくて可愛くて側に居て欲しいからそんな事言うのよ。私だってエレーンの事大好きよ。でも、ただ守るだけではなく選んで欲しいの。」


「選ぶ……?」


「そう。貴方にはこの先何をするのか何処へ行くのか貴方の持てるもの全てを生かして自由に選ぶ事が出来るのよ?こんな素敵な事を止めるなんて勿体ない!地元に留まると選択するのなら、止めない。……でもそれが、お父様達を助けたいとか、領の皆を置いて行けないとか、そんな理由では貴方の未来が止まってしまうと思うの。お父様達はこれまでやって来れたのだし、皆だって…マルシュベンの人達は皆強く逞しいのよ?良い機会だわ、自分の事を考えてみたらどうかしら。何がしたいとか、どう在りたいとか。」


「どう在りたいのか…。」


「とにかく、先ずは試合を頑張って見る事からね。後2日有るのだし、もう休まないと明日に響いてしまったら大変!きっと2日やってみたら考えがまとまるかも知れないわ。」


アリーシャはおもむろに立ち上がり、部屋の扉へと向かう。そして振り向き、


「そうそう、貴方、試合だからって考えながら戦ってるでしょう?相手が、例えば盗賊とか海賊だとかで捕らえなければいけない…って普段自分がしてる仕事の感覚で挑んだら、姉さんは良い線行くと思うんだけどな~。ね?それじゃ、お休みなさい。」



出て行く姉を見送って、エレーンは大きなベッドへと向かい、そのまま勢い良く倒れこんだ。今日は色々有り過ぎて、一人になった途端どっと疲れが押し寄せる。試合も勿論大きな要因だったが、思考の端に王子殿下の嬉しそうな笑顔がちらついていた。



「普段している仕事…。」



ぽつりと呟いたかと思うと、直ぐに眠りへついた。考えるにも、今日は心身共に疲れ過ぎた様だ。

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