第10話 冒険者ギルド
騒がしい室内に、カランカランと鈴が響く。
そこにいた粗野な者達は一瞬入口へ目をやったが、すぐに興味を失って視線を戻した。
真一はまっすぐ受付らしき所へ行き、そこに座っている受付嬢に話しかけた。
「すいません」
「ひゃっ!?」
受付嬢は何事かと左右に視線をやり、最後に真一を視界に捉えた。
「冒険者登録をお願いしたいのですが」
「し、失礼しましたっ! 冒険者登録ですね、かしこまりました。こちらの魔術陣に手を置いてください」
受付嬢は魔術陣が刻まれた板を取り出し、その上にカードを置いた。
「……これは?」
「これは自動で微量の魔力を吸収し、必要な情報をギルドカードに転記する魔術陣です」
真一は出来れば名前は偽りたいと思っていたのだが、仕方がないかと諦めた。
名前で国に位置情報がバレたりしたら面倒だと思ったが、大量の情報を一々精査したりはしないだろう。多分。
「はい。では置きますね」
真一が魔術陣に手を置くと魔術陣が淡く光り、最後にギルドカードが一際強く発光し文字が浮かび上がってきた。
「シンイチ・アサギリ様ですね。属性は……ッ!?」
「……なにか?」
「い、いえ! 失礼いたしました! これでシンイチ様はFランク冒険者として登録が完了いたしました。冒険者ランクはA~Fまでございます。クエストを完遂すると難易度によりギルドポイントを与えられ、ギルドポイントが一定以上貯まるとランクアップします。ただしCランク以上になるにはランクアップ試験に合格する必要がございます」
「分かりました」
「クエストはクエストボードに掲示しております。掲示と一緒においてある受注カードを受付に持ってきてくだされば受注完了です。受注カードがないクエストは受注数が一杯で受注ができないクエストですのでご了承ください」
「ご親切にありがとうございます」
真一は受付嬢にお礼を述べ、クエストボードを覗いてみた。
他種族領への移動に必要なCランクへ上がるために、ギルドポイント効率の良いクエストを探す。
真一は、沢山のクエストの中に最高のクエストを発見した。
それはスライム討伐の常設クエストで、スライムの魔核の個数に応じて報酬とギルドポイントが貰えるというものであった。
後で売り払おうと思っていたスライムの魔核にお金だけでなくギルドポイントまで付いてくるなんてお得すぎる!
真一は受注カードを一枚とってそのまま受付へ戻った。
「この街までの道中に入手した素材でクリアできるクエストがあったのですが、そういうのは良いのでしょうか?」
「スライム討伐クエストですね、これなら問題ありません。魔力回復薬や簡易的な魔道具の材料を収集することが目的のクエストですので、入手場所は問いません。しかし、スライムですか……」
「何か問題が?」
「いえ……ただ、スライムは魔術攻撃でないと魔核がとれないので……」
無属性で魔術を使えない真一がスライムの魔核を持っていることが解せないということであろう。
真一は受付嬢の言葉の意味を理解しつつも、特に何も答えずにスライムの魔核を集めた革袋を差し出した。
「これが素材です」
「……はい、それでは査定いたします。――ッ!? こんなに沢山!? ……えっ!? しかもゴールドスライムも混じっているじゃないですか!?」
「あぁ、確かに金色のスライムがたまにいましたね」
「い、いや……ゴールドスライムは非常に臆病で動きが俊敏なので、人が視界に入っただけで即座に姿を消す魔物なのですが……」
臆病でも察知能力が低い魔物なのか、真一は影の薄さで全く気づかれることはなく苦労せずに狩れていたので全く実感がなかった。
「そうなんですね、運が良かったなぁ」
「ゴールドスライムを五匹も狩るのは運が良かったで済まされないと思うのですが……」
「それより、査定はどうですか?」
「それより!? ……いえ、そうですね。冒険者の戦い方に深く踏み込むのはご法度でした、失礼いたしました。こちらが報酬金になります。またギルドランクがEにランクアップいたしました、おめでとうございます」
報酬金を確認すると、五十万ゴールド以上入っていた。
ちなみにゴールドは、日本円と同程度の価値である。
ちなみにあの宿は一泊八千ゴールドである。二ヶ月は泊まり続けられる金額だ。
「思ったより報酬が多いのですね」
「スライムの魔核は魔術攻撃でしかとれないので、魔力量的に一日でどれだけ多くても十個くらいしか集められず常に品薄なんです。またゴールドスライムの魔核は高額で買い取りされます」
「なるほど、ありがとうございます」
「あ、ちなみにスライムの討伐はFランククエストですので、Eランクからは得られるギルドポイントが減りますのでご了承ください 」
真一はスライム討伐だけでCランクまで上げられるのではないかと思ったが、そう甘くはなかった。
真一は改めてクエストボードでクエストを確認する。
その中から真一はクリアリザードの討伐に注目した。
森のなかにクリアリザードが現れ、木こりから数名の死傷者が出ているそうだ。
通常木こりはそこそこの筋力と索敵能力を持っているものだ。
しかし体を透過させ気付かれずに獲物を捕まえることができるクリアリザードは見つけるのが至難の業である。
下手に索敵能力があるものだから慢心し、逆に不意を突かれてやられてしまったようだ。
クリアリザードは戦闘能力自体はそこまで高くはないのだが、とにかく見つかりにくいためクエストランクはCと高めである。
真一は《観察眼》でどうにかなるだろうとクリアリザードの受注カードを持って受付に行く。
「クエストの受注をお願いします」
受付嬢に受注カードを渡すと、不安げな表情で真一の顔を見た。
「こちらはCランククエストとなります。二ランク上のクエストですとギルドからの許可を得る必要があるのですが……」
「どうすれば許可をいただけるのですか?」
「その人の強さや今までのクエスト成果から判断しております。シンイチ様の場合は冒険者登録したばかりですしスライム討伐しかクリアされておりませんので……クリアリザードは戦闘力は低いですが不意打ちを食らってしまうので、一定以上の耐久力がないと危険ですよ」
「信頼に足らないということですかね?」
「そういうわけではありませんが……許可を出す判断材料が少ないということです」
「索敵能力には自身があります。不意打ちを食らう前に見つければ問題ありません」
「判断材料がないので……」
なるほど、と真一は顎に手を置き思案した。
さっきギルド登録したばかりの強さもよく分からない新人に二ランク上のクエストは出せない、というのは妥当な考えだろう。
「うーん……あぁ、そうだ。受付の裏に、三人の戦闘力の高い冒険者かギルド職員がいらっしゃる、ということが分かる程度には索敵能力が高いですよ」
「ッ!?」
「こちらからは絶対に見えないような仕切りがありますね。恐らく簡単に内側から飛び出せるような構造――」
「お、お待ちください!!」
「?」
「な、なぜそれを……」
受付嬢はカウンターに乗り出して小声で話しだした。
恐らくギルドの機密なのだろう、あまりペラペラと話して欲しくなかったようだ。
「気配で分かりますよ」
「気配!?」
「はい。いくら姿が見えなくても気配はします。クリアリザードの姿が見えなくても問題はありません」
実は気配なんて真一には分からなかった。
《観察眼》の力によるものだ。
真一の試行錯誤の結果、《観察眼》では真一から半径五十メートル程度の範囲であれば障害物関係なく魔力を視ることができるようになっていた。
真一は安全確保のため、ギルドに入ってからまず建物の構造を確認するだけでなく、建物内にいる魔力を多く有する者の位置や人数の確認を行っていた。
そこで受付裏にいる護衛達の気配に気づいていたのだ。
「……分かりました。確かにシンイチ様の能力はクリアリザードの討伐に適しているようですので、クエスト受注の許可を与えます。ただしくれぐれも無理は禁物に、危なくなったらすぐ逃げてきてくださいね」
「ご心配、ありがとうございます」
真一は無事クリアリザードの討伐クエストを受注し、冒険者ギルドを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます