第16話 盗賊殲滅
レイアから《
潜伏と言ってもマントのフードを被り、露天で買った白いお面を装着し《隠密》を発動させて柵に寄りかかっているだけなのだが。
皆が寝静まり街が静寂に包まれる時間、領主邸の裏門から鼠色のコートを着た男が一人早歩きで出てきた。
真一はその男の後をそっとつけていく。
コートの男が裏路地に行くと、そこには武装した六人の男たちがいた。男たちは皆いかつい容姿をしており、いかにも荒くれ者といった様相だ。
「仕入れはまだか」
コートの男が口を開くと、男たちの中でも一際体格のいい男がニヤニヤしながら一歩前へ出た。
「すいませんねぇ……先日俺らのお仲間が大分殺られたこと、ご存知だよな? そのせいでこちらも大分損害を受けててなぁ。中々良い
「……先日もそうやって金をせびっていただろう。あまり調子に乗ると討伐隊が出るぞ?」
「おぉ怖ぇ怖ぇ……だが俺らも金がねぇとやってけねぇんだよなぁ。俺らが潰れちまったらお宅らも困るだろ?」
「……代わりはいくらでもいる」
「ほぉ、本当かい? ここらに俺らほど、
「チッ……分かった、今回だけだぞ。こちらは少しでも早く商品が欲しい。明日の夜、運び込めるか?」
「はっは、賢明な判断だ。明日の夜だな、分かった。だが俺らが納得できる対価がなければこの話は無しにするからな、きちんと用意しておくんだぞ。じゃあな」
「……ゴミどもが……」
笑いながら立ち去る男たちの背を忌々しげに睨みつけ、コートの男は顔を歪めてひとりごちた。
恐らくこの男たちが盗賊団員であろう。
領主は最初は見逃すことを条件に奴隷を融通させていたが、徐々に調子に乗って金を要求され出したのだろう。
しかし領主は奴隷を我慢することが出来ないため、切ることもできない状態になっていると。
真一は領民の税金を盗賊団に貢いでいるという事実に呆れと怒りを感じた。
男たちは街の北門から、北の森林地帯に入っていった。
ちなみに門番は素通りである。明らかに怪しい人物を見て見ぬふりとは、恐らく領主の手が入っているのだろう。
真一は男たちの後を少し距離をとって追跡していく。
男たちは中々身軽な動きで森林の中を軽々と移動しているが、ついていけないほどの速さではなかった。
街を出て三十分ほど走ると洞窟に辿り着き、入口では三人の見張りが談笑していた。
男たちは見張りの男と少しだけ話をして中へと入っていく。
真一も構わずそのままついて洞窟の中に入っていく。
堂々と後について洞窟に入っても《隠密》の効果で誰にも咎められることはない。
洞窟は中々に広く、アリの巣のようにいくつかの分かれ道があった。
真一は帰りに迷わないように曲がる度に壁をナイフで引っ掻いて印を付けていく。
そうして辿り着いた部屋には、左右に女性を抱いてソファにふんぞり返っている男がいた。
女性は恐らく人族であり、首に装着されている首輪以外は生まれたままの姿である。
また左右に抱いている人以外にも床に座り込んでいる女性が何人かいた。
「ボス、只今帰りました」
「おう。豚領主からふんだくれそうか?」
「明日、商品と引き換えに金を持ってくることになってます。少ないと商品は渡さないって言っといたんでまぁまぁ持ってくると思いますぜ」
「よーし、よくやった。あの豚からは搾り取れるだけ搾り取ってやれ!」
「へい! では失礼しやす!」
報告して去っていく男を見送り、真一はボスの部屋に留まった。
この男が黒狼団のボス、指名手配の盗賊ブラックウルフだろう。
真一の目的は、このブラックウルフであった。
ブラックウルフの首を冒険者ギルドに持っていけば、報奨金と共に冒険者ポイントを多く獲得することができる。
獣人族領へ渡るために必要なCランクへ上がるために、ブラックウルフの首でポイントを稼ごうと真一はここまで来ていた。
勿論、善良な市民を襲う盗賊の連中を逃がすつもりもない。
ブラックウルフの一番大きな特徴は、黒塗りの魔大剣『
黒曜牙は自在に剣の重さを変化させることができる魔剣である。
ブラックウルフの強力な腕力で重量加算された黒曜牙を振るうと、間合いにいる物は全て粉々になるという。
その恐ろしいまでの攻撃力で過去討伐に来た冒険者を幾人も屠ってきたそうだ。
ソファの後ろに立てかけてある黒い鞘に収まった大剣が恐らく黒曜牙だろう。
真一はブラックウルフを冷めた目で見つめ、背面から近づいていく。
そして容赦なく陽炎で素早く首を掻き切り、心臓を一突きした。
「――ゴファッ……ゴボッガボァ……」
ブラックウルフは口から血を吹き出し、ゆっくりと後ろを振り向く。
攻撃されたことで視認できるようになった真一の姿を見て顔を歪め、ドサリとソファから崩れ落ちた。
「――ッ!? キャ――」
隣の奴隷が叫ぼうとしたところを真一が口を押さえる。
「助けに来た。死にたくなければ声を出すな」
周りの奴隷達にそう声を掛けると、奴隷たちは涙目になりながらこくこくと頷いた。
真一はもっと過敏な反応をされてもおかしくなかったと思ったが、悲惨な奴隷生活で心が疲弊しており感情が乏しくなっているのかも知れないと洞察した。
「僕はこのアジトにいる盗賊を殲滅する。貴女達はここで待っていてくれ。あとで迎えに来て脱出させる」
奴隷たちは呆気に取られた顔をしていたが、気丈そうな女性が一人答えた。
「私達はこの部屋から出られないように隷属の首輪で縛られております。どちらにせよここから出ることは出来ません」
真一は奴隷たちの首輪をちらりと視る。
材質は白銀色の金属、ミスリル製だと思われる。
首輪の中に魔力が蜘蛛の糸のように張り巡らされており、この魔力で隷属させているのだろう。
「分かった、解除方法は盗賊を殲滅した後に考える。大人しく待っていてくれ」
奴隷たちは希望の光を灯した瞳で真一を見つめ、無言で頷いた。
真一は奴隷たちを置いて部屋を後にし、《観察眼》で魔力を探知して盗賊たちを狩る。
生き残りがいれば後々の禍根に繋がる可能性があると考え、一切の慈悲を掛けずに機械的に首を掻き切っていく。
やがて盗賊のアジトから、一人を除き奴隷以外の一切の魔力反応がなくなった。
その一人の反応はボスの部屋の奥から感じられるのだが、入口が見当たらなかった。
真一が壁や床を注意深く観察していると、床に不自然な溝に気がついた。
ちょうど大きめの板が嵌まりそうな……そう思い、真一はふと黒曜牙に目をやる。
黒曜牙を鞘から抜き、その溝に合わせるとピッタリと嵌まった。
真一が黒曜牙の重量を加算させると黒曜牙が徐々にめり込んでいき、カチリという音がした。
黒曜牙が何かと噛み合ったことにより仕掛けが作動し、裏の壁が九十度回転して奥の部屋が顕わになる。
そこには様々な武器や防具、そして金貨や宝石が所狭しと置いてあった。
そして中央には、猫獣人の少女が入れられた檻が鎮座していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます