第15話 魔技
「師匠、よろしくお願いします!!」
草原の真ん中で、真一はレイアに深く頭を下げた。
「お前、キャラ変わりすぎだろ……」
レイアはキラキラした瞳で自分を見つめる真一を見て、溜め息を吐いた。
真一が裏ギルドに加入した翌日、真一の本気の説得により早速レイアの無属性講習が開催された。
「まず魔力とは、生命力だ。人間は魔力があるから活動できるし、魔力がなくなれば意識を保っていることもできない。魔術とはそれを体外に放出し、属性に関する現象を具現化する技術だ。そして無属性魔力は、魔術として具現化することはできない。ここまではいいな?」
真一が真剣な表情で頷く。
「無属性は属性がないため、魔力を使っても魔術として発現しない。逆に言えば唯一、魔術として発現していない純粋な魔力の状態で扱うことが出来る属性とも言える。例えばこの石、普通に握っても壊すことは出来ないが、手に魔力を集中させると――」
レイアは手に握った石を握りつぶし、粉々にした。
「こうやって握力が強化される。これが無属性にのみ許された
「えっすごい」
真一は感動のあまり完全に真顔になっていた。
「しかし《
「つまり他の箇所から魔力を持ってくるため、他の箇所が弱まる?」
「ほう、気づいたか。その通りだ。どこかを強化するためには、どこかを弱くしなくてはならない。そのため体全てを強化するということも不可能だ」
真一にはその魔力の移動が《観察眼》で視覚的に視えていた。
レイアの手に魔力が集まると共に体全体を覆う魔力が減っていた。つまり手の魔力を増やしたのではなく移動しているだけだと解ったのだ。
「まぁ後は、純粋な魔力を放出して魔力の流れを乱す《
「なるほど。魔力を放出するぶん身体能力が落ちるから、近接戦闘を強いられる無属性使いには使い所が難しそうだな」
「あぁ、あたしも実戦で使ったことはほとんどない。が、いざという時の選択肢を増やすためにも、一応そういうものもあるってことを覚えておくことが肝要だ」
過去の無属性使い達が、魔術行使できないのでなんとか魔力の状態で運用できないかと考えたのだろうなと真一は思案した。
「とりあえず、まずは《
レイアはそういって腰に手を当てて説明した。
真一はそっと自らの手を《観察眼》で視る。
魔力を感じ取るどころか目に視えていた。
真一はその魔力が動くイメージを脳内に描く。
すると右手の魔力が増えていき、代わりに体全体の魔力が薄くなっていった。
(こんなので出来ちゃうのか)
真一はおもむろに石ころを一つ拾って右手で握りつぶした。
パラパラと地面に落ちてく破片をレイアが真顔で見つめる。
「は?」
「なるほど、これは便利だな」
「お、おま、それ……」
レイアは真一を指さして、プルプルと震えていた。
「うーん、二箇所同時強化とかは慣れるまで結構大変そうだな」
真一は両手で石を握りつぶして握力を確認する。
「ど、同時強化……お、お前、実は前から出来てただろ……?」
「今日初めて知ったけど……まぁ最初から魔力は感じ取れてたからな。動かすのはそんな難しくはない、だろ?」
レイアは真一の飲み込みの良さに冷や汗をかいた。
確かに魔力を感知することが最も難しくはあるが、そこから動かすのに至るまでも早くても一週間程度はかかる代物である。
アニメや漫画の影響で魔力の移動や身体強化へのイメージがほぼ完全に出来ていた真一には造作もないことであったが。
「ったく、シン、お前はほんとに何者なんだ……まぁいい。そこまで出来たら後はもう実戦訓練しかない。ちょうどいい、そのお粗末な体捌きの矯正も同時にできるしな」
「実戦訓練?」
「あぁ、模擬戦だ。実戦で攻撃する部位、防御する部位に即座に《
レイアは嗜虐的に笑みを浮かべ、手足をぷらぷらとして体をほぐしはじめる。
「さぁ、どっからでもかかってきな?」
それを見て真一は軽く柔軟運動をして、無手で構える。
「じゃあ、行くぞ!」
真一は地を蹴って間合いを詰め、強化した脚で蹴りを放つ。
レイアも同じく蹴りを放ち、真一の攻撃を軽くいなす。
そして真一に懐に入り込み、掌底を放つ。
真一は咄嗟に右手を挟み込みつつバックステップで交わす。
右手を強化していたのだが、魔力の移動が甘く、ジンジンと手が痺れていた。
「甘い! 攻撃が終わったらすぐに魔力を戻す!」
レイアは真一に食いつき、蹴りや拳を連打する。
なんとか避けたり受けたりする真一であるが、その攻撃速度にどんどん魔力の移動が対応できなくなっていく。
《観察眼》でレイアの魔力移動が視認できていなければとっくにやられていただろう。
そして遂に魔力がほとんど集められなかった脇腹に攻撃を受け、車に轢かれたが如く吹っ飛んだ。
「ガハッ!」
真一は地を転がり、脇腹を押さえる。
「魔力移動をスムーズに行えないと、こうなる。まぁ、初めてにしては上出来だがな」
レイアは上機嫌に笑った。
「明日から毎日この模擬戦で《
「わ、分かった。よろしく頼む」
真一は脇腹を押さえつつも、これからの期待に胸を膨らませて力強く頷いた。
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